sideカイ
「今魔法を使ったろう」
「何のことですか」
第三王子アレスに聞かれて、そしらぬふりで魔法を使用した手を振った。
否定はしたが、想定より強い魔法が必要だったので、その残滓はバレバレだろう。
「彼女のことは知らない人だと言っていただろう?」
「ええ、世界で一番大切な他人ですとも」
少しだけくせのある赤毛に、くりっとした茶色の瞳。
すこし丸みを帯びたてきた華奢な身体つき。
最後に見た10歳のときよりも、ずっと女の子らしくなっていた。
カイの何よりも大切な幼馴染の女の子――ロザリア。
先代の聖女に無理矢理力を使わせるため、聖女の弟が危険な目にあったことがある、という話を知ったので、僕は自分にとって大切な少女であるロザリアが同じ目に合わぬよう、ひた隠しにし、聖女の役目を粛々とこなしていた。
それだというのに、ロザリアはちっとも大人しくしていない。
城の外に何度も出没したり、学園で警備員ともめていたり。
僕がいくら隠しても、これでは特別な関係だとバレバレだった。
それでも僕が知らないといえば、ただの熱狂的なファンだと誤魔化せたものを、先日とうとうロザリアが魔物退治についてきて、死にかけたうえ、女神の祝福をうけて特殊能力者になったおかげでぼろがでたのだ。
自分の好きな子が、自分の為に一生懸命に過ごしている姿を見て、心を動かさずにいれようか。
「くそっ……なんで自分から危険な目にあいに行こうとするんだ」
「そりゃあ、おまえのためだろう。それより言葉が崩れているぞ、直せ」
「殿下は彼女をどうする気なんです」
僕はアレスを睨んだ。
「どうするも何も、ロザリアが自分でそう望んだんだよ。女神様に祈るくらいだ。愛されているな」
「……」
「お前が知らないフリをするのは勝手だが、来年、封印を強化しにいくのに、ロザリアも同行させる可能性がある」
「……っ、私は認めませんっ!」
「他人なんだろう?それに、女神から聖女のたすけになるよう能力を得たのだから、そうなるのは自然の流れだろう」
「はあ……。彼女に何かあったら許しませんからね」
ため息をつくと、アレスは苦笑いを浮かべた。
「そう思うなら、無視などせずに自分で守ればいいのに。先代聖女の弟の件なら、関係した派閥はすべて根絶やしにされているから心配ない。それに、歴代最強の聖女と呼ばれるお前に逆らうものがいるか?」
「わからないではないですか」
「少なくとも、学園に居る間は安全だろう」
それが本当なら、僕は君に話しかけてもいいんだろうか。
ロザリア、僕の大切な女の子。
一瞬アレスの言う通りのことを想像して気持ちが揺らいだが、すぐに頭を横に振った。
聖女は女神に見出された存在のことをいう。
女神のお気に入り、ともいう。
女神の機嫌を損ねぬよう、聖女には結婚が許されない。
それは僕のような男の聖女でも勿論そうだった。
聖女としての役目を終える頃にはずいぶん歳をとっているはずだ。
魅力的なロザリアが、そこまで自分のことを待っていてくれるだろうか?
もしも彼女が良いと言っても、そんなふうに返事をしてもらった時点で自分が我慢できるのか?
登校時に一瞬だけ盗み見た、ロザリアの可愛らしい笑顔を思い出して、僕の頬はさっと朱に染まった。
駄目だ、これ以上関わったら間違いなく溺愛してしまう。
それは聖女であるうちは、許されないこと。
およそ30年毎に繰り返される魔王の封印修復は、僕の実力を考えれば来年と、さらに次の回まで任期があるだろう。
無駄に力のある自分が恨めしい。
けれど同時に、この力でロザリアのいる世界を守れると思うと誇らしい。
両方の複雑な気持ちを抱えて、はあ、とため息をついた。