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解けた封印

 

 私を庇って抱きしめたまま、ライカンは崖から落ちた。


「くそっ、お前トゥーリオの話ちゃんと聞いとけよ。何見たが知らねぇが急に走り出しやがって」

「ごめんなさい……あの、庇ってくれてありがとう。身体は大丈夫?」

「問題ない。丈夫だけなのが取り柄みたいなもんだ」


 怪我はなさそうだが、崖から落ちたせいであちこちに土がついている。

 私はハンカチを取り出してライカンの汚れをぬぐおうとすると、パシリと払われた。


「俺に触るな」

「でも……」


 ライカンは軽く土を払い、崖の上を見上げた。

 結構高いところから落ちたらしく、崖の高さは私の背の3倍ほどの高さがある。


「登れそうにないな。俺だけならまだしも、お前はトロそうだ」

「……わたしには無理です」


 意地をはっても仕方がないので正直に答えた。


「合流できないか少し歩いてみるぞ。ダメな時は格好悪いが助けを呼ぶ」

「うん……あっ」


 さっさと歩きだすライカンについていこうとするが、石を踏んづけて盛大に転んだ。


「ほんとトロいな」


 その時、がさがさと茂みが音をたてて魔物が現れた。

 薄い水色のスライムだ。ぽよん、ぽよんと揺れて跳ねる。


「魔物……どうして?」

「これくらいの魔物ならたまにでる。弱いから心配いらない」


 ライカンはそういって小さな炎の玉を作るとスライムに向かって飛ばした。

 すぐにそのスライムは消えていなくなったが、今度はまた別のスライムが木の上からぼとぼとと大量に落ちてくる。

 しかも、スライムたちは跳ねながら少しずつ集まってきて、大きな塊になろうとしているように見える。


「なんでこんなに数がいるんだ!?まずいぞ、デカスライムに進化する……!今の俺じゃ対処しきれない。安全なところへ逃げて救援を呼ぶぞ!」

「うん!……あっ」


 私は立ち上がって走ろうとし、また転んだ。

 どうやらさっき転んだ時にに足を捻ったらしい。


「くそっ……!」


 気づいたライカンが私を抱えて走る。

 かなりはやいスピードだが、その後ろで進化を遂げたデカスライムが跳ねて転がってくるので、すぐに追いつかれてしまいそうだ。


「封印さえなけりゃこんなやつ……」

「封印?」

「舌噛みたくなきゃ黙ってろ。今だけは触ってもいいから俺に捕まれ」


 封印ってなんだろう?

 そう思いつつ、とにかく振り落とされないよう、私はライカンの首に捕まろうと手を回した。

 すると、ライカンの首が光りはじめる。


「おまえっ、何した!?」

「ひえええ!! 何もしていません!!」

「ぐっ……」


 ライカンは立ち止まって私を抱えたまましゃがみこんだ。

 首の光がライカンの全身に回り、ライカンの耳が獣のそれに変わる。獣人?


「封印が解けた?ピアスしてるのに……」


 ライカンが呟く。お尻に生えた尻尾が動いているのが視界の端に見える。

 デカスライムがついに追い付いてライカンに向かって跳ねる……押しつぶすつもりだ!


「あぶないっ!」


 ライカンは振り向くと、デカスライムに蹴りを叩き込んだ。

 スライムたちがばらばらに砕けて、また集まり始める。

 デカスライムに戻ってしまう前にライカンはさっきとは比べものにならないくらいの大きな炎魔法を使ってまとめてスライム達を焼き払った。


「た、助かった……?」


 呟く私をライカンが下に降ろすと、灰色の髪から生えていた同じ色の耳がぴくりと揺れて尻尾と共に消えた。


「ライカンって人狼なの?」

「……そうだ」


 私が聞くと、苦みを潰したような顔でライカンは肯定した。


「はじめてみた!!すごいすごい、魔法学園に入るとそんな人も居るのね!」

「……は?」


 私がはしゃぐと、すぐにあきれ顔に変わる。


「お前人狼が怖くないのか?」

「え?人狼って怖いの?」


 きょとんとする私に、ライカンがはあ、とため息をついた。


「ふつうは怖がるだろ。……まぁいい、それよりなんだ今のは。勝手に封印がとけるなんて……お前が触ってこうなったんだから原因はお前しかない。何かしたのか?」

「あ……わたし『無効化』の特殊能力があって……それと何か関係あるかな?」

「『無効化』? なるほど……だからか。封印の紋は消えずに人狼になった上に暴走もしなかったのは……」


 ライカンは首を振ってシャラシャラと音をならし、つけているピアスを手で確かめた。


「とにかく、デカスライムに進化するほどスライムが湧いてるのは異常だ。学園に助けを呼ぶぞ」

「うん、でも私だと魔法陣の紙が発動するかどうか……」

「寄越せ、俺がやる」


 ポケットから折りたたんだ紙を出してライカンに手渡す。

 魔法陣を使って光を打ち上げると、すぐに職員たちが集まってきておびただしい量のスライムの残骸を確認し、緊急で森の調査が行われることになったのでスタンプラリーは打ち切りとなった。


「心配したよロザリア!」


 メアリがライカンに背負われて帰ってきた私に駆け寄ってきた。


「こいつ捻挫してるから、このまま医務室に連れて行く」

「ライカンが?いつも人と関わりたがらないくせに珍しいね」


 トゥーリオが驚いた顔をしている。


「うるせぇ。いくぞ」

「うん。メアリ、トゥーリオ、はぐれてごめん。また後でね」


 私はライカンに背負われたまま医務室に向かった。

 先生に回復魔法をかけてもらったが、ここで私の『無効化』が発動してしまった。


「困ったわね……自分で『無効化』は解除できない?」

「解除の仕方がわかりません……」

「では、とりあえず足首を固定して、氷で冷やして置きましょう。歩くときは負担をかけないよう気を付けて」


 添え木をして包帯を巻いてもらい、氷魔法で出した氷嚢を手に、お礼をいって私たちは保健室を後にした。

 教室に戻るのに、壁につかまりながらゆっくりと歩いていく。


「ライカン、今日は本当にありがとう」

「まぁな。崖から落ちた先でデカスライムに遭遇した上、救援を呼ぶ魔法陣すら発動できないなんて俺がいなきゃお前死んでたかも」

「うっ……。ご、ごめんなさい」

「……なぁ、お前、俺とバディ組まない?」


 ライカンが立ち止まっていった。

 じっと赤い瞳に見つめられる。


「お前は俺の人狼姿にも怖がらないし、封印を解いてくれるなら俺の魔力はSクラスでもおかしくない。お前の魔力がなくても、多少トロくても、俺が2人分くらい余裕で動ける」

「えっと。バディはちょっと、ごめんなさい」

「既に相手がいるのか?」


 ライカンは私の手首を壁に押し付けた。

 身体の大きなライカンと壁の間に閉じ込められて、視線を合わせるように屈んで顔を近づけてくる。

 至近距離でまっすぐ見つめられて、私は逃げるように目を逸らした。


「そういう訳じゃないんだけど……組みたい人がいて」

「ちっ……どいつだ?俺より強いのか?」

「たぶん。聖女だから」


 私の言葉に、ふん、とライカンが鼻で笑った。


「確かに『無効化』は重宝されるだろうが、さすがに聖女は無理だろ。俺にしとけよ」

「諦めないもん!」


 押し付けていないほうの手でライカンが私の顎をくいっと自分の方に向けさせて、視線を合わせられた。

 今度は赤い瞳の視線に負けない様に、私もじっと見つめ返す。


「……諦めたら俺のところへ来い」


 ライカンはため息をつきながら私を離すと、教室とは逆方向に向かっていった。


「あ、ちょっと!サボる気?」

「どうせデカスライムのごたごたで授業なんてねぇよ」


 ライカンのいう通り、教室に戻っても生徒がまばらにいるだけだった。

 メアリとモモ、トゥーリオが私に気がづいて近寄ってきた。


「ロザリア、大丈夫だった?捻挫、治療魔法かけてもらわなかったの?」

「私の特殊能力が発動して効かなったの……」


 私以外の3人が驚いた表情を見せた。


「えっ、ロザリアって特殊能力持ちだったの?」

「うん、『無効化』っていうんだけどね……」

「なのにGクラスなんて珍しいね。まあ、事情なんてひとそれぞれだけど」


 トゥーリオが言ったのはもしかしてライカンの事かな?

 2人はやっぱり昔からの知り合いなのかも。


「東の森、春休みの間にスライムが増殖したのを見逃してたんだって。先生たちが駆除するから今日はもう授業はおしまい。寮に戻っていいって」

「そうなんだ……」

「あたしは部活あるらしいからそっちに行くわ。じゃあね3人とも」

「またね、モモ」

「じゃあロザリアの鞄私が持ってあげるよ。一緒に帰ろう」

「ありがとう~~!!」


 トゥーリオとモモと別れ、メアリ―と2人で並んでゆっくりと寮に帰った。

 寮は2人1部屋になっている。

 今日から入る予定なのでまだ挨拶はしていない。

 相手はいったいどんな人なんだろう?



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