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魔法騎士団の姫役

 今日は学園がお休みの日。

 ちょっぴりお寝坊しようと思っていたら、エスメラルダ様がやってきていつもより早く目覚めることになった。


「起きなさい!魔法騎士団の公開練習を観に行くわよ!」


 そういえばそんな約束してたっけ。

 顔を洗い、白いワンピースに袖を通す。


 このワンピースは、私がカイに会いたくてずっと行動していたのを知っていた家族が、とうとう同じ魔法学園に通えることになった事のお祝いに贈ってくれた服である。

 これでデートに誘いなさいと言われたが、今の時点で実現する日は遠そうだ。


 今日初めて着てみたが、柔らかな生地が肌に気持ちよく、とても心地が良い。

 公開練習は外で行われるだろうから、日除けにツバの広い帽子をかぶった。


 部屋から出ると、エスメラルダ様が用意した馬車まで速足で歩く。


「早めに行かないと、いい観戦ポイントがとれないのよ!」


 エスメラルダ様は10センチくらいありそうなヒールをカツカツ鳴らしながら歩くのに、私と変わらないスピードで驚いた。


 馬車ではエスメラルダ様の推しトークに付き合う。

 今まで誰にも気づかれないようにしていたため、話せる人が居らず、抑えていたものが爆発したらしい。

 おかげでランハート様の必殺技についての小テストでは満点がとれそうだ。ほとんどがドカーンズババーンみたいな擬音だったけど。



 着いたのは王宮の魔法騎士団の場所ではなく、東の森だった。

 ここで実地訓練をし、ファンサービスとして守られる姫役などもさせてもらえるのだ、とエスメラルダ様が興奮して教えてくれた。


 かなり早くに到着したので、人はまだ少ない。

 エスメラルダ様の言う特等席に私たちはシートを敷いて座った。


 そろそろ魔法騎士団の演習がはじまるーーという時に、声をかけてきた人がいた。

 水色の髪に青い瞳、今日は軍服に身を包んだ煌びやかな第三王子のアレス殿下である。


「見た顔だと思えばお前か、ロザリア。それに……」


 ふとエスメラルダ様を見るとなんだが様子が変である。

 さっきまであんなにはしゃいでいたのに、帽子をしっかりと目ぶかに被り、身体を三角に折りたたんで静かにしている。


「義姉上。また性懲りも無く観にいらしたのですね」


 びくりとエスメラルダ様が肩を揺らした。

 そういえばアレス殿下が苦手とか言っていたような。


「兄上にバレるとただではすみませんよ。今度こそ監禁されるかも」

「やだあ、お願いアレス!内緒にして!!」


 エスメラルダ様がアレス殿下の肩を掴んでがくんがくん揺らしている。

 私は助け船を出した。


「エスメラルダ様に私がお願いしたのです。うまく特殊能力が扱えなくて、魔法を使っているところを見れば少しでも理解できないかなって」

「はっ……!そ、そうよ。ロザリアのために来たのですから、なーんにも疾しい気持ちなど、これっぽっちもありませんから!」


 さっきまでとは打って変わり、エスメラルダ様は堂々と胸を張った。

 年齢のわりに大きな胸がばいんと突き出されて羨まし……いや、なんでもない。


 しかし、そんな言い訳がアレス殿下に通じる訳もなく。


「ならば勿論、本日の姫体験はご遠慮なさるのですよね。あくまで友人の魔力の扱いの勉強にいらっしゃったのですから」

「くぅう〜〜っ!」


 エスメラルダ様はしぶしぶ頷いた。

 美人の顔が崩れ、ほんっとうに渋い顔だった。


「それとロザリア。特殊能力の扱いについては講師が必要だと俺も考えていた。今度学園のある日に、放課後迎えに行くので待っていろ」

「本当ですか!?助かります!」

「……義姉上を頼んだぞ」


 そう言うとアレス殿下は騎士団の中心に戻っていった。

 ほどなく、姫役募集の声があがる。


「こうなったらロザリア、貴女が姫を務めなさい。そうしてどんな風だったか私に仔細余す所なく伝えるのよ!ほら手をあげて!」

「は、はいっ」


 エスメラルダ様の気迫に押されて手を挙げると、ほくそ笑んだエスメラルダ様が『隠蔽』を使って他の人の挙手姿を隠してしまった。

 ず、ずるい……!

 アレス殿下がそれに気づいて頬を引き攣らせている。

 しかし、募集をしていた一般の魔法騎士は気づかず、唯一あげられているように見えるだろう私の手をとった。


「ふふん。時期王妃に選ばれるほどの隠蔽能力よ。騎士団と言えど簡単に見破られはしないわ」


 すごいけど絶対使いどころ間違えてます……!


 魔法騎士に連れられて、護衛される立ち位置につくとランハート様が私に気づいた。


「あれっ、確か君はこの間の……」

「ど、どうも」

「ロザリアちゃんだよね。今日は楽しんでいって」


 ランハート様はにっこり笑ってくれ、訓練開始の合図がされた。

 しかし、いざ魔法騎士が私を守ろうとすると魔法が発動しない。

 攻撃役を担った騎士の方も、同じように魔法が出ない。

 私の周囲は軽くパニックになった。


「なぜだ!?いつもみたいに風が出ない……!」

「守るのに盾がはれない!どうしたらいいんだ??」


 『無効化』が勝手に働いたのだ。

 ランハート様とアレス殿下はいち早くそれに気づき、騎士達に落ち着くよう指示を出した。


「魔法が使えないなら剣を奮え!魔力が枯渇したらどうするかよく考えろ!」


 アレス殿下の一喝に、ざわざわとした不穏な雰囲気は吹き飛び、騎士達に冷静さが戻る。

 皆あちこちで剣戟を撃ち、訓練が終わると皆とてもくたびれた顔をしていた。


「今回のことは予想外だったが、良い訓練になった。ありがとう」


 ランハート様にお礼を言われるが、私は首を横にふった。


「なんだか申し訳ありません……。私はまだ『無効化』をうまく扱えなくて」

「いや、本当に感謝しているんだ。我々は思っていたよりずっと魔法に頼りすぎていた事がわかった。次に活かせるよい機会になったよ」


 イケメンな上に優しい。さすがはエスメラルダ様が推すだけのことはある。


「だが、思っていたよりお前の『無効化』が扱えないというのは深刻だな」


 アレス殿下が疲れた顔をしていった。

 殿下もまた、剣のみの戦いに参加していたのだ。


「はい。私の『無効化』を一度剥がさないと能力の扱い方を教えるのは難しいと言われました」

「それを言った人物は正しい。『無効化』を剥がすために攻撃をするのは危険が伴うし……ふむ。カイに頼むのが一番かもしれんな」


 えっ??もしかしてこんな事でカイに会えちゃう??


「しかし聖女は多忙だからな。期待はするな」

「は、はい!」


 期待するなっていうのが無理ですよぉ!


 私がカイに会える妄想をしながらエスメラルダ様のところに戻ると、彼女もまた冷静さを失っていた。

 息を荒げて興奮に顔を赤らめ、目がここではないどこかを見ている。


「はぁはぁ。今日はすごいものを見れたわ。うふ、いつも素晴らしい魔法をお使いになられるけど、剣だけの動きさえもあんなに素敵だなんて……! はあぁぁぁあ、かっこよかった。ありがとうロザリア!! すぅう~~」


 これは間違いなく帰りの馬車の中でも続くだろうな、と私は思った。



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