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⑨ー6 それぞれの戦場 その6

「ゼンゼマンは一言で言えば無敵なのです。こちらの攻撃は何も通りません」


「え……?」


 なんだよ、それじゃ倒す方法が無いじゃないか。確かにティンテやシャルフの攻撃は当たってなかったけど、いくらなんでもそんな……この世界にそんなゲームのバグ技みたいな能力は無いんじゃなかったのか。


「じゃあ拘束とかはどうですか。あるいはノエルに凍らせてもらったりとか。毒で麻痺させるとか、色々……」


「何も通らない、というのは言葉通りです。それらの手段もあの者には通じません。『腐り手』の男が倒せないならゼンゼマンだけでも、と私も色々試しましたがすべて無駄でした」


「そんな……」


 じゃあ打つ手なしってことか。ゼンゼマンに黙ってやられろと? いや、でも何か引っかかるな……無敵という割にゼンゼマン自身に強そうなイメージは湧いてこないのだ。


「でも、それならどうしてゼンゼマンはわたしたちを攻撃してこなかったんだろうねえ。そんな強い敵なら地下でわたしたちは死んじゃってたはずなのに」


 そうだ、エーゲルの言う通り本当に無敵なら一人で俺たちを殲滅することだって可能なはずだ。人魔のことは相当憎んでるし、容赦する理由はないだろう。


「攻撃しなかった、ではなく、攻撃できなかったということですか」


「さすがスキュラの女王ですね。察しがいい」


 ドライエード様に誉められて妙に誇らしげなティンテ。触手をもぞもぞと動かして落ち着きがない。いや俺も薄々気づいてたけどな……とここで言うのは野暮だろう。


「私を襲撃してきた時も、『腐り手』だけしか攻撃はしてこなかったのです。ゼンゼマンも加勢して火を放つなりすれば良かったものを。やはりあれは、攻撃できなかっただけなのでしょう」


「便利なのか不便なのかわからない能力っすね……」


「相手の司令塔を破ることができないわけですから、脅威には変わりありませんわ。アンゴ様もくれぐれもお気をつけて」


 『無敵の賢者』ゼンゼマンに『腐り手』の男か……厄介な連中だが、相手の力がいくらか判明しただけでも収穫か。

 またいずれ戦うことはあるだろうし、対策は考えておかないとな……


「ドライエード様、今後はわたくしたちと一緒に行動されますよね? ご存知かもしれませんが、この大陸に来たのも人戻会に抵抗する仲間を探すためでして」


 ドライエード様の小さな手を取るシャルフ。ドライエード様の知恵を借りたいという気持ちもあろうが、彼女が一度行方不明になってしまったこともあり離れるのが不安なのだろう。


「私は……」


 シャルフの問いかけにドライエード様が答えようとしたところで、ノエルがむっくりと起き上がった。

 目をこすりながら身を起こす姿はまるでただの寝起きのようだ。ドライエード様のお陰で生活に支障がないレベルで治ったってことか。ひとまず安心だ。


「えっと、ここは……確かノエルは刺されて……」


「気がついたのかい、哀の勇者」


「うわあああああ、タコ! タコの化物がいるのです!」


「怖くない! 私は怖くないぞ! ほらよく見ると愛らしいだろう!」


 ティンテの触手がうぞうぞとノエルに近づく。

 ノエルはといえば近くに自分の水晶が落ちていないか必死で探している様子だ。どうやら反撃するつもりらしい。

 まあ寝起きにティンテの異形な身体を見るとビビるよな……ノエルの場合は人戻会によって人魔は敵だと刷り込まれてたから余計に。


「二人とも落ち着けって」


「あっ、アンゴさん! 助けてほしいのです! 化物が!」


 うーん……人魔初心者にティンテは刺激が強すぎるか。シャルフも別の意味で怖いし、ここは……  


「エーゲルちょっと相手してやってくれ」


「えっ、うん……よ、よろしくね……」


「あっ、どうも……よろしくなのです……」


 うん、思ったとおりこの二人は気が合いそうだ。臆病な性格はよく似ているし、見た目だけなら同い年ぐらいに見えなくもない。


「ふへへ……可愛いねえノエルちゃん……なんか妹みたい」


 ニヤニヤと不気味な笑いを浮かべるエーゲル。見た目が可憐な少女だから許されてるが、胡乱なリアクションだけ見れば不審者そのものだ。


「ヒッ……この子、牙が……」


「大丈夫大丈夫、ちょっと血を吸ったりするためのものだよう」


「血を!? うわああ助けてアンゴさん!」


 遮二無二しがみついてくるノエル。爪が食いこんでかなり痛いのだが。

 心配したドライエード様とシャルフも寄ってきたが、頭から花が生えている二人のことも怖いらしくノエルの爪がますます食い込むだけだった。

 さらに後ろからカナンが覗きこんできてノエルを覆う大きな影ができた。


「あっ、この子もしかして雪女使いなのー?」


「ヒッ……ごめんなさいごめんなさい」


「別に怒ってはないけどねー。アタシはこうして生きてるわけだし、キミも人戻会に利用されてただけでしょ?」


「あぅ……でもノエルは……」


 申し訳なさそうにもじもじと指遊びをするノエル。落ち着きのないその仕草を見ているとこっちまでソワソワしてくる。


「そだねー、そんなに謝罪したいなら腕の一本ぐらいくれない? ちゃんと美味しく食べてあげるから」


「ヒッ……!?」


「おいカナン! ビビらせてんじゃねえよ!」


「ごめんってー」





 結局ノエルを落ち着かせるのに30分ぐらいかかったせいで妙に疲れてしまった。

 ここにいる人魔は敵ではないと彼女もわかってくれたのだが、やっぱりまだ怖いらしく俺の背に隠れている。

 しかしノエルは俺のこと怖くないんだろうか。今のところは人魔への恐怖感の方が勝ってるってことなんだろうけど……


「しかしお前、そんなビビりなのによくブゼン大陸に来れたな」


「人戻会の人たちに連れられて無理やり……うぅ……」


 半泣きの状態で俺の服をぎゅっと掴むノエル。強引に戦わされるわ刺されるわやっぱり気の毒だなこの子……


「あのー、そろそろ話を戻してもよろしいでしょうか」


「悪いなシャルフ。ドライエード様に一緒に来てくれ、という話だよな」


「そうなのです! ドライエード様のお力と知恵があれば百人力で!」


 珍しく鼻息の荒いシャルフを見て、ドライエード様は目を細めて微笑んだ。親心というやつだろうか、無邪気なシャルフの姿をじっと見つめている。


「シャルフ、貴女がこの世界のため奮闘していることを誇らしく思います」


「それならば、ぜひ……」


「しかし私は一緒には行けません」


「えっ!?」


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