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⑧ー6 最強の勇者 その6

「お前、もしかして『哀の勇者』か?」


「えっと……そう、らしいのです」


「マジか……」


 今までもナギやトオルみたいに「勇者」という肩書きが似合わないタイプはいたが、この子はいくらなんでも……まともに勇者っぽいのはライトだけじゃねえか。


「最初から勇者って名乗っとけよ紛らわしい」


「で、でも……ノエルが勇者なんて無理な話で……勇気も無いし、勇敢でも勇猛でもないのです」


「確かにな……」


 しかしこんな情けない性格の子がカナンを襲ったのか。デカいウツボカズラからして強そうなのに、やっぱり勇敢ではあるのか?


「それで、カナンを襲ったのは人戻会の指示なのか?」


「そうなのです。なのでノエルには責任が無いと言いますか……」


「いや、あるだろ責任は。そこから逃げんな」


「ひぃ……」


 思わず苛立ってしまい、能力が漏れ出てしまっていたようだ。ノエルは木にぎゅっとしがみつきブルブル震えている。

 中学生くらいとはいえ、子ども相手に本気で怒っても仕方ないか。ちょっと話題を変えて場を和ませよう。


「驚かせて悪かったな、俺はアンゴ。お前と同じ転生者だ」


「ノエルは『高木のえる』なのです。中学2年生だったのです」


「ところでお互い木にしがみついたまま話すのも変だからさ、とりあえず下に降りねえか? 落ち着かないだろ」


「怖くて降りれないのです……」


「はあ? さっきの氷を操る能力で滑り台でも作ればいいだろ」


「でもでも、ここって結構な高さなので、危なくないのです? 木もいっぱい生えてて、滑ってる途中に頭打ったりとか」


 確かにそのまま落下すれば骨折は免れない高さだが、うまく滑り台を作ればすり傷すら負わずに降りられるだろ。

 話してるとだんだんイラついてきた。言い訳ばっかりで動こうとしないタイプの人間は嫌いなのだ。


「ウダウダ言ってないで試すだけ試したらどうだ?」


「お、おじさんこそ何か能力とか無いのですか。人にばっかり頼ってないで」


「いや、俺の能力はそんな便利なものじゃなくて……」


「それなのに偉そうにしてたのです? 自分だけじゃ降りれないのに?」


「くっ……」


 言われてみりゃ俺の方がもっと役たたずか。しかも「おじさん」呼びと来たもんだ。まだ30歳で若いつもりだったが、中学生から見たら立派なおじさんだよな……


「わかった。滑り台の作る方向とかは俺が指示するし、俺が先に滑って安全確認するよ。それでいいか?」


「それなら、まあ……」


 しぶしぶ頷いたノエルは水晶のようなものを胸元でギュッと握った。なんだろアレ、球の中で雪みたいなものがキラキラ光って……百貨店とかにああいうインテリアがあったような。


 水晶から霧が発生し、その濃霧が見る見るうちに氷へと姿を変えていく。その様を見るに、遊園地のウォータースライダーを模した氷の滑り台を造ろうとしているのだろうか。

 俺と違って便利な能力っぽくて羨ましい限りだ。


 しかし完成を待っている間手持ち無沙汰ではあるな。黙っていても間が持たないし、何か話した方が良いか。


「綺麗だな、その水晶」


「いいでしょう。スノードームなのです」


「ああ、確かそんな名前だったか」


「子どもの頃すごく買ってほしくて、でも買ってもらえなかったものなのです。こんな形で手に入るなんて」


 寂しげに目を細めるノエル。その憂いを含んだ面持ちは、笑っているのかそれとも別の感情がこもった表情なのか。俺にはわからなかった。





 10分ぐらい経っただろうか。ようやく滑り台が完成したようで、ノエルはふぅ、と息を吐いた。便利な能力ではあるが造形を作るまでにそれなりの時間が必要なようだ。

 サイズの大きいものや数の多いものを作るとなると時間がかかるってことか。あの雪女人形も相当な労力をかけて作ったに違いない。何事も万能とはいかないよなあ。


「じゃあ俺から滑るが……大丈夫か?」


「何か気になるのです? 安全性は保証できないのですが」


「いや、ノエルを残していくのが心配でな。お前一人だったら絶対怖がるだろ」


「くふっ」


 ノエルは両手で口元を押さえてクスクスと笑いだした。初めて見る笑顔は年相応に無邪気なものであった。


「会ったばかりで、しかも敵として襲ってきたノエルを心配するのですか。おじさんは変な人ですね」


「うるせえな」


 確かに我ながらお人好しというか、油断しすぎのような気もする。それでエリスにはまんまと騙されたしな。

 実際ノエルが本当に勇者どうかはわからない。話してる感じだと俺と同じ転生者っぽいけど、それだって真実かどうか確かめる術は無いのだ。


「とりあえず降りてみるな。よっと」


 氷の滑り台はやけに冷たく、服まで軽く濡れてしまったが、それでも予想していたより快適なものだった。何より無傷で地上に降りてこれたのが嬉しい。


 少し待つと、ノエルも体育座りでスルスルと降りてきた。なんとなくシュールな絵面だったが、今は笑わないでいてやろう。彼女のお陰で俺も助かったのだ。


「やればできるものですね」


 樹上まで伸びる巨大な滑り台を眺めながら、ノエルはボソリと呟いた。


「そうだな。お前ももっと自信持ったらどうだ?」


「でもノエルはそんな……」


 卑屈に笑うノエルを見て、だんだん怒りよりも気の毒さが勝ってきた。

 俺も自分に自信がある方じゃないが、ここまでオドオドはしてないし、中学生の頃ならむしろイキってたぐらいで。この歳で卑小になりたがるなんて、短い人生で色々あったんだろうな。


 ノエルも少し心を開いてくれたのだろうか、彼女は顔を覆っていた頭巾を静かに外した。

 頭巾を取ったノエルの顔は、さっきまで戦っていた雪女を少し幼くしたような顔つきだ。

 切れ長の目に小さな唇。色白で整った容姿ではあるのだか、どことなく悲しげな雰囲気を湛えている。


「ノエルの顔に何かついているのですか?」


「いや、そういうわけでは」


「もしかしておじさん、ロリコンさんなのですか?」


「そうじゃねえって!」


 まあ、女子中学生の顔をしげしげと眺めているオッサンは紛れもなく不審者なので疑われても仕方ないんだが。


「ノエルは迷っているのです。目の前の怖いおじさんを信じていいものかどうか」


「気持ちはわかるが、人戻会がヤバい組織だってことはうすうす勘づいてるんだろ?」


「うぅ……でも……転生して、右も左もわからないノエルを助けてくれたのもあの人たちで……」


「恩義があるのはわかったけど、俺たちだって譲れねえんだよ。人間と人魔が友好を結べる世界を目指しててだな……」


「うぅーん……でもでも、ノエルが役に立つかどうか」


「役に立つどころか、お前がいりゃ百人力だろ。あれだけ便利な能力持ってんだし」


 ノエルをおだてるつもりはなく、これは本心だった。勇者だけあって実際かなり強い能力を持っているのだ。味方であってくれれば心強いのは紛れもない事実で。


「そ、そうなのです……? えへへ。それなら、少しくらいは……」


「おお。ありがと……」


 ノエルと握手しようと俺が一歩踏み出すと、突然ノエルの脇腹から赤い液体が噴水のように噴き出した。


 血? 血なのか? 嘘だろ? なんで突然、こんなタイミングで?


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