ライカンとのデート
お休みの日になって、ライカンの姿が見当たらないので寮まで迎えに行くと、「もういかないかと思った」と言われた。
バディを解消したので、私がライカンに色々と付き合う理由がなくなったと思ったらしい。
「そんなわけないでしょ。バディは解消したけどライカンとは友達だし。ライカンこそ私の力はもう必要じゃないって思って今日来ないのかと思っちゃったわ」
「それは違う……!」
「そうでしょ。じゃあ行こ?」
ライカンは寝起きだったので、慌てて準備をして出てきた。
獣耳は普通の人にはないものなので目立たない様に大きめのハンチング帽をかぶっている。
獣耳を出したままでも、この街の人はそんなに気にすような感じではないだろうけど、「中には獣耳フェチの人とかいてめっちゃ触られるかもしれないもんね」と言うと「それはお前だけだろ」と突っ込まれた。
どうして?
ライカンの耳はふわふわですごく手触りがいいのよ。
自分についてるからその価値がわからないのよ。
おずおずと差し出された手を握る。
今まで何度も握っていたのだから今更何を気にしているのかわからないけれど、アレス殿下にもいつもエスコートされているので私はもう慣れていた。
街へ向かいながら歩く途中でライカンがずっと何か言いたそうにしていたので、なぁに?と尋ねた。
「その、何で急に聖女はお前を……?」
「ああ、私この間王宮に鑑定しにいったの。前までは『無効化』が邪魔してできなかったんだ。それで今度は無事に鑑定できて、私に『無効化』と『増幅』のちからがあることがわかったの」
「特殊能力が、2つ……?」
「そう。それでね、私を守るためなんだと思う」
今までカイが私を幼馴染と認めなかったのは、私がカイの弱点だったから。
ところが隠していたその弱点の私が放っておけば注目されてしまうような能力を手に入れてしまった。
そうすればカイは私を放置なんてできずに、守るしかなくなる。
私はアレス殿下に言われたことを思い出しながらライカンに説明した。
「それなら俺だってお前の事守りたいって思ってる」
「うん、でもね、敵は魔物だけじゃないの。貴族とかを抑え込めるのはたぶん、王族とか聖女くらいの地位にいないと駄目だって思ったんじゃないかな。カイは優しいから、そんなこと私には一言も言わないけど」
「ロザリアを守るための地位……」
「ごめんね。急にバディを解消するなんて」
「いや、もともと聖女が望んだら解消するって話だっただろ。それがお前を守るためだっていうんだったら、俺に厭はない」
目的のアクセサリー屋さんについたので、話を終えて中に入った。
ピアスのコーナーを角に見つけたので、ライカンの手を引っ張ってそっちへ向かう。
「ね、私が選んでいいんだよね?どんなのがいいとかある?」
「うーん。特に指定はないけど、そうだな……お前の髪の毛みたいな赤色がいいな」
「赤? そうね、ライカンの瞳の色とお揃いだしすごく似合うと思う」
私は赤い石の嵌まったピアスを探した。
羽根に包まれるようなデザインや、竜の抱える玉が赤い宝石だったりと細工が綺麗だ。
ひとつひとつを見て、ライカンに何が似合うか考える。
「あ、これ……どうかな?」
薔薇の花びらの中に、赤い石が嵌まっているピアスを私は差し出した。
これなら多少動いても邪魔になりにくそうだし。
「薔薇……」
「あ、やっぱりしゃらしゃら動くような奴の方がいい?」
「あ、いや。これにする」
少し照れたようにしてライカンは会計に行った。
気に入ってくれたんならいいな。
「自分でやりにくいから、つけてもらってもいいか?」
「いいよ。えーと……どうする?人が少ないところの方がいいよね?」
獣耳は出したくないだろうと考えて、どこかいいところはないか考える。
「他に街に用事がないんだったら旧校舎でもいいか?もうあそこに世話になることはないかもしれないがやっぱり落ち着くし」
「だったらそこでお昼が食べられるようテイクアウトしちゃお~~。すみません、チキン2つ……いや、3つください!」
私は出店に立ち寄って注文をした。
ライカンいっぱい食べるからね。
それにサンドイッチと飲み物を買って私たちは旧校舎のライカンの部屋に行った。
「先にピアスつけちゃうね。届かないからしゃがんで」
椅子に座ってもらい、帽子をとって耳にそっと触れる。
「いっぱい空いてるけどどこの穴?」
「根元に近いとこ」
耳を軽く引っ張って、穴をよく見ながらいれてキャッチを回した。
うん、灰色に赤はよく映えて似あう。
「サンキュ」
水鏡を出して、ライカンが自分の耳をチェックしている間に、私はサンドイッチとチキンを広げた。
チキンの香ばしい匂いが食欲を刺激する。
しゅわしゅわの入った果実水で乾杯してからかぶりつく。
おいしい!
「なあ、明日から魔法の特訓したいから付き合ってくれないか?」
「え?ライカンも?私もやりたいって思ってた」
「じゃあ放課後毎日な。それと、今度からは授業もちゃんと出るから」
えっ珍しい。
人狼の封印が解けて落ち着いたからかな?
「ちゃんと優等生にならないと、その、官僚?にはなれないんだろ」
「そうみたいだね。Sクラスになればほぼ約束されてるようなものらしいけど、ライカンって特殊能力はないんだよね?」
「あるぞ。扱いきれてなかったけど一応。俺たちは特殊能力を人間に人為的に付与できないか研究された実験体みたいなもんだからな、トゥーリオもある」
「ええっ、知らなかった。どんなものか聞いてもいい?」
「隠すもんじゃないしいいぜ。俺は『地獄耳』だ。封印されてる時はわからなかったが、今じゃかなり離れてるところまで聞こえる。それでその……お前が聖女たちと昼食をとりながら話してた内容も、知ってる」
カイたちと昼ごはんを食べながら話してた内容……?
「クリスマスパーティーだ。バディ解消したからな。モモがあの後1人ならどうって誘いに来てくれたからモモと行くわ」
「あっ、そうだった。ライカンにも確認しとくべきだったよね、ごめん……」
私は自分の事だけしか考えてなかった自分を恥じた。
「ほんとだぜ全く。俺の事は眼中にないんだからな」
そういうと、ライカンは私の肩を抱いて隣に座る。
反対の手で、くいっと私の顎を掴ので、赤い瞳と目が合った。
「初めてお前とあった時からそうだ。どうすれば少しはお前に意識してもらえるんだろう」
ライカンの瞳が閉じられて、キスするみたいにゆっくりと近づいてくるので私は両手でがしっと止めた。
「……なにすんだよ」
「こっちのセリフよ。なんでそんなに近いの……」
「ロザリアにキスしたい」
「なっ、なんでっ……」
「好きだから」
そういうと、私の両手は簡単にはらわれて、そのまま押し倒された。
赤い瞳がぎらぎらした目で見下ろしてくる。
「バディじゃなくっても、ロザリアと一緒に居たい。愛してる。お前には、俺がどれだけの思いを抱えているかわからせないと伝わらないだろ?」
「ま、待って。待って!」
顔を逸らして抵抗する私の首筋や耳にちゅ、ちゅとキスが落とされる。
こめかみや頬と、だんだんと唇に近づいてくる甘やかな感覚に背筋がぞくぞくするのを感じながら私は叫んだ。
「わからないの!!」
「まだ伝わらない? 俺はお前だけのものになりたい」
「ち、違うの。私にはデバフがかかってるんだって王太子殿下が鑑定してくれたの。聞いて、私には『恋心』がないんだって」
「『恋心』?」
すぐ耳元で囁かれるように言われて、また身体がぴくりと反応してしまう。
「そう。ちからを得る代わりの代償として私が女神様に捧げたもの。ドキドキしたりすることはあっても、私が誰かを好きになることはないの。だからライカンのものに私はなれないからっ……」
どいて、と言おうとした唇は、とうとう塞がれた。
「俺の話聞いてたか?お前を俺のものにしたいわけじゃねぇ、俺がロザリアのものになりたいだけだ」
「~~~~っわたしのファーストキス~~~~っ!!!!初めては好きな人とって思ってたのに……!!」
なお、カイとのキスは医療行為だったし、女の子となので私の中ではノーカウントである。
「へえ、じゃあセカンドもサードも俺が貰う」
「ば…『魔法障壁』ッ!!」
ばん、と私の周り現れた障壁に弾かれたライカンは受け身を取って着地した。
しかし、その障壁はライカンの右手一振りで破壊される。
「可愛い抵抗だな」
「ひえええ!!」
まだ魔力でライカンにはぜんぜん敵わない。
にじり寄ってくるのをどう落ち着かせたものか考えていると、あたりにカイの声が響き渡った。
「ロザリア、大丈夫?」
それは、バディ用の腕輪から聞こえていた。
「か、カイ!!助けてライカンに襲われる!!」
「人聞き悪いこというんじゃねーよ、まだ襲う気はない」
「いい度胸だね人狼。私の親友に手をださないてくれますか?」
「聖女様。ロザリアには俺の思いを伝えただけですよ。愛してるって……」
「それだけじゃないもんちゅーされたもん!!」
腕輪からバキィ、と何かが折れる音がした。
「……今度会ったら覚えていなさい」
「さぁ~~、俺忘れっぽいからな~~ま、これで少しはロゼリアの眼に映るかと思ったが、『恋心』がないんじゃ無理か……」
「ロゼリア、今のうちにその男から離れなさい」
カイのアドバイスを聞くことにして、私はささっと自分の荷物をまとめた。
「じゃあね、ライカン!」
「おう、またな」
旧校舎を出て寮まで帰る間カイとおしゃべりをする。
「その、ロゼリア。貴女があの人狼と出かけると聞いていたので気になってしまい、つい連絡をとってしまいました。もう少しそれが早ければ邪魔できたのにと思うと……はあ」
「ううん、カイのおかげで助かったよ。ライカンってば急に好き好き言うんだもん。でも、私にはそれに答える心はないからさ」
「……そうですね。でもあの様子だと諦めた感じはありませんので、気を付けてください。いいですか?絶対に今日みたいにあの人狼と2人きりで個室なんて駄目ですよ」
「はぁい……あぁ、寮についた。またね、カイ」
こうして、次の日からカイの過保護具合が増すことになったのだった。




