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魔法祭の準備と2度目の襲撃

 

 えっへっへ。

 この日の私はご機嫌オブご機嫌だった。

 朝から何度も右耳についたピアスを確認し、揺らしてはにんまりとするので、モモとメアリは何も聞かずともそれが誰からもらったものなのか察しがついたようだった。

 何せこのピアスはカイの瞳と同じ色なのである。

 自分の色を送ってくれるなんて最高の親友と言われているも同じ。

 しかも、顔面が良すぎて正直おぼろげではあるが、「私を1人にしないで」みたいなことまで言われたのだ。

 あぁ……カイ好き、めっちゃ可愛い。


「案外聖女様ってさぁ……独占欲強いのかもね」

「あんなに可愛い顔してまぁ……ほんとに」


 モモとメアリが何か言っているが、有頂天の私には「よかったね」にしか聞こえない。

 そこへ珍しく教室にライカンが来たので、私はすぐに捕まえて自慢をした。


「見て!! カイに貰っちゃった!!」

「……けん制って訳か? そんなもん意味ねぇよ」

「意味あるよ! 友情の証だってば!!」


 そんなこと言われてもないのに、調子に乗った私が胸を張って言うとライカンは「はっ」と鼻で笑った。

 そこへ先生がやってきてホームルームが始まった。

 議題は、もうすぐ始まる魔法祭についてだ。

 トゥーリオが板書をとって、皆の意見を聞いている。

 魔法祭は、運動祭とは逆に魔法を使用することを課題として、クラス毎に出し物や研究発表などを行うものである。

 Gクラスは魔力が少ない人が多いため、その分他よりも工夫が必要になるだろう。


「例年では衣装や道具を自分たちで作って、少しの演出だけを魔力に頼るお化け屋敷や、的を魔力で浮かせて参加者に狙ってもらうミニゲームなどを用意したりするものが流行ったようです」

「まぁGクラスだしなぁ。Sとかだとやっぱり研究発表とか多いんだろうな」


 研究発表というとつまらないものに聞こえるが、この魔力祭には王宮から偉い人達も成果を見に来る。

 その目に留まれば優秀な人材として将来雇用されるのは間違いないので実はそっちの方が人気だったりする。

 私たちはそれ以外の息抜き部分みたいなものだ。


「土魔法で人形を作って制限時間内にいくつ壊せるかみたいなミニゲームはどうかな?」

「面白いね。穴をつくってどこから人形がでてくるかはランダムにすれば運も絡んで盛り上がるかも。じゃあ、いくつかミニゲームを出すってことでいいね」


 皆、賛成!と声をあげている。

 しかし、私はちょっと待ったをかけた。


「あのあの、私まだみんなみたいに魔力をうまく扱えなくって……どうやって手伝ったらいいかな!?」

「ロザリアさんは客引きじゃない?」

「うんうん、当日あちこち回って宣伝したりする係も必要だよ」


 それなら私にも出来そうだ。

 提案してくれた子にありがとうと言って私も賛成側に回る。


「じゃあ決まり。後はどんなゲームを提供するか、景品は何にするか話し合おう」


 皆で意見を出し合った結果、ミニゲームは3つに決まった。

 昔からある、的を風魔法で浮かせて動かし参加者に狙ってもらう『射的』、ランダムに出てくる土人形を叩く『土人形たたき』と、あともう1つは私たちの使った魔法を音だけで聞いて当てる『音当てクイズ』である。

 射的で使う的には風船を使用するため前日にある程度膨らませればよい。

 土人形たたきには土台となる穴のあいた机とそれを叩くための柔らかいハンマーを用意し、音当てクイズも4択問題をいくつか作成して目隠しさえあれば準備はことたりる。

 あとは合計3つのゲームでそれぞれ点数を記入してもらうための紙と筆記用具それから肝心の景品が必要だ。


 文系の部活動をしている人たちは、そちらでも出し物をする場合があり、モモの演劇部も公演をするらしく部活の方を優先しに行った。

 残ったひとたちで景品の買い出しや道具作りをすることになった。


 小道具作りは魔法を使ってしまえばそれなりに楽にできる。

 魔法が使えない私は進んで買い出し係に立候補した。

 ロザリアがいくなら、とライカンがついてこようとしたが、Gクラスの中では魔力も力もそこそこあるライカンは道具作りに強制的に任命された。

 代わりにトゥーリオが一緒についてきてくれるらしい。

 買い出し係といっても、景品となる品物を予約するだけで、今日持って帰ってくるわけではないのでそんなに人数はいらない。

 私たちは2人で街に出かけることになった。


 景品は、消えものだし日持ちもするし、人を選ばないだろうということで焼き菓子に決まった。

 そのため菓子屋さんに向かって歩いていく。

 数が結構多いので1店舗で引き受けてくれそうなところを探すか、いくつか種類を選べるようにあっちこっちの店舗に少しずつ頼むかは実際見に行く私が決めてよいと言われた。


「点数によって選べるお菓子が違うのがいいわよね。それに好みがあるかもしれないし、ちょっといいやつから駄菓子みたいなものまで揃えたいかも」

「そうだね。だったら少し店舗は別れてしまうかもしれないけれどメアリが言っていたここと、あっちの2店舗を見に行こう」


 1つ目に入ったのは駄菓子風のお菓子屋さんだった。

 小さな飴が1種類ずつ量り売りされている。

 景品として渡すには個包装が好ましいので、店員に出来るか尋ねると別料金だが可能だと教えてくれた。

 ミニゲームで点数を取れなかった人や参加賞程度にちょうどいいだろう。

 どの飴がいいか見ていると、トントンと肩を叩かれ振り向いた。

 トゥーリオが試食用の飴をつまんでいて私の口に押し付ける。

 飴はころんと私の口の中に転がり込み、すぐに形を変えた。


「この飴、柔らかい……」

「キャラメルって言うんだって。今食べたのがノーマルで、こっちにあるのがチョコ風味みたい」

「いいかも。これにしよう!」


 店員を呼んで、必要数を注文し、魔法祭の前日に学園に届くようにお願いした。

 ノーマルとチョコ2つを1組として包装してもらう。


「数が多いのでラッピングに何か文字をいれるサービスも承れますよ」

「え? じゃあせっかくだから、1-Gっていれといてください!」


 小さいことではあるが、どこで貰ったかの宣伝にはなるだろう。

 私達は満足して次の店舗にも向かった。


 次はちょっとお洒落なお店だ。

 見本として飾られている焼き菓子は芸術のように美しい。

 ラッピングも種類があり、花束のブーケのようになっているものや、籠の中にぬいぐるみと一緒に入っているものなどもある。


「可愛い。女性が好きそう」

「セットの品を一番いい景品にして、少し小さめのを次点にすればいいかもね」


 花束やぬいぐるみは可愛いが、男子もいることを考えると普通の箱入りの方がよさそうだ。

 たくさんお願いすれば嵩張るし、一番間違いがない。

 もし次点用のお菓子がなくなっても大きい方から崩して用意すればいいので一番いい景品用のお菓子の方を多めに頼んだ。

 店を出ると、トゥーリオが忘れ物をしたといったのでそのまま外で待つ。

 買ったお菓子の数を計算してみて漏れがなさそうか確認し、後はミニゲームの受付の時に使う文房具が必要だなと考えてお店を見渡していると、すぐにトゥーリオが店から出てきた。

 手に花束の菓子を抱えている。


「あまりにも可愛いから買っちゃった。ロザリアに貰って欲しいんだけど、受け取ってくれる?」

「えっ? いいの!?」


 実はちょっと欲しいなと思っていたので嬉しい。

 もしかしたらトゥーリオの事だからそれに気づいていたのかもしれない。

 私は喜んで受け取って、はたと気づく。


「あれ、もしかしてこれってまた代わりに血を寄越せとか言われないよね……?」


 それを聞いたトゥーリオがむせた。


「言わない言わない! 僕を何だと思ってるの!?」

「だってトゥーリオ吸血鬼になるとちょっと性格変わる」

「そんなことないよ! いつもと同じだよ!」


 ね?とにっこり笑うトゥーリオに私は頷いた。


「そうかも。つまりただ猫を被ってただけなんだね」

「も~~。そんな事ばっかり言うんだったら、本当に血を寄越せって言っちゃおうかな?」

「すみませんでした」


 ふざけあうのはこのくらいにして、見つけた文房具屋に立ち寄る。

 使い捨てにもできるようなボールペンを20本ほど購入して、届けてもらうのはさすがにどうかと思うので鞄にいれてそのまま学園に帰ることにした。


 少し薄暗くなった道を歩くと、もう少しで学園というところで何かが飛び出してきた。

 大きめの鳥の魔物だ。


「なんでこんなところに?」


 トゥーリオは疑問に思っているようだが、私には心当たりがあった。

 これは、私が学園内でキメラに襲われた時によく似ている。

 その証拠に鳥の魔物はトゥーリオではなく私をずっと狙っているのだ。

 避けて学園に入ろうと試みるが鳥は素早く飛んで邪魔をするため進むことはできない。

 わたしに魔法攻撃を『無効化』されていると気づいたのか、時々羽根で強い風を送って土埃を起こすことで視界を奪い、飛び掛かってくる。

 必死に避けていると、トゥーリオも鳥が私だけを狙っていることに気づいたようだ。


「もしかして、ロザリアへの嫌がらせ?」

「たぶんそう。ごめんねトゥーリオ、巻きこんじゃって」

「いや、それについては全然問題ないよ……幸いもうすぐ夜が来る」


 確かにさっきまで少し残っていた太陽の光はすでに消え、宵闇に変わりかけていた。

 トゥーリオがすっと眼鏡をはずすと、その瞳が真っ赤に変わっていた。

 脱いだフードマントを私に手渡し、牙だけではなく、蝙蝠のような翼もはえたトゥーリオが鳥の魔物に向かって攻撃を放った。

 弾丸のように早い風魔法だが、鳥も風を得意とするらしく同じ風魔法で応戦している。

 私は鳥の魔法を『無効化』してしまおうとじりじりと近づいた。


「あぶない!」


 近づいた私を見逃すはずもなく、鳥は私を鋭い爪で掴もうと飛び掛かってきた。

 トゥーリオが間一髪で私を抱えて飛び上がる。


「僕はライカンほど強くはないんだから、大人しくしてて」

「はい、ごめんなさい……」


 大地に降ろされた私は『無効化』が働いてしまわないよう少し距離をとった。

 それを確認してトゥーリオは鳥に直接とびかかって火魔法を叩き込む。

 分厚い皮膚で覆われてて魔法が届きにくいのか、何度も何度もそうやって鳥の攻撃を躱しながらダメージを蓄積させてようやく魔物は倒された。

 たくさん魔法を使ったせいか、トゥーリオは疲労困憊している。


「魔力が足りない……喉が渇いた……」


 少し虚ろな瞳で身体を引きずってトゥーリオは歩き出した。


「ロザリア、悪いけどついてこないで。今君を見たら間違いなくおねだりをしてしまう。それどころか相手が誰でも襲いかねない……その前に早くライカンに会わないと……」


 そのまま旧校舎の方へと歩いて行った。

 1人残された私は、ライカンを探すことにした。

 旧校舎にいて会えているならいいが、満月の時以外は立ち寄らないはずだ。

 寮を訪ねたが、いない。

 寮母さんが、友達だという人が来て学園の外に食事に行ったと言っていた。

 つまり、いつ帰ってくるかわからない間、トゥーリオは1人で苦しんでいることになる……私のせいで。


 そんな事指をくわえてみていられるはずがなかった。

 私は寮を抜け出し、旧校舎に入るとトゥーリオの居るだろう部屋までいってノックをする。


「トゥーリオ。体調はどう?」

「ロザリア……来ないで」


 体調がよくないことだなんてわかっているくせに。

 私は自嘲して扉を開こうとしたが開かない。

 トゥーリオがカギを閉めているらしい。

 開けて、といいながらどんどんと叩く。


「ライカンを探しても見つからなかったの。同室の人に聞いてもいつ戻るかわからないって。それまでトゥーリオが1人で苦しんでるのを知ってて何もしないなんて出来ないよ……」

「やめてロザリア。僕に希望を持たせないで。お願いだから帰って!!」


 トゥーリオが何のことを言っているのかわからない。

 血のことだろうか?少しくらいなら飲まれる覚悟で来ている事を告げたが、違うと言われた。


「ロザリアの傍に居れば、僕は君を求めずにはいられない。でも君は絶対に手に入らない。わかっているから傍に居てほしくない」


 「ライカンが来るまで大人しく寝ているからそっとしておいて」と言われて、私は自分の『無効化』を抑えて魔力を練り土魔法をぶっ放して扉を壊した。


「意味がわからないことばっかり言わないでよ! いいから友達が苦しんでいるのくらい助けさせなさいっ!」


 壊れた扉の破片を拾って自分の掌を傷つけると、すぐに赤い血が垂れてくる。


「飲んで。トゥーリオ、私魔法ちょっとは使えるようになったから、限界だと思ったら魔法使ってでも止めるから」


 流れる赤い血を見たトゥーリオは本能のままに私の掌に飛びついた。

 一滴も残さないように舐めとると、私の首筋にふらりと近づいてこようとしてピタリと止まる。


「いいよ」


 私が言うと、首筋に牙が突き立てられた。


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