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ライカンと過ごした夜

 次の日、学園に行った私はライカンを探していた。

 バディの腕輪は私が魔力を使えないせいで通信機能が使えない。

 ライカンは授業をよくサボるし、用事がある時に限って見つからない。


「トゥーリオ、ライカンを知らない?」

「あぁ……ライカンなら、あそこかも」


 知り合いっぽさがある2人なら何か知っているかもと聞くと、トゥーリオは学園の西にある旧校舎を案内してくれた。


「僕は入れないけど、たぶんロザリアなら大丈夫だと思うよ」

「ええっ!?一緒についてきてくれないの!?」


 廃校舎はまわりにツタとコケが生え、電気がないので薄暗い。

 劣化したガラスは埃だらけで中は見えず、お化けでもでてきそうな雰囲気でとても恐ろしい。


「明日は満月でしょ。満月になるとライカンは自分を抑えきれなくなるからここに閉じこもって過ごすんだ」

「えっ?でもまだ夜じゃないよ」

「夜じゃなくても月はでてる。満月だと夕方よりも前にね。だからここに居るのは多分間違いないよ。逆に今日は僕は力がでない日だから、一緒についていってもライカンに殺されそうになるだけさ」

「トゥーリオって一体……」

「さあ。これ以上はひみつ。ロザリアなら『無効化』でなんとかなるでしょ、じゃあね」


 1人残された私は旧校舎の入り口を睨んだ。

 なんとかなるって……本当になんとかなるんだろうか?

 でも、ライカンは魔力が膨らんで満月になると暴れだすのが止められないって言っていたから、私が先に『無効化』で封印を解いて魔力をある程度流せばライカンは楽になるかもしれない。

 それは私が今からライカンにしようと思っていた頼み事にも関係することだったので、私は意を決して旧校舎の扉を開けようとした。


 がっちゃがっちゃ。


 当然だが鍵がかかっていた。

 他に入れる場所はないかとあたりを見回すと、壁に穴が開いている場所が見つかった。

 私の身体は小さい方なのでこれくらいの隙間なら入れそうだ。


「ライカン、いる??」


 忍び込んだ教室からでて廊下を歩きながら気配がないか探す。

 あちこちで蜘蛛の巣がはっていて、時折ガラスの破片も落ちている。

 既に引き返したくなって半べそでいると、「誰だ?」とライカンの声がした。

 声のした扉に手をかけると、ライカンが「開けるな」という。


「私だよ、ロザリアだよ~~」

「……ロザリアか。何しに来た」

「ライカンの魔力消費に付き合えないかと思って来たの。入ってもいい?」

「……あぁ」


 扉を開けると、その部屋だけは埃もゴミもなく清潔だった。

 灯りはないが、まだ夜ではないため閉めたカーテンから漏れる光でうっすらと見える。

 ライカンは保健室のような場所でベッドの上に座っていた。


「今月はテスト前で実技訓練の授業があまりなかったからちょっとキツい。手伝ってくれるなら助かる」

「うん、いいよ。そっちに行ってもいい?」

「あぁ。この場所を教えたのはもしかしてトゥーリオか?」

「そうだよ」


 私はライカンの隣に腰かけた。


「溜まってるから時間がかかるかもしれねぇ」

「わかった。封印、触るね」


 ライカンの首筋にあるタトゥーに触れると、狼の耳と尻尾が生える。

 いつもよりも瞳の赤色がぎらぎらとしていて興奮しているような感じがする。

 ライカンは隣に座っていた私を自分の膝の上に乗せて抱えた。


「……ひゃっ」

「この部屋をぐちゃぐちゃにはしたくないから、少し移動する」


 そのまま抱っこされて暗い廊下をライカンは迷いなく歩いていく。

 暗くても狼になるとよく見えるらしい。

 机などが一斉なく片付けられた教室につくと、ライカンは1つ椅子を持ってきて私を抱えたまま座った。


「あの、私も椅子に……」

「このままでいろ」

「ひゃい」


 赤い瞳がぎらぎらして威嚇され私はすくんだ。

 そうして私を抱いたまま、ライカンは右手を伸ばして魔法を展開させていく。

 この旧校舎にはライカンが暴れてもいいようにシールドが張られているらしいが、私がいる以上そのシールドが『無効化』されていてもおかしくない。

 そのためライカンは部屋を壊さない様に、魔法の種類を選んだ。

 土で的を作って、凍らせた氷の塊をあてて破壊し、その残骸を風で遠くへ押しやる。

 炎がお手玉のように展開されて、ライカンが作った水の中にどんどん撃ち込まれては消えていく。

 地味な作業だが確実に魔力は削られていく。

 私はライカンの邪魔をしないように首に手を回したまま大人しくしていた。


「なあ」

「ん?」

「見たい魔法とかあるか?正直、いつも力任せに暴れてたから加減とかどんな魔法を撃てばいいとか考えてなかったから思いつかねえ」

「そうだねぇ……じゃあ、いっぱい花を咲かせるとか?」

「花……どんなものがあるかわかんねぇ……」


 私は花の外見を語って聞かせた。

 魔法はイメージで発動するのだから、伝えればその通りになるかもしれない。

 私が指示するたびに花や樹が教室を飾って、ちょっとした綺麗な庭のようになった。


「ここに土でテーブルを作ったりもできる?」

「できる。こうか?」


 ライカンは私が言えばなんでもすぐにできる。

 意外と細かい装飾なんかも作ってくれて何気にセンスがいい。


「すごいすごい。おしゃれな庭みたい」

「ははっ、毎月の苦行が……こんな風になるとはな」

「噴水も作ろう。土魔法で囲った中にお水を入れて、風魔法を使ってずっと循環させるの」

「へーへー。お姫様の言う通りに」


 私は楽しくなって、ライカンに抱えられたままご機嫌で理想の庭造りをした。

 魔力でできたレンガを風魔法で動かして敷き詰め、土魔法のゴーレムたちが楽しそうに遊んでいる。

 なんともメルヘンチックな光景である。


「どうかな?魔力、消費できてる?」

「ああ。おかげさまで。ただ夜になると魔力が更に膨れ上がるから、この調子でまだ消費し続けないとだな」

「わかった。付き合うよ」


 庭はいったんリセットして、今度は土魔法で小さなお城を作ってもらった。


「俺はもともとこんな体質じゃなかったんだ」


 城に飾るミニチュア松明に1本1本火魔法を使いながらライカンが言った。


「怪しげな研究施設にみたいな場所に攫われて、気づいたらこうだった。人狼として魔力が増えたはいいが、成長がおいつかず魔力だけが暴走してるらしい」

「成長って、ライカンは随分大きいよね?」

「あぁ。デカくなるために鍛えたし食うもん食ったからな。たぶん来年くらいには制御できるようになる筈だ」


 城の周りに城壁がつくられ、周りにたくさんの家が作られ始めた。


「そうなんだ。じゃあ、来年封印が解けるようになるまでは私とバディだね。そうだ、私ライカンに無効化を制御する練習を手伝ってもらおうと思ってたんだ」

「無効化の制御だ?」

「カイとの練習時間は限られてるから、自分でも練習したいの。ライカンに触れても封印が解けないようになれば制御できてるか一目でわかるでしょう?」

「なるほど。協力するのはいいが今日はだめだ」

「それはわかってるよー!」


 小さな街には川が流れた。

 雪が降り始め土人形は寒そうに震えている。

 ミニチュアが精巧すぎて私は夢中で覗き込もうとし、ライカンに引き戻された。

 そうだった、首から手を離しちゃいけないんだった。



「なぁ、もし封印が解けても大丈夫になったら」

「うん?バディ解消だよね?来年にはたぶん、私もさすがに魔力扱えるようになるでしょ〜〜大丈夫だよ」

「いや、バディ解消したくねぇ」


 ぐるぐると竜巻が現れて街と城を全部消し去った。

 消えた後の床からまた次々に花が咲き始める。


「ずっとお前と一緒に居たい」


 抱きしめてくる腕が強まって、私はライカンの方を向いた。

 相変わらずギラギラした赤い瞳が射抜くように私を見ている。


「ロザリアが好きだ」


 花が弾けて花びらが舞う。


「返事はいらない。お前まだ、あの聖女にご執心なんだろ?だから俺がどんなに望んだってロザリアが俺とずっと一緒いいる訳ないってわかってる。すまん、本当は言うつもりなかった……」

「ライカン私のこと好きだったの!?便利な道具みたいなものかと思われてると思ってたから嬉しい。確かにカイも大事な幼馴染だけど、ライカンも大好きな友達には変わりないよ。バディは……まだわからないけど、もし解消しても友達のままだから大丈夫だよ!」


 教室の隅の方で急に爆発が起こった。


「ひっ!?」

「すまんちょっと暴走しかけた」


 大丈夫かとライカンを見上げれば、ライカンもまた呆れた顔で私を見下ろしていた。

 なんでよ失敗したのライカンでしょ。


「お前は聖女が好きなんじゃないのか?」

「好きだよ?カイは昔から私の1番仲良しの()()()だもん」


 私の言葉を聞いたライカンが噴き出した。もういくつか小さな爆発が起こる。


「す、すまん。え?まさかお前……いや、ロゼリアならあり得るか……?」

「なに?言いたいことあるならはっきりいいなよ。私たちバディでしょ」

「いや、なんでもない。もしそうなら俺にも可能性があると思って」

「なんの可能性?」


 ライカンは急に機嫌がよくなって、爆発した部分を魔法で修復しながら答えた。



「お前の中で聖女より上にいける可能性だよ」

「ええ〜〜?あるわけないでしょ、カイが1番だっていってるじゃん」


 否定したのに、ライカンは相変わらず機嫌が良さそうだ。

 ギラギラした赤い瞳が少し柔らかくなって、もしかしたら魔力が落ち着いてきたのかもしれない。


 結局そうやってライカンの魔力消費に付き合いながら、私はその腕の中で寝落ちしてしまい気づいたら朝だった。




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