生意気後輩野球部マネは帽子をとらない
「おい、雉真。お前帽子とれよ」
「……頭下げてるじゃないスか」
キャップのつばを掴み、ちょこんと頭を下げた雉真優を見て犬塚真は眉間に皺を寄せる。
また始まったと野球部の面々は苦笑している。
「グラウンドは神聖な場所なんだよ。なのに、お前は……」
「あの、犬塚君。優ちゃん、先に準備で一度帽子とってたから、ね?」
美人マネージャーと評判の大桃太鳳が止めると、犬塚は戸惑いを見せる。
「そうなのか? ……俺が見てる時は帽子とらずに入ってるから」
「センパイが悪いんじゃないスか」
「お前なあ!」
犬塚が優に詰め寄ろうとすると、また大桃が割って入る。
「もう練習始まるから、ね?」
「お、おう……」
「大桃先輩のいう事は聞くんスね」
「おねがいしあーすっ!」
優の呟きをかき消すように犬塚は大声で叫ぶ。帽子をとって。
犬塚自身も自分が古いタイプの体育会系だと分かっていた。
それでも、野球ができる場所や物、人に感謝し礼を尽くしたかった。
そんな犬塚にとって優は理解不能な後輩だった。
先輩の犬塚には失礼な口を利く。
だけど、大桃には丁寧に話しかける。
犬塚がタオルとって欲しいと言えば投げつけてくる。
だけど、野球道具の管理はしっかりしている。
部活中、帽子をとったところを犬塚は見たことがない。
だけど、皆は見た事あるという。
なんだったら、顔もほとんど見てない。
だけど、皆可愛いという。
それに、小学校の時は仲良いチームメイトだったはずなのに、中学に入り優は犬塚を露骨に避け始めた。
だけど、同じ高校の同じ野球部にマネで入ってきた。
分からない。
それでも、犬塚には許せない事はある。
「おい、猿田監督きたぞ! しあーす!」
「しあーす!」
誰もが帽子をとって挨拶する中、一人だけ帽子をとらない人間が犬塚の視界に入る。
近くにいた優だ。
「おい、雉真! 監督には」
「あー、犬塚。いい、オレから言っておくから。練習続けてろ」
「わ、わかりました……」
犬塚は帽子を被りなおし、練習へと向かう。
その姿を見送った優は帽子をとって素早く頭を下げる。
「あざーす……」
猿田は近くにいた大桃と苦笑を浮かべ合う。
「お前な、そんななるなら近づかなきゃいいのに」
「お義兄ちゃん、うっさい」
優が猿田を蹴るとそれを見つけた犬塚が走ってきている。
「別にいいんだけど」
猿田は犬塚を手で制し、呟く。
「耳も真っ赤だぞ」
再び猿田を蹴ると真っ赤な顔の犬塚が走って来ているのをちらりと見て優は帽子を深く被りなおした。
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