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聖女の特別授業

 

 王宮につくと、アレス殿下と別れて、カイに連れられて客室に案内された。

 柔らかなソファーに腰かけて、カイに手を握られる。

 カイの手は私よりも薄く、少しだけ大きい。


「どのくらいの魔力をそそげば『無効化』が剥がれるか貴女にもわかるように、今から指に針を刺します。少しずつ力を強めながら回復魔法をかければ、『無効化』が剥がれた瞬間から徐々に指が治るでしょう。貴女はその時の自分の身体の変化に集中してください」


 長い睫毛に覆われた紫の瞳が伏目がちになって私の指に向けられる。

 魔法の針にチクッとして刺され、指先から血がでたところへ、カイが回復魔法をかける。

 その姿に見とれてしまい、指を治療し終わったカイが「どうですか?」と声をかけてきてからようやくハッと意識を取り戻した私は慌てて謝った。


「ご、ごめんなさい!わかりませんでした!」


 カイがジト目で私を見た。


「ちゃんと集中しないと、何度も痛い目にあうんですよ」

「は、はい……」


 もう一度チクッとされて、今度はカイを見ずに患部を見ることにした。

 少しずつ強められる回復魔法に意識を集中すると、怪我が治り始める瞬間ぱちんとはじけたような感覚を得る。

 指先がじんわりと熱をもったようになり、完全に治ると熱がすうっと引いていく。

 喪失感のようなものを覚えてしばらくそのままでいると、身体の内側から薄い膜のようなものが広がっていく感覚があった。


「何か、感じたかも……」

「どんな感じでしたか?」

「カイに触られたところは暖かくて、それがなくなってしばらくすると身体の中からすうって何か広がっていったの」


 私が説明すると、カイは頷いた。


「暖かく感じたのは、注がれた私の魔力でしょう。中から広がったのはおそらく無効化の発動する感覚です。今度はもう指を刺さずに貴女に魔力を流しますので、その感覚をもっと拾えるよう集中してください」

「はい!」

「この握っている手から流していきますよ……」


 私は意識がそれないよう、目をつぶって気を集中させた。

 『無効化』が剥がされ、握られた手から少しずつ流れ込んでくる暖かい感覚が、そのまま私の全身をぐるりとかき回していく。


「あっ……」


 きゅん、とお腹が絞めつけられたような感覚を覚えて思わず声を漏らす。

 私の中で暖かいカイの魔力と、私の『無効化』が広がっていこうとする力が接触したのがわかる。


「何か感じましたか?」

「う、うん……」

「たぶん、今、ロザリアの中で私の魔力と貴女の能力が拮抗しています。わかりますか?そのまま自分の能力を押さえるように意識してみてください」


 能力を押さえるようにってどうやって?

 箱の中に閉じ込める?

 うーん、何か違う気がする。


「私を受け入れて。抵抗しないで」


 カイを受け入れる?

 もちろん、カイならいつだって私は受け入れるよ。

 そう思うと、暖かいのが強くなった。


「そう、上手ですよ」


 暖かい魔力で身体が満ちているのを感じて、わたしは少しぼうっとする。

 酔っ払うってこんな感覚だろうか。


「今完全に無効化を押さえ込めていますよ。わかります?」

「ん……」


 ちょっとふわふわする。


「そのまま、何か魔法を使用するイメージをしてみて下さい」

「魔法……どんな?」

「そうですね。火は危ないので……では、土で人形を作るイメージをしてみて下さい」


 私はモモが人形を作っていたのを思い出した。

 今日実際に見たのでイメージがしやすい。

 すると、お腹の奥が更に熱くなって、そこから上に向かって何かが駆け抜けていく。

 目の前でぽこり、と床が膨らみ小さな人形ができた。


「で、できた!?」


 私は嬉しくなって、もう一度やろうとお腹に力を入れた。

 1度できたのが大きかったのか、また人形が1つ増えて並んだ。

 そのままぽこぽこぽこっ、と続けて人形がたくさん産まれる。


「ロザリア?まだ作るのですか?」

「あっ……と、とまんないっ……!だめっ、とめてっカイ……!」


 私のお腹からはどんどん暖かいものが流れて行って、人形が増え続ける。


「落ち着いて、焦ってはだめです。止めるのをイメージするんです」

「ダメなの、暖かいのがどんどん勝手に……あああっ」


 止めようと思っているのに制御ができない。

 それどころか暖かかった感覚が熱さに変わり、身体が燃えるような気さえしてくる。


「はあっ……はっ、はっ、はっ……」


 息がしづらくなって、一生懸命に空気を吸おうとするが、うまく吸えない。

 人形はまだ増え続けている。


「まずいな。過呼吸まで起こしている……ロザリア、ごめんね」


 そういうと、カイは私を引き寄せてキスをした。

 口を塞がれて、鼻も摘ままれる。

 息が苦しくて暴れる私をソファに押し倒すカイの手は力強くびくともしない。


 しばらくするとふ、と呼吸が楽になった。

 暴れるのをやめると、土人形がすべて消える。

 それを横目で見たカイの唇が私の涎で出来た糸を引いて離れた。

 思わずカイの唇に目が行き、銀糸をぺろりと舐めとる仕草にドキリとする。

 し、親友とキス、しちゃった……医療行為だけど……。



「落ち着きましたか?」

「は、はい」

「魔法の発動はうまくできていました。つまり、貴女には魔力がある。課題はコントロールですね。今日はここまでにしましょう、いいですか?私のいない場所では絶対にまだ魔力を扱う練習をしてはいけませんよ」


 綺麗な顔がすごむと怖い。

 私は首振り人形のように何度も頷いた。




 ◇◆◇




 アレス殿下のところへカイと一緒に報告にいくと、帰りもアレス殿下じきじきに送ってくれることになった。

 カイは残念ながら用事があるとかで一緒ではない。

 忙しいから仕方ないけど、また魔力を扱う講師として会えるらしいので我慢、我慢。


 帰りの馬車までエスコートされて乗り込む。


「やはり魔力はあったようだな」

「はい。暴走してしまいましたけど……」

「過呼吸を起こしたと聞いた。誰でも最初はうまくいかないものだ、無茶はするな」


 アレス殿下は優しく微笑んだ。


「はい!期待に応えられるよう頑張ります!」

「もし、お前が自在に魔力と特殊能力を扱えるようになったらカイも幼馴染の親友だと認めるかもしれないぞ」

「本当ですか!?」


 私は身を乗り出した。

 そもそもどうしてあんな風に頑なに認めないのかが謎だった。


「ああ。カイの傍にいれば様々なものに巻き込まれる。政治的な陰謀もあれば直接的な嫌がらせなどもあるだろう。そういった事に巻き込みたくないからアイツは知らないフリをしているだけだ」

「そうだったんだ……!」


 やっぱりカイは優しい!

 私のためにそんな風にしていてくれたなんて。


「お前の『無効化』は強力だ。女神がカイのためにというのなら、その隣にいるためにも頑張って欲しい。だが、カイの方が怖がってお前を隣に置きたがらないのが問題だ」

「私がちからを使えるようになれば変わりますか?」

「変わる。断言しよう、ちからを使えるようになればお前は色んな人に求められ、欲され、必ず目立つことになる。そうなればカイだってもう巻き込みたくないだとと言っている場合ではなくなるだろう」


 私の喉がごくり、となった。


「だが、そうなっても忘れるな。カイのために与えられた力だ。欲にくらんで迂闊なことをするなよ」

「それはもちろんです。ふふっ、アレス殿下は本当にカイの事を大切にしているんですね。殿下のような方がカイの傍にいてくださって安心しました」

「言っておくが、恋愛感情はないぞ」


 えっ、そうなの?

 美男美女でお似合いだと思ったんだけどな。

 ってことはカイの片思い?

 親友の恋……カイ、私応援するからね!!

 そう思っているのが顔に出ていたのか、私をみてアレス殿下はため息をついた。


 馬車が学園に到着する。

 もう暗いからと寮まで送ってくれる紳士っぷりに私は深く感動して何度もお礼を言った。


「ではまた。次に聖女の予定が空いた時迎えに来る」

「はい!」


 どんどん強くなって、カイが親友だって胸を張って言えるくらいになって、私はその隣に堂々と立って居たい。

 私はその日、女神様に上手に魔力と能力が扱えますようにと祈った。


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