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解消されたバディの行方

 

 オーヴ学園には、魔力のあるものしか入れない。

 魔力さえあれば貴賤を問わず学ぶ事ができ、その能力を生かした将来が約束されており、基本的に貴族や平民に差はない……表向きは。


 寮で使える部屋は同じだし、エステやトレーニングルームが使いたければ有料というシステムなので使用する人数としては貴族の方が多いとか、そのくらいの差異が感じられるくらいで、授業内容や採点指標に貴賤があるわけではないし、基本的に能力による実力主義的な部分が多いから普通の人だったらあまり気にならないはずだ。


 しかし、もちろん学園外での権力関係を無視するわけではないから、必然的に周りとのつながりを意識したりしてエスメラルダ様と仲良くしておこう、とか殿下には喧嘩を売らない様に、みたいな暗黙の了解みたいな部分がある。


 おかげで私、ロゼリアも、王族に並ぶ権力を持つといわれている聖女の称号をもつカイによって守られていた。

 カイのバディに選ばれたことで、食堂の2階席に座れたり、イベントごとで優先されたりなどSクラス並みの扱いを受けている。

 時々それを妬む人はいるが、聖女に歯向かってまで直接害そうとする人はいなかった。


 が、しかし。

 その地位を覆す地位を更に相手が持っている場合は別である。


「はやくその腕輪を渡してちょうだい。カイ様のバディはこのわたくしにこそ相応しくってよ」


 アレス殿下よりも少し濃いめの水色のさらさらストレートの髪に、大きなアクアマリンのような瞳。

 1つ年下だというのに私と変わらぬ身長で、威厳に満ち堂々としていらっしゃる。


 その第1王女リーナ殿下がご入学あそばされると、私は即職員室に呼び出され、こうしてカイとバディを解消することを余儀なくされた。


 リーナ殿下の横に立つカイを見るが、困ったようにこちらを見るだけで何も言わない。

 リーナ殿下に「まだかしら?」とせかされて、私はのろのろと腕輪を外した。


「さあカイ様。念願のわたくしたちのバディ結成ですわ。この日をどんなに待ちわびていたか……」


 恍惚とした表情を浮かべて、腕輪を眺め喜ぶリーナ殿下に連れられて、カイも職員室を出て行ってしまった。

 残された私に、2年生でAクラスの担任となった先生が「王女殿下の希望であればこうなっても仕方ない」と慰めの言葉をくれたが、私はショックで何も聞いていなかった。


 せっかく!!カイとバディになれたのに、まだ何にも満喫してないっ!!

 毎朝一緒に登園し、ほんの数回食事を共にして、通信機能も何度か使用したけれど、クリスマス会場にはカイは来れなかったし、なにもバディらしいイベントを一緒にやった記憶がないっ!!


 頭真っ白なまま私は担任の先生に引きずられて、いつの間にかAクラスの教室に戻ってきていた。


「ロザリア? おーい……ねぇ、返事がないなら血を貰っちゃうよ~~」

「はっ!?」


 近づいてきていたトゥーリオが耳元でこっそりとそう言いながら、私の首筋に伸ばしてくる手を私ははたいて落としてようやく意識を取り戻したが、そのままぼたぼたと涙が流れて止まらなくなってしまった。


 それを見たトゥーリオが慌てて私の手を引いて、旧校舎まで連れてきてくれた。

 棺桶が立てかけられた部屋につくやいなや、私は机に突っ伏してぐちぐちと泣き始め、トゥーリオはその頭を撫でながら相槌を打って話を聞いてくれる。


「わぁぁ~~ん、折角バディになれたのに、こんなのってあんまりだよねええ!?」

「よーしよしよし」


 というか王女様怖かったよぉ。めっちゃ綺麗な人だけど、すごい迫力だった。

 あんな美人に嫌われたら生きていけないんじゃないかと思う程劣等感が刺激されて、絶対に逆らえないというオーラを感じた。


 カイもカイだよ。

 隣に居て一言も喋らなかったし。

 親友ならもうちょっと事前に説明とかさぁ、あるでしょう!?

 よしんば急に決まったとしても、ごめんねって言ってくれさえすれば納得できなくとももうちょっと冷静でいられたかもしれないのに!

 天国から地獄に一気に落とされた気分だよぉ!


 突っ伏していた相手がいつの間にか机からトゥーリオの胸板に変わっていたが、私はそんなこと気にも留めずしがみついてくやしがっており、トゥーリオはトゥーリオで私の事をちゃっかりと抱き寄せてすんすんしていた。


「匂いを嗅ぐなあ!」

「ふふっ……いいでしょちょっとくらい。吸わないだけましだと思ってよね」


 トゥーリオの顔を掴んで引き離そうとしたが、逆に押し倒されて舌なめずりされた。

 ひっ、今この状況で私の血を飲む気なのこの人!? 

 人がめちゃくちゃ落ち込んでいる時だというのに……!


「トゥーリオの猫っかぶり、変態!吸血鬼、眼鏡~~!!」

「どうとでも。あ~~この甘い香りたまんないね。で、いい?」

「いいわけないでしょ!?」


 私が炎魔法を出そうと集中すると先読みしたトゥーリオが水でかき消した。

 ならば雷をとねれば土で相殺される。

 小競り合いが続く中、キィーと修繕された扉の開く音がした。


「……何やってんだお前ら」

「ちょうどいいところにライカン。トゥーリオが腹ペコよ」

「ライカンよりロザリアの方がいい」

「好き嫌いはいけません~~!!」


 はあ、とため息をついてライカンが私からトゥーリオを引っぺがしてくれた。

 ちぇ、と言いながらトゥーリオはネクタイを緩めて制服のボタンを2つ外す。

 すっかりくつろぎモードである。


 ライカンはトゥーリオと私の間に大きな身体をねじ込んで無理矢理座ると、私に向かって真剣な表情で言った。


「聞いたぞ、聖女とバディ解消したこと。1年生で入学してきた王女様がねだったんだってな。Sクラスで話題になってたぜ。カイ自身は何も言わねーし、ロゼリアが心配で探してたらトゥーリオに愚痴ってる声が『地獄耳』で聞こえたからさ……」

「ありがとうねライカン、大丈夫じゃないけど気持ちは嬉しいよ……」


 ライカンはすっと私の手に自分の手を絡めると、頬を赤らめながら私を見下ろして甘やかな視線を送ってくる。


「それで、もう一度お前にバディを申し込みに来た。受けてくれないか? ロザリアのこと、大事にするから」

「ちょっとライカン!それなら僕だって申し込みたいんだけど!?ライカンはもうロザリアなしでも人狼のまま居られるしお互いの能力を伸ばすって意味じゃバディ組まなくてもいいでしょ!僕にこそロザリアが必要なんです~~」


 トゥーリオがライカンの後ろで騒いでいる。

 大きな身体に隠されて黒髪がちらちら見えるだけだが。


「お前には俺がいるだろうが!」

「ライカンよりロザリアの方がいいって言ってるでしょ?」

「はあ!? お前俺じゃ満足できねぇっていうのか!?」


 言葉だけ聞いていればまるでライカンとトゥーリオの痴話げんかである。

 それがあまりにもおかしくて、ツボにはまった私はひーひー言いながら笑ってしまった。


「……何笑ってるの」

「や、だって、ライカンとトゥーリオが、あはっ……恋人みたいなこと言ってる……!」


 息も絶え絶えになって、さっきまで悲しさと悔しさで流した涙を今度は笑いすぎで流す。

 そんな私を見て、顔を見合わせたライカンとトゥーリオが、2人して悪戯を思いついたような顔でこちらを見た。


「ライカンよりロザリアだって言ったの聞こえてなかったの? もしかして僕の思い伝わってない? 我慢できずにこの喉に嚙みついちゃおっかな、どれだけロザリアのこと欲してるか思い知らせてあげようか?」


 トゥーリオが私の背後から首を狙って私を拘束し耳元で囁いてくる。

 動けない体制のまま前からはライカンが私の顎を持ち上げて顔を近づけながら宣言した。


「そうだなトゥーリオ、俺もロザリアの事愛してるって言ってるのに、そんなこと言うなんてちょっとお仕置きが必要なんじゃねぇか?」


 そのライカンの赤い瞳が冗談じゃなく据わっていて、すりすりと親指で唇を触られる。

 そのままライカンが瞳を閉じてキスしようとしてくる気配を感じて、私は土魔法を行使するために叫んだ。


「壁!壁壁とにかくかーーべーー!!」


 トゥーリオとライカンをはじいて、作った土の壁の中に引きこもりになった私を、2人が「おーい虐めすぎたよ」「ごめんって~~なぁ~~」と話しかけてくるが知らんぷりである。

 少なくともこの赤い顔と心臓のばくばくが収まるまでは出て行ってあげない。


 これだけドキドキしたりするのに、終わってみればケロっと忘れてしまう。

 余計なことに振り回されずにすむので、『恋心』がないのは不便どころかちょっと便利とさえ思ってしまった。


 出てこない私を諦めて、ライカンとトゥーリオが2人で話し始めた。


「バディはSクラスの俺が優先されるだろ。だからトゥーリオは諦めろ」

「あぁ、そんな特権あったね……悔しいけど仕方ないかぁ」

「私の意思は無視ですか~~!?」


 土の中から声を掛けるが聞こえないふりをされた。

 土魔法を解いて直接抗議しようとしたところに、開いたままの扉のところに水色のきらきらとしたお人が立っていた。


「楽しそうなところ申し訳ないが失礼する」


 涼やかな声色の、アレス殿下である。


「殿下? どうしてここに?」

「ロザリアに用事があって探していたんだが、お前たちまとめて授業をさぼっただろう。ならばここだと検討をつけたまでだ」

「そういえば授業さぼっちゃった……あまりのショックで忘れてたよ……」


 これじゃ不良認定だ。

 Aクラスの人たちにもううまく馴染めないかもしれない。


「それでロゼリアに用事って?」

「ああ。バディの申し込みをしに。カイと解消したのであれば俺が彼女の盾になろう」


 にっこりと微笑んで言うアレス殿下の言葉にピクリと反応したライカンが食って掛かった。


「アレス殿下、お気遣いはありがたいですがもう俺が既に申し込みして守るって決めてんだよ」

「ライカンの実力は買っているが、君で対応できないことも多いだろう。俺に任せておけ」


 Sクラス同士が同じ人物をバディに望んだ時ってどうなるんだっけ?


「ふつうはその人の権力とかを気にするものだけど、ライカンだしね。決闘で決めるんじゃなかった?」


 けっと……う?

 闘うの?ライカンとアレス殿下が? 


「3日後演習場にて待つ。その尻尾を撒いて逃げてもいいぞ?」

「はん、そっちこそお綺麗な顔に傷をつけてもいいように聖女様にでも頼んどきな」


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