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お勉強が難しい!

 

 やばい。

 授業の内容がさっぱりわからない。

 

 この学園で育った魔法使い達は、卒業後は優秀なら王宮で採用され、それ以外でも地方の官僚など重要な役職につくことが多い。

 そのため授業内容は国の歴史や重要人物、マナー教養、魔法基礎などの共通常識を1年生で学んだ後、それぞれ進みたい専門分野の授業を選択する仕組みで、合格点が厳しく設定され、毎年数十人ほどの落第者が出る。

 3年生になると、1クラスから2クラス分の人数が減るほどだ。


 今日の小テストの結果も散々だった。

 裕福な実家の産まれだったので、両親はロザリアにも文字や計算、簡単なマナーの教師をつけてくれていたのが幸いではあったが、歴史や魔法については何も知らない状態で入学してきたのだ。


 落第や退学になってはカイのバディに選ばれるどころではない。

 授業が終わったあと、寮に帰って私はとりあえず魔法基礎教科書の最初のページを開いた。


「えーと……魔力は人により得意不得意な属性がある。火、水、土、風の4大属性と光、闇の合計6種類があり、それぞれ以下の図のように属性同士の相性が存在する……」


 ふんふん……ここら辺は身の回りの自然現象を想像すればだいたいは理解ができるわね。


「魔法を使うには魔力を体内で練り、イメージをすることが大切である。例えば『火よいでよ』と頭で念じるものよりも、『赤く燃えあがる地獄のような炎よ、的を射よ』と呪文として発言する方がより正確にコントロールが可能だ」


 そもそも魔力を体内で練るってことがわからないんだけど。

 というか、私に魔力ってないんだったよね?『無効化』で抑えられてるだけだっけ?


「魔力の練り方は以下の手順通り……うーん、なにこれ?体の中心に向かう矢印と外に出る矢印はなんなの?」

「あら、ロザリア勉強しているの?」


 話かけてきたのはエスメラルダ様だった。

 私の部屋にあるランハート様コーナーを愛でに来た際に、机で唸る私に気が付いたらしい。


「はい。私は魔力がないので、この練り方とか、出し方とかがまったく想像がつかなくて」

「なるほど。そうね……魔力はね、こう、ギュッ、ギチギチギチ、バッ、スゥ~ッって感じよ」

「え??」


 エスメラルダ様は身振り手振りで一生懸命に教えてくださるが、擬音が多すぎてまったく頭にはいってこない。

 何度聞いてもちんぷんかんぷんな私に、エスメラルダ様はすぐに気が付いた。


「……ごめんなさいね、わたくし勉学は得意なのだけれど、教えるのは苦手なのよ……」

「い、いえ……そのお気持ちが嬉しいです、ありがとうございます……」

「そうだ。魔法を実際に見に行きましょうよ。魔法騎士団では毎月決まった日に練習の様子を公開しているのよ。是非わたくしと一緒にどうかしら」

「それってランハート様を見にいくってことですよね?」


 私に言い当てられて、エスメラルダ様はさっと頬を染めてコホンと咳払いをした。

 カミングアウトしているとはいえ、まだ少し恥ずかしさが残っているらしい。


「まあ、端的に言えば貴女の仰るとおりよ。わたくし1人で行けば目立つもの。でも、貴女の勉学のためといえば筋は通るわ。お願いよ~~!」

「わ、わかりました!いきます、いきますよ!」


 エスメラルダ様は残った恥ずかしさを捨てて私を拝み始めたので、慌てて承諾の返事をした。

 王太子の婚約様に頭を下げさせたなんて言われたらと思うと恐ろしい。


「うふふ。では今度の公開練習の日に、早起きしていきましょうね。楽しみだわ!何を着て行こうかしら……やはり推しカラーかしらね……!」


 楽しそうなエスメラルダ様に、思わず私も笑顔になる。

 エスメラルダ様はそのまま自室に服を決めに戻っていった。

 残された私はまた教科書をめくる。


「……さて、続き続き。あっ、こっちは私にも関係あるかも。特殊能力の魔法について」


 ”特殊能力は、産まれもった才能が9割、後天的に獲得したものが1割である。

 前者はほぼ遺伝によって受け継がれ、血の繋がりを重視する貴族に多く、後者は魔力保有者が危険を感じた時や女神に祈りが届いたときなどに得られるもので、その能力は4大属性と光・闇、どの属性にも当てはまらないことが多い。

 例えば40年前の聖女ベネットは、弟の危機に駆けつける為女神に祈り、瞬間移動の特殊能力を得ている。

 こういった特殊能力の保持者は、危険なものも存在するため発見次第王宮に届けることが義務付けられている。

 過去には、1つの能力ではなく、複数の能力を保持する例も存在した。”


「へ~、だからあんな風に私も調べられたんだ」


 私の場合は女神様に祈ってもらったっていうこの後天的な方ね。

 カイの役に立つために必要な使い方ってやっぱり、一緒に魔物討伐にいったりして、この間みたいに攻撃を無効化してあげるのが一番なのかなあ。

 でも、どうやったら無効化が発動するのかとか、全然わからないや。

 このままだとこの間のスタンプラリーのように支援も呼べず治療も受けられず足手まといなのは間違いない。

 私はもう少し詳しく載っていないかと次のページをめくったが、特殊能力についてはそれ以上はかかれていなかった。

 『隠匿』の特殊魔法を持つエスメラルダ様に聞いても……たぶんわからないだろう。


 魔法基礎はこのくらいにして明日も小テストをするといっていた、歴史の一問一答集を開いて丸暗記するべく頑張ったが、気づいたらそのまま机で寝ていた。


 だいたい同じ名前の1世とか3世とかややこしすぎるし、どうして6世が8世より後に生まれているのかさっぱりわからないのだ。



◇◆◇



 寝落ちしてしまったが、今回の小テストは前回よりはましだった。

 昼休みに食堂でモモとメアリと一緒にご飯を食べながら、今日も2階の席を遠くから眺める。

 カイの姿は見当たらない。

 思わずため息が漏れた。


「はあ……」

「ロザリアは第三王子と聖女様どっちのファンなの?」


 モモに聞かれる。


「聖女。どうにかしてお話できないかな……」

「綺麗だもんね、聖女様。Sクラスとの接点なんて、あたしたちには全然ない……あっ、部活とか?」

「いや、聖女様は部活動なんてしないでしょ。いつも討伐やら任務でお忙しいのにそんな時間ないわよ、たぶん」

「でも、それ以外のSクラスのひとなら部活動入ってる人もいるよ、あたしの部活にもいる」


 モモはそうだ、と手を叩いた。


「2人は部活やらないの?活動以外でも、先輩の話とかすっごく参考になるよ」

「私は自分の勉強に手いっぱいで部活にさく時間がないわ」


 メアリは肩をすくめた。


「うーん……聖女のサポートをする部とか応援する部みたいなのないの?」

「あるわけないでしょ!聖女様は遊びに行くわけじゃないのよ!」


 そんな部があったら私以外にもたくさん人が押し寄せて、また今朝みたいにカイが怒るかもしれない。

 いずれにせよ現実的ではなかった。

 私はふと、思いついてモモに尋ねることにした。


「モモの部活の先輩に、特殊能力持ってる人っている?」

「いるよ。さっき言ったSクラスの人がそうだけど……どうして?」

「私、自分の特殊能力の扱い方が全然わからなくて……アドバイスもらえる人探してて」

「なるほどね。Gクラスじゃ全然いないから授業でも特殊能力については省かれちゃうもんね。いいよ、先輩に聞いてみる」

「ありがとう!」


 こうして、モモと一緒に放課後に部室を訪ねることになった。



「そういえばモモは何部なの?」

「演劇部よ。部室はこっち」


 案内された部室は広く綺麗で、たくさんの衣装や小道具が転がっていた。

 壁にかかった大きな鏡の隣には化粧道具が所狭しと並べられている。


「いらっしゃい。モモちゃんの友達?入部希望?」


 ピンクブロンドの、垂れ目に泣きボクロを携えたセクシーな男の人が声をかけてきた。


「シェノン先輩!ちょうどよかった。入部希望じゃないんですけど、シェノン先輩にお願い事があって」

「お願い事?」

「このこ、同じクラスの子なんですけど、周りに特殊能力の人がいなくて、扱い方を教えてくれる人を探しているんです。シェノン先輩、何か教えてあげられませんか?」


 モモがそういうと、シェノン先輩は私を見て首を傾げた。


「モモちゃんと同じクラスっていうと、Gクラスだよね?」

「はい。私は魔力がゼロなので……」

「へえ。なのに特殊能力持ちなんて、珍しいね。いいよ、俺に答えられそうなことなら教えてあげる」

「実は、何もかもわからなさすぎて、何がわからないかもわからない状態で」


 私がそう言うと、シェノン先輩は私の手を握った。


「そうか。普通は魔力も持っていることが多いから、同じようにして使うんだけど……君は何の特殊能力だって言われているの?」

「鑑定がきかないのでおそらくですけど、無効化だって言われてます」

「ふぅん。ちょっと試してみてもいい?」


 私が頷くと、シェノン先輩は握った手を絡めなおして、私を引き寄せた。

 シェノン先輩と私の距離が近くなって、身体が触れ合う。

 背中に置かれた反対の手が滑り腰に到達するとそのまま抱き寄せられた。

 色っぽい顔立ちにじっと見つめられて私はぱちぱちと目を瞬いた。


「あの、何を試しているんでしょう」

「ドキドキとか、俺にぼーっとなったり、好き! ってなったりしてない?」

「いいえ」


 すごいセクシーだな、とは思うけど。

 シェノン先輩はなるほどね、と言って私を離した。


「俺の特殊能力は『魅了』なんだ。君にかけてみたけど、無効化はばっちり発動してるみたいだ。でないとほら、モモちゃんみたいに」

「シェノン先輩、すてき……」


 モモはうっとりとした表情でシェノン先輩を見ていた。


「あれだけ近くにいても『魅了』がきかないなんて、相当強い『無効化』みたいだね」

「シェノン先輩は『魅了』は普段押さえておけるんですか?」

「うん。小さいころは所かまわず振りまいたせいで、制御できるまで部屋から出してもらえなかったよ」


 なんでもないことのように言うが、それって結構きつそう。


「私、『無効化』が制御できなくって困ってるんです」

「常時『無効化』状態ってこと? それだと、不便が多いでしょう。自分で意識してコントロールできるようになった方がいい。俺に教わりたいのは、その方法?」


 その通り!私は大きく頷いた。


「教えてもいいけど、それにはまず君の無効化を一度強制的に剥がさないといけない。つまりわかりやすく言うと……俺の魅了が効くまで付き合える?」

「ど、どういうことですか?」

「俺の魅了は相手に触れたり、言葉にのせる……つまり、口説いたりすることで強く掛かるようになる。ロザリアの無効化が強い分、俺もロザリアにたくさん触れて愛を囁くことになる」


 そう言うシェノン先輩は色気たっぷりの流し目を送ってくる。

 思わず想像してしまい、照れながら、私は疑問を口にした。


「それって、無効化が剥がれたのか、普通に私が照れたのか判別つかないと思います……」

「だよねぇ、君純粋そうだもん。そうなると俺は君に教えるのは不向きかも。魔力の強そうな人で、うまく君に魔力を流せる人……聖女様とか適任なんじゃないかなあ」


 それが出来てれば苦労しないのよ!

 私はがっくりしつつ、シェノン先輩とモモにお礼を言った。



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