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⑦ー6 怪物の安寧 その6

「不可解な、まことに不可解なことが起こっております! なぜあんなことになったのか見当もつきかねており……」


「ええい! 要点のみ話さぬか!」


 狼狽しきりのハチ女を叱り飛ばす女王。ティンテたちの身にも何かあったのか? 心臓の鼓動が否応なく早くなる。


「牢屋に、誰もいなかったのであります!」


「スキュラどもに逃げられたということかの?」


「それだけではありません! 我らが同胞すらも姿を見せず、もぬけの殻と言いますか……」


「牢番以外にも衛兵はいただろう! なぜそんなことが起きる!」


「で、ですから、不可解なことが起きたと申し上げており……」


「原因なり手がかりなり見つかるだろう! それを貴様手ぶらで……!」


 女王の側近の怒鳴り声が広間に響く。元の世界で働いてた頃もこんな感じだったなあ。営業で客を逃がした時に「なぜなぜ攻撃」を食らったりとか。原因がわかってりゃその場で対処してるってのに。


 ただ、今は余計なことを思い出してる場合じゃない。ティンテたちはどうなった? 牢番のハチ女も消えたってことはティンテたちはうまく逃げ出したのだろうか。

 あるいは第三者の襲撃とか? さすがにそれはないか。争った痕跡とかも無いっぽいしな。


「報告! 報告にございます!」


 新たなハチ女が王の間に飛び込んでくる。その場にいた全員が、闖入者の次の言葉を息を呑んで待つ。


「気絶した同胞を発見! さらにその背には張り紙が!」


「紙には何と書いてある?」


「それが……意味がわからないのです。ぼ、ら、あ、どと書いてあるように見えますが」


「ぼら、あど?」


「文字はそのようですが、意味は解読できず……」


「仲間内の暗号かの。お主にはわかるかの?」


「いや、俺にもよくわかんねえな……」


 こう言ってみたものの、半分は嘘で、半分は本当だ。ティンテたちが「どこ」にいるかはわかった。

 でも俺がそこまでどうやってたどり着けばいいのかわからない。あるいは彼女らのいる位置とかじゃなく、暗号が救出方法とか? だとしたらいよいよ意味がわからない。

 あるいは、ハチどもを混乱させるためだけのダミーかもしれない。


「ふむ。シラを切っておるようには見えんの」


「いかがなされますか、女王陛下」


「この男を奪い返されなければ十分よ。不意打ちを食らったとはいえ、奴らも逃げるので手一杯だったようじゃ。警備を固めておけ」


「御意!」


 報告に来たハチ娘は仲間に伝令を伝えるため去っていった。


 しかしコイツら、仲間が襲われたことには淡々としてんだな。おおかたシャルフがうまくワープを使って警備を出し抜いたんだろうけど、逃げるのがギリギリだったのかもしれない。

 俺を犠牲にして彼女らが前に進めるなら結構なことだ。むしろ、俺なんぞにかかずらって本来の目的を忘れてもらっては困る。

 本当にヤバい場面になったら俺一人でも何とかできるだろうし……


 ただ少し心配なのは、このハチどもが俺の能力を一定理解していることだ。

 俺のスキルが発動しない塩梅で飼い殺しにされたら、手も足も出せない。

 本当弱点だらけだなこのクソスキルは……


「さて、邪魔者どもは消えた。早う子種を捧げてもらわんとな」


「拒否したらどうなるんだ?」


「気は進まんがお主自身を拷問せねばなるまいな。恨むなら逃げた仲間を恨むがよい」


「逃げたとは限らんだろ……まあ逃げてもいいんだけどさ」


 仲間が傷つかないことは俺にとって本意なのだ。こうなったのはかえって都合がよいとすら思う。

 それに拷問といっても大したことはできないはず。こっちは貴重な種馬だぞ。余計なストレスを与えたくはないだろうし……


「痛っ!?」


 右の脇腹にチクリと痛みが走る。どうやらハチの針が俺の腹を突き刺しているようだ。

 刺された部分から注射のようにジワジワ痛みが広がってきた。目頭が熱くなり、脳の裏側あたりがジクジクと疼き出す。


「いきなり、卑怯だろ……」


「せーの、で拷問を始める馬鹿がおるか。加減させただけ有り難く思うがよい」


「ふざけやがって……!」


 腹の底から怒りが湧き上がってくるが、害虫どもの姿が見えないため俺の能力は食らっていないようだ。せめて目隠しが取れれば……


「おお、おお、ビリビリと伝わってきよるわ。ますます欲しいのう、お主の力」


「その前に殺してやるからな……! 後悔し、がっ……!」


 言い終える前に、今度は左の脇腹にぶっといやつがぶち込まれた。

 胃から苦い汁がせり上ってきて、それを勢いのまま吐き出す。血とか吐いてるわけじゃないよな、クソ……


「女王陛下に対する汚言、聞き捨てしてもらえると思うな」


「これこれ、あまり手荒に扱うな。しかしお主も強情よのう。『気が変わった』と一言述べれば済む話じゃぞ? 楽になりたかろう」


「し……」


「し? 従うと申すか?」


「死ね」


 今度は右の太ももに針がぶち込まれた。痛みのあまり息が切れて過呼吸みたいだ。

 痛い、痛い、痛い。チクリと刺されただけなのにあちこち殴られたみたいに痛む。たぶん相当腫れてるだろうな、見えないけど……


「不遜! 女王陛下、この者が二度と口を利けぬよう喉を潰しても?」


「急くでない。ここは質問を変えてやろうではないか。お主の仲間がどこに逃げたか知らぬか? 心当たりくらいはあろう? それを述べればお主自身は二度と痛めつけぬと誓おうぞ」


 仲間を売れば助けてやる、ってか。なるほどクソな取引だな。

 どうせティンテたちを使って俺の心を折にくることに変わりはない。無視一択だな。


「質問に答えないか!」


「ぐあぁっ!」


 今度は左のふくらはぎに針が突き刺さる。刺さる瞬間も痛いけど針が抜ける瞬間も痛くて辛い。

 ここまでされてはしばらく歩けないだろう。後遺症とか残りそうで怖い……だが、俺は。


「く、くたばれ害虫ども……!」


 かろうじて絞り出した声で悪態をつくと、女王バチは深くため息を吐いた。コツ、コツ、イスを叩く音も聞こえてくる。


「長引けば長引くほど苦しむだけだというに……はよう楽になって馳走を上がればよかろう」


「うるせえな暗君め……ぐっ!?」


 最初に刺された右の脇腹に鋭い痛みが走る。殴られた? 蹴られた? とにかく痛い……!


「大人しく従え。今ならまだ女王陛下は寛大な御心で貴様を許すだろう」


「だれ、が……従う、か……」


 精一杯虚勢を張ってみるが、だんだん痛みで意識が朦朧としてきた。致死毒ではないとしても痛みとストレスで死んでしまいそうだ。

 せめて俺の能力が、目を合わせないままでも発揮できれば……


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