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ライカンと勝負!

 

 アレス殿下に頼んでから、王太子殿下の予定が空くまでには3週間ほどかかると言われた。

 その間に4階の氷漬けの教室と狐の魔物の痕跡は跡形もなく消え、何があったのか興味津々な生徒たちはエスメラルダ様が蹴散らしていた。

 でも、事情を聴取されている私に気づいて直接真相を尋ねに来る人も少なくはなかった。

 別に私は疚しいことはしていないので、正直に「襲われたから倒した」と言ったのだが、Gクラスにそんなこと出来る訳ないと信じていないようだった。

 私ではなく、アレス殿下が狐を倒したと思っている人も一定数いるようで、もしかしたら殿下と私が恋仲なんじゃないかという噂までたち始めてしまいだした。


「そんなわけないじゃない。シェノン先輩が言ってたけど、Sクラスの人たちはジーンって人の事を知ってるから、聖女がらみだって気づいてるらしいよ」


 ダンスの授業の為、ドレスに着替えながらモモが言った。

 手伝ってもらわないと着れないから、お互いの背中にある紐を閉めながらの会話だ。


「アレス殿下と私が釣り合う訳ないのになんでそんな話になってるんだろうね」

「そりゃ時々放課後迎えに来て一緒に王宮にいってるからでしょ。ロザリアは聖女様の事しか考えてないからわからないかもしれないけれど、そのたびにかなりの人間が注目してるんだよ」

「ただ能力の扱い方を教わっているだけなのに。……あっ、もしかしてもう扱えるようになっちゃったから、カイに教えてもらえる機会はもうないのかな……」


 魔法がどれくらい使えるようになったかは授業で披露済みだ。

 ライカンの封印も手を触れずに『無効化』してみせたし、今の私は無敵!みたいな気持ちになっていた。

 そんなレベルになってしまえば、もう教えることはないって言われてしまうに違いない。

 そしたら一体いつカイに会えばいいっていうの??


 急に落ち込み始めた私の背中の紐をメアリがぐい、と引っ張った。


「それだけ力があるんだったら、Sクラスを目指せばいいじゃない。ロザリアには特殊能力もあるんだから、魔力を伸ばしていけば入れるわよ」

「やーん、そしたらあたし達あと3か月も一緒にいれないってこと~~??」


 着替え終わって授業のある講堂に向かう。

 男子は着替えが早く、既にスーツに着替えて待っていた。

 いつもフードを被っていたトゥーリオは代わりに帽子をかぶっている。

 今日はダンスの授業最終日で、この2週間毎日ずっと集中して練習があり、この成果を評価される日でもある。

 みんなして足にマメができては保健室に行くのを毎年の風物詩みたいなものね、と保険医の先生が笑っていた。


 先生が来て、ダンスに誘われるところから始めるように言われる。

 私の前にいたライカンがお辞儀をして、跪くと手を差し伸べた。

 ライカンは身体が大きいのに加えて私は小さめなので、下から声を掛けるためにはここまでする必要があるのだ。


「俺と踊ってください」


 じ、と赤い瞳に見つめられて私は笑顔で頷くとその手をとった。

 周りも同じように手を取り合ったのを確認すると、先生が音楽を鳴らす。

 最初のうちは歩幅が合わなくて転倒したのはいい思い出だ。

 2人3脚の時もそうだった。


 ライカンは持ち前の運動神経ですぐに上手に私をリードしてくれるようになって、とても踊りやすい。

 無事に合格を貰えてほっとした。

 次にダンスを踊るのは、クリスマスパーティーの時になるだろう。

 それまでドレスを着ることもないので、モモとメアリと3人で記念に写真を撮った。

 もしも就職先が王宮の魔導士とかになればあるかもしれないけれど、庶民にとってはこんな機会なかなかないものね。


「今日の授業はもうおしまいだし、頑張った打ち上げに街に行かない?」

「モモ部活はないの?」

「そう、今度演劇部でアマチュア大会に出ることになったんだけど、今日は先輩たちがその申し込みにくから部活動はなしだって。だからパフェとかなんか甘いもの食べにいってまったりしたーい」


 モモとメアリがはしゃいでいて、私は羨ましそうに指をくわえた。


「うう、行きたいけどごめん。今日は満月だから……」


 まだ午後の2時だが、そろそろ月が昇るころあいだ。

 私は先に旧校舎にこもっただろうライカンのところへ行く約束をしている。


「あぁ、そっか。じゃあまた今度一緒にいこう!」

「うん、今日は私の分も食べてきて!」


 モモとメアリと別れて一度寮に帰ると、また真夜中を過ぎて朝日が昇るころに帰ることになったらすぐに寝たいので、先にお風呂に入った。

 キッチンで弁当を作ってからエスメラルダ様にいってきまーすと告げて出かけた。


 旧校舎の鍵は開いていた。

 というより、この間ライカンとトゥーリオがどうにかして脱出しようとしたらしく、窓が割れて扉も壊れ鍵の意味をなしていないというべき有様だった。

 目には見えないが、満月の日はライカン用に既に出入りができないように魔法がかけてあるらしい。『無効化』が使える私にはこの間も今回も意味のないものなので自由に入れる。


 廊下を歩くとトゥーリオの部屋の扉は私が壊したままになっていた。

 見ないフリをしてそのままライカンの部屋をノックする。

 先に通信で行くと伝えていたのでライカンはすぐに開けてくれた。


「ライカン、ごはんも持ってきたの。後で一緒に食べよう」

「まじ?助かる。いつも食堂の時間に間に合わないから飯抜きで過ごしてたんだよな」


 ライカンがどれくらい食べるかわからないが、身体の大きさから考えていっぱい食べそうだと思って多めに作ってきた弁当の入ったバスケットをテーブルの上に置いた。


「じゃ、はじめよっか。ねえ、せっかくだから試したいことがあったんだ。封印の『無効化』をしながら私も魔法を同時に行使するの」

「おいおい調子に乗って大丈夫かぁ?」


 部屋を出て、ライカンと庭や城を作って遊んだ空き教室に移動する。

 離れた位置からライカンのタトゥーに向かって『無効化』を送った。

 灰色の髪の毛から人狼の獣耳が生えて、ライカンの赤い瞳がいつもよりもギラギラと光る。


「ロザリア確か『ライカンよりも強いかも』とか言ってたよなぁ~~??」

「えっ、う、うん……」

「本当にそうか試してやるよ。勝った方が負けた方のいうことを1つ聞く、でどうだ?」

「えええ!?」


 満月で一番力が強くなってるライカンと勝負?

 しかも私は人狼化を解きながらってちょっとずるくない?


「まさか強がりだったわけじゃないよなあ!」

「しょ、勝負って何するの?」

「そりゃ決まってんだろ、単純に魔法対決だよっ!」


 ライカンはそういうと、私に向かって水鉄砲を放った。

 咄嗟に無効化して薙ぎ払う。

 くいくいっ、と片手で挑発のポーズをとられて、私も思い切り魔法を放って、どこまでやれるのか試したいという好奇心が勝った。


「いいよ。じゃあ今日は疲れてバテるまでやる。傷つける様なやつはなし!」

「それじゃどっちが勝ったかわかりにくいだろ」


 そういうと、ライカンは魔法を使ってその手に炎を出した。

 お前も出せ、と言われたので同じように炎を作る。


「この炎が先に消えるか、消されるかした方の負けだ。いいな?」

「わかった」


 私は一度距離をとって、ライカンの持つ炎めがけて『無効化』を飛ばした。

 これなら見えないし避けにくいと思ったのだが炎は一瞬揺らめいただけで変わらず赤々と燃えているままだ。

 私の『無効化』以上の魔力が注がれているらしい。


「考え事してる暇ないぜ」


 沢山の水龍が私を襲いにきて『無効化』のバリアを張る。

 貫通されかけたのに気づいて水龍をふさぐように土魔法で壁を作った。


 魔力量は確実にライカンの方が上なので、想像力で上をいかなくてはいけない。

 防戦ばかりだと経験の乏しい私に不利なのは明白なので、先に仕掛けるために一歩踏み出す。

 水と風を練ってライカンの足元にしたたる水めがけて雷を放つが、すばやく避けられて当たらない。

 恵まれた体格と運動神経を持つことを忘れていた。

 当てるにはまず身動きを捉えたり遅くせねばなるまい。


 私が次に放った風魔法と、ライカンの水魔法が拮抗して弾ける。

 力では叶わず徐々に劣勢になりかけたので、私はその水魔法ごとライカンを凍らせようと冷気を乗せた。

 魔法が凍り始めたのにすぐ気づいたライカンが魔法の行使をやめたが少し遅く、その手が凍り始める。

 うまくいったことに喜ぶのもつかの間、凍った手は軽く振られて元に戻ってしまった。


「むう……」

「そんな簡単にやられるわけないだろ」


 はっと気づいた時には私の足に蔦が絡んで動けない様にされていた。

 そのまま身体も拘束しようとする蔦を風魔法で払っている間に、水魔法を食らって壁に打ち付けられた。

 かろうじて炎は消えていないが、背中がじんじんして痛い。思わず唸った私をライカンが心配そうな目で見た。


「大丈夫か?思わず本気でやっちまった」

「だい、じょうぶ……!」


 なんとか立ち上がってライカンの方に向き直った。

 なんだかまるで魔法の訓練みたいだ。

 普通に打ち込むだけでは勝てないから……まずは、フェイクの水魔法で攻撃し、その影に『無効化』を潜ませる。

 しかしライカンは水魔法に反応せずそのまま突っ込んできた。

 すれすれで避けながら確実に私に近づいてくる。

 途中で軌道を変更するが、それすらも予測されている。

 は、速い……!


 慌てて作った土の壁はライカンの拳ひとつで割られて、そのままその手で私の炎を持つ手が握りしめられ、炎は消えてしまった。


「負けちゃった……」

「悪い、いじめすぎた」


 ライカンの手が私の背中を撫でていく。

 くすぐったくて思わずびくりとした私に「痛むか?」と心配そうな声がかけられた。

 私に魔法があたったことをよほど気にしているらしい。


「だいじょうぶ、くすぐったいだけ……あれ?」


 ふと気づいて、私はライカンの首に手をやった。


「あっ、さっきやられた時にライカンにかけた『無効化』が解けちゃったの、まだ魔法かけなおしてないのに、封印解けたままだ……それに、タトゥーがない」

「なに!?」


 ライカンは水鏡を作って自分の首元をチェックした。

 そして自分の耳と尻尾があるのも引っ張りながら確かめている。


「もしかして……ははっ、ロザリア、ようやく身体がおいついたのかもしれねぇ!アレス殿下の封印が消えたってことは、その証だ。封印なしで人狼のままでも、もう暴走しないでいられる!」

「あっ、そういうこと??え、ピアスは?」

「は、外してみてもいいか……?」


 ライカンは暴走しないようにたくさんつけたピアスに手をやった。

 私が頷くと、震える手で外そうとするが、うまくできていない。


「私がやろうか?」

「頼む」


 ライカンにしゃがんでもらい、私はピアスに手を伸ばした。

 ひとつずつゆっくりはずしていき、最後のひとつを手にしてライカンに見せる。

 終わったよ、というとライカンにぎゅっと抱きしめられた。

 大声はあげないが、少し震える背中と漏れて聞こえる嗚咽で泣いているのに気づく。


「よかったね、ライカン。もう大丈夫だよ」


 私はそっとライカンの背中を撫で続けた。







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