カイの告白
王都へ帰る時は凱旋パレードが行われた。
アレス様やリーナ殿下が馬車から民に手を振り、カイも違う馬車から同じように祝福をあちこちに振りまきながら進む。
私はランハート様とジーンさんと一緒に控えめに手を振っていた。
途中群衆の中にモモとメアリの姿を見つけて思わずジャンプして手を振る。
あちこちで音楽が奏でられて魔法の花が降り注がれる中、正直笑顔を作り続けるのが一番つらかった。
王城へ着くと、陛下に謁見して帰還を告げる。
順番にねぎらいの言葉をかけてもらえるらしい。
「ジーン、その身に宿された業はお前にとって許せないものではあるだろうが、此度特にブルールでの活躍は皆の知るところ。よって罪人としての残り任期を免除とし、これ以上の咎は与えないものとする。魔法騎士ランハート、無事任務の遂行を終えた事を功績とし、近衛に昇格とする。希望配属があれば後で申し付けるがよい」
「はっ。有り難く拝命させて頂きます」
並び順で言えば次は私の番だが、陛下は次にカイを見た。
「聖女カイ、先だっての願い通り、聖女の地位を降りることを許す。しかしその才を手放すのは惜しい。どうか城に留まり今後も力を尽くしてはくれぬか?」
「私でよろしければお受けします。」
「しかしなぁ……本当は我が娘リーナとの婚姻を考えていたのだが……」
「陛下、それはお断りしたはずです」
「お父様、是非カイ様と結婚したく思います!」
両者から逆の意見を言われて、陛下は天を仰いだ。
愛娘の願いは叶えてあげたいが、功労者であり実力者であるカイにこうもきっぱり言われては無視するわけにはいかないのだろう。
「そ、その件はまた後程……えぇと、ロザリアといったな、平民の娘」
「は、はい」
「旅では様々な助力を惜しみなく発揮した上、魔王を倒した功績は大きい。よって、褒美としてアレスとの結婚を許す」
「は……はい?」
私の疑問形は了承と捉えられてしまったらしく、「そうか受けてくれるか」と陛下は何度も頷き次の話を始めてしまった。
え、アレス様と私が結婚?
謁見中なのでそっとアレス様を覗き見るが、涼しい顔で陛下の話を聞いている。
どうしてそんなことになってるの??
「では明日に祝賀会を開く故、それまで各自ゆるりと休まれよ」
下がってよい、のお言葉を受けて全員が外に出されると、皆一斉に喋りたいことを喋った。
私より先にアレス様に詰め寄ったのはジーンさんだ。
「なんで!?アレス殿下ずるくない!?」
「いや、俺も今初めて耳にして驚いているところなんだが……」
「カイ様、わたくしとの結婚の何が不満なのですか!?」
「ロザリアちゃん、もしロザリアちゃんがアレス殿下のお嫁さんになるんだったら、俺ロザリアちゃん付きの近衛がいいな~~」
「アレス殿下と結婚……?なんでカイじゃなくて私が……?いや、カイはリーナ殿下と結婚するんだっけ?そしたらカイは私の義妹ってこと……!?あ、ちょっといいかもしれない……」
「何がちょっといいかもしれないなんだよ」
低い声がして私はカイに連行された。
ずるずると引き摺られていく中、リーナ殿下が着いて来ようとしたがアレス様に止められているのが見える。
カイは私を部屋に放り込むと、鍵をガチャリとかけた。
部屋にはわずかだが生活感があるので、もしかしたらここがカイの私室なのかもしれない。
「ロザリア、ずっとずっと言おうと思っていたことがある」
「ん?なぁに?」
掠れた声で言いながらベールをぱさりと脱ぎ捨て、カイはぷちぷちと聖女服のボタンを外していく。
「え?なんで脱いで……」
「こうしないと絶対信じないと思ったから。ちゃんと見て」
僅かだけどうっすらと筋肉のついた上半身には、胸がなかった。
15歳だったら多少膨らみはあるはずのそれがない。
それに普段は晒されることのない白い喉には、しっかりとのどぼとけが出てきている。
長めの金髪を掻き上げながら、カイが私に向かって言った。
「僕は男だよ。ロザリア」
「きゃ、きゃああああ!?」
あまりの出来事に私は叫んで逃げようとした。
が、扉が開かない。そういえばさっき鍵をかけられていたんだった!
頭が真っ白でただガチャガチャとドアノブを回す私の後ろから、カイが両手を回して私を閉じ込めた。
「どこへ行くの?」
掠れた低い声にぞくりとする。
よくよく聞けば女の子の声じゃない。
扉が開かない様に回された掌も手袋越しによく見れば大きいし筋張っている。
屈んで私の肩に顎をのせてきて、身長差もいつの間にか少し開いていることに気づかされた。
何もかもが急に男の子に思えて、私は顔を真っ赤にして謝った。
「ご、ごめんなさい。勘違いしててごめんなさい……!私ったら女の子だと思って今までカイになんてことを……!」
すぐ抱き着きに行ったり手を繋いだり、一緒に寝ようとしたり……!
なんてはしたないことを……!
考えれば考えるほどやばいことしかしてない。
待って、カイが男の子ってことは初めて魔力を使ったあの日カイとしたキス(救助目的だけど)がファーストキスなのでは……!?
ぐるぐると考えてオーバーヒートした結果、わたしは「……きゅう」と言って思考を放棄した。
正確には気絶したという。
しかし、優しくて治療魔法に長けたカイは私に状態異常回復をかけてくれやがったので、すぐに目を覚ますことになった。
あぁ、現実から逃げたかった。
「まだ言ってないことがあるから気絶されると困るんだよね」
「まままままだあるの!?」
もしやそれまでの行為のせいで私断罪される!?
不敬だって言われてお払い箱!?
いやいや私達って親友だったよね、許してくれるよねえええ!?
半泣きで見上げると、カイに綺麗な笑顔でにこりと笑われてどうでもよくなった。
私はつくづく美形に弱い。
覚悟をきめてごくりと唾を飲み込んだ。
「アレスと結婚なんて許さない。僕の方がロザリアの事をずっとずっと好きだったのに」
紫色の瞳が細められて、笑顔が引っ込められる。
真顔で告げられた愛の言葉は私の胸に突き立てられるように痛かった。
そのわからない痛みにぼろぼろと涙を流す私にカイが口づけを落とす。
角度を変えて何度も何度も交わされるバードキスの最中、何度も気が遠くなってはリカバリーをかけられ、それはカイが満足するまで続けられた。
ようやく解放された唇はしっとりと濡れていて、「リップクリームはいらなさそうだね」とカイが艶めいた表情で言った。
痛い。胸がじくじくする。
なんでこんなに痛いんだろう?




