表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/94

⑪ー2 死との邂逅 その2

 やっぱり正面から倒すしかないのか……でも、私と彼とじゃ力の差はあまりない。

 お互い巨体を動かすのに相応の消耗が要るわけだが、もし私の方が先に体力切れを起こしたら終わりだ。


「待ってくれ、キミも最初から人魔が憎かったわけじゃないんだろう!?」


「ウルサイ! 殺ス殺ス殺ス!」


 もうダメか。私の不器用さが招いたこととはいえ、話も通じそうにない。

 重い拳を触手で受け止めるたび、痛みで痺れてしまう。そもそも触手には骨が無い分、真正面からぶつかりあうと質量や恒常性のせいで押し負けてしまうのだ。


 しかもここに至って恐ろしい事実に気づいた。

 カラマーの奴、ほとんど体力を消耗していないように見えるのだ。


「捕マエタァ!」


「しまった……!」


 カラマーが6本の腕で私の触手を掴んだ。残った2本の触手でカラマーの頭を叩き抵抗してみるが、そんなことで止まる相手でもなく。


「ぐうっ……!」


 濡れた雑巾を床に叩きつけるように、カラマーは私の身体を地面に叩きつけた。痛みのせいか目がチカチカする。身体が熱い。早く抜け出さないと。


 私だって戦闘経験が少ないわけじゃないが、敵はたいてい私より小柄だった。自分と変わらない体格と言えば野生のモンスターくらいだったが、こんなに器用な攻撃を放ってくる相手じゃなかったし……


「ヌッ!?」


 触手でカラマーの喉を正確に突くと、さすがに耐えきれなかったのか拘束が弱まった。その隙をついてカラマーの手から何とか脱出し、距離を取る。

 カラマーは軽く咳をして胸を叩いているが、大した負傷でもなさそうだ。


 そして、さっきのは不意打ちが決まったから良いものの、次に捕まったら無事では済まないだろう。


「生意気ナ女ダ! 殺シテ食ッテヤル!」


 地団駄を踏むカラマーを見ても不思議と私の心に恐れはなかった。油断すれば大ケガに直結するような相手であるのに関わらず、だ。


 初めてアンゴと対峙した時の方がもっとずっと怖かったせいだろうか。あの時は本当に恐怖で頭がパニックになってしまい、アンゴには悪いことをした。

 私が女王という立場で無かったならすぐにでも逃げ出していただろう。まるでアンゴが怪談話に出てくる死神のように見えたのだ。いま一つ神様の実在を信じていない、不敬な私なのに。


「仲間が待ってるんだ。殺されるわけにも食われるわけにもいかないな」


「知ルカ! オ前ハ、モウイイ」


 言葉が切れるのと同時に凄まじい速度でカラマーの巨体が迫ってきた。

 あの図体でどうしてあんな速度を、と思う暇もなく全体重を乗せた拳が迫ってくる。3本の右腕に遠心力を乗せて。

 かわせるはずもないが、正面から受けるわけにもいかない。ここは触手でうまくいなして……


「がっ……!?」


 触手を左半身に集めて攻撃を防ごうとした瞬間、逆の右半身に凄まじい衝撃を感じ、そのまま吹き飛ばされてしまった。

 痛い。殴られた右半身だけじゃない。地面に打ち付けた身体がそこかしこ痛む。私の身体がこんなに飛ばされたのは初めてのことだ。

 口に苦いものを感じて吐き出すと、赤黒い血が地面に溶けていった。内臓まで傷ついてるのか……いつぞや吸血鬼たちと戦った時よりもずっと窮地だ。


「立テ。嬲リ殺シテヤル」


 ドデカい図体を跳ねさせながらカラマーがニヤニヤと笑った。巨体に似合わぬ身軽さだ。

 殴られた瞬間は何が起きたかわからなかったが、おそらく奴は左半身を殴ると見せかけてそのまま半回転し、ガラ空きの右半身を殴ってきたのだろう。


 稚拙な話し方と歪んだ性格に似合わぬ「武」の才能。こんな生き方でなければ、いずれ大成していたのかもしれないのに。


「ゲホッ、ゲホ……私は、キミを、誤解していたかもしれない」


「アア?」


「キミなりに、人魔に好かれようと努力していたのだな……その身体になる前も、それなりに武道の心得があったのだろう。その努力が報われなかった虚しさ、か……」


「命乞イデ誉メテルノカ!? バカニシヤガッテ……!」


 本心から誉めたつもりだったが、どうやらそれも届かないらしい。何があったか知らないが、同情している場合でもないか。まずは自分の身を守らないと。


 カラマーが走って近づいてくる。奴の性格上、倒れている相手だって平気で踏みつけてくるだろう。早く逃げないと。

 でも、視界がグラついて容易に動けない。まずい、もうカラマーの足が近い。このまま腹を蹴り飛ばされるか、頭を踏みつけられるか……


「おいテメェ、ティンテから離れろ!」


「アンゴ!?」


 身を守るため体を丸めた瞬間、遠くからアンゴの叫び声が聞こえてきた。そうか、援軍が来るまで時間を稼ぐことはできたのか……

 ただ、二人がかりでもこの相手は厳しい。能力の相性というか、私や仲間たちではカラマーを止められるものはいない。

 アンゴの「恐怖の大王」がうまく刺さればいいが、以前対峙した時もあまり効かなかったような……


「ナンダ……? 気味ノ悪イ男」


「ティンテに触れるなって言ってんだよ!」


「止メテミロ!」


「うおおぉぉあああ!!」


 走って近づいてきたアンゴが渾身の力を込めてカラマーに殴りかかる……が、彼の拳は水面を叩くような音を弱々しく鳴らしただけだった。


「……?」


 首を傾げるカラマー。殴られたはずなのに痛みが無さすぎて面食らっているのだろう。結果的にカラマーの動きを止めることには成功しているが、ダメージ以前の問題だ。


「おおおぉ!」


 アンゴの声は勇ましいが、拳は何度叩いても情けない音を立てている。どうもアンゴに格闘技の経験は無さそうだ。

 まあエーゲルの力を借りた時も力任せにバタバタ動き回るくらいしかしてなかったしな……


 見た目だけは滑稽だが、アンゴの怒りは本物でこちらまで肝が縮み上がりそうだ。奥歯のもっと奥まで震え上がるような恐怖。カラマーも精神的に動揺していないとおかしいはずなのだが……


「何シニ来タ……」


 呆れた声で6本腕の怪物はため息をついた。どんな技を使ったのか知らないが、恐ろしいことにアンゴの能力が効いていない。


「おおおぉ……アレ?」


 勇ましく吠えるアンゴは軽々と摘まれ宙ぶらりんにされた。捕らえられた子リスのように手足がジタバタと空を切る。


「邪魔ダ」


 そのまま空中へ放り投げられたアンゴ。私が起き上がるよりも早く、地面へと自由落下していく。


 鈍い音とともにアンゴの呻き声が聞こえた。


 私の身体はボロボロで、アンゴの能力も効かないときた。これ……絶体絶命なんじゃないか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ