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⑥ー2 惨毒の魔女 その2

 またいつものパターンか……俺の被ってた頭巾がズレちまってたかな。何回経験しても、人に怯えられるってのは慣れない不快感があるものだ。


「わりぃ、頼んだティンテ」


「気に病むな。すまない店主さん、私たちは迷惑をかけるつもりはなくて……」


「うるさい、寄るな! ワシの店に何の用があるんだ!? 出ていけ、この化け物!」


 さっきからひでえ言われようだな。俺そんな不気味になのかな……鏡を見てもわからないから、どんな風に見えてるのかだんだん気になってきた。

 とりあえず外で待ってるか。俺がいては話が進まない。たまには俺も普通の人間と話したいものだが……


 ティンテたちを残して店の外に出ると、いつの間にかシャルフが横にいた。慰めてくれるつもりなのだろうか。敵に対しては猟奇的な彼女だが、結構優しいところもあるのだ。


「すまんなシャルフ」


「そんなそんな! あのまま残っていたら無礼な店主を串刺しにしていたかもしれませんから。事故防止ですわ」


「なんでいちいち怖いこと言うの?」


「まあいいじゃないですか。それよりも、何か違和感がありませんか。この街」


「違和感……うーん、あるにはあるが……」


 街をぐるりと見渡すと、通行人がいくらか目に留まった。距離は離れているものの、俺たちの姿を見るなりそそくさと立ち去っていってしまう。

 避けられることには慣れてきたので、ある意味違和感は無いと言えば無いんだが……


 シャルフの言葉の意味をぼんやり考えていると、家具店の中からガシャーン! と何かが割れる音が聞こえてきた。

 何の音だ? 店主と揉めたティンテがショーケースをぶっ壊したとか?


 シャルフと目を見合わせた後、こっそり店のドアをまた開いてみた。隙間から何か見えないか、と目を凝らしたところでドアが勢いよく開き、俺の鼻っ柱に命中した。


「いってぇ!」


「おっと、ごめんよアンゴ。そんな近くにいるとは思わなくて」


「折れるかと思った……それより何かいい話はあったか?」


「いい話どころかすっごい嫌な気分になったよう!」


 ティンテの触手の陰からエーゲルが憤然たる表情で顔を出した。のんびりしている彼女にしては珍しい態度だ。

 よほど腹に据えかねているのか、チラチラと店の方を睨んでいる。


「中で何があったんだ?」


「勘違いというか何というかね……」


 ティンテは苦虫を噛み潰したような顔で語り出した。


「勘違いって?」


「私の……いや、私たちの思い込みだね。いつも通り『化物』というのはアンゴを指しているものとばかり思っていたんだ、失礼ながら」


「うん……気持ちはわかる」


「でもね、店主は我々を『化物』だと言ったんだ。ここは人魔に優しい街だと思ってたんだけど……」


「あのハゲオジサンね、ティンテちゃんのことゲソって言ったんだよ!? ティンテちゃんはイカじゃないのに! 本当に失礼だよね!?」


 エーゲルの怒るポイントはよくわからなかったが、その様子を見るに中で色々と無礼なことを言われたようだ。

 たまたま入った店で大ハズレを引いたわけか。まあ、元の世界でもたまにあったことだよな……態度の悪い店員問題というか。


「店主が実は人戻会の人間だったということでしょうか?」


「そうじゃない。まあ……そうじゃないから厄介なんだけどね」


 ティンテはため息をつきながらゆっくり歩み始めた。うねる触手がなんとなく寂しげに見える。

 どこへ向かうともなく進む彼女をみんなで追いかけてみる。


 そこでようやく俺は、先ほどシャルフの言っていた「違和感」に気づいた。


「なあシャルフ、これって……」


「思い込みや自意識過剰ではなさそうですね」


「避けられてるよな? 俺たち」


 街を歩く人影はまばらだが、そのいずれもが俺たちを見るなり離れていくのだ。中にはヒソヒソ話をしながら逃げていく者もいる。

 家具屋の店主が異常なのかと思ったが、道行く人の反応を見る限り、あの人だけがおかしいわけではなさそうだ。


 避けられているのは「俺たち」だからか、「人魔」だからか。そのどちらかによって厄介さは違ってきそうだ。


「どなたか捕まえて話をさせましょうか? わたくしのワープを使えば一人くらいは確保できますが」


「やめとけ。怯えさせるだけだろ」


「普通はしっかり『話し合い』をすればわかっていただけますよ?」


「そういうところだって言ってんだよ……」


 暗殺者寄りのスパイなだけあって、シャルフの発想は物騒でいけない。人戻会に勢力を与えないためには、できるだけ穏便に行動をしたいのだが。

 人間と人魔の間に溝を作らないこと。それが人戻会を弱める何よりの上策だと思うしな。


「でもアンゴくん、わたしたちの話を聞いてくれそうな人いないよ?」


「そうだな……こういう時は」


 きびすを返し、俺はみんなと反対側を向いた。その行動が理解できなかったのだろう、ティンテは首だけひねってこちらを振り返った。


「アンゴ? そっちは街の入口だろう。戻ってどうする」


「だから戻るんだよ。目当ての人間ならきっと街のはずれにいるだろうからな」


「そういうものかな……」


 半信半疑という態度ではあったが、しぶしぶティンテもついてきてくれる。エーゲル、シャルフも振り返って俺の後ろにくっついてきた。


「わたくしはアンゴ様を信じますわ」


「そうか……ありがてえな」


「もしアンゴ様が間違っていれば身体で償っていただければ結構ですので」


「信じるって言った矢先に不穏なこと言うなよ!」


 こうもプレッシャーをかけられる不安になってくるな……一応は頼りにされてると思いたいところだが。





 街の入口はよく見ると三叉路になっており、大通りへ向かう道の他に小さな路地があった。最初入ってきた時は気づかなかったぐらい、狭くて暗い道だ。

 とっくの昔に閉店した雑貨屋や金物屋の裏口あたりを抜け、薄暗い通りを歩む。


「ティンテ、通れそうか?」


「ギリギリね。さっき石灯篭を倒してしまったけど、弁償した方がいいかな……」


「使われてないやつだろ? 気にせずいこうぜ」


「しかしだな」


「諸問題が解決してからまた来ましょう。大事の前の小事、という言葉もございますから」


「うぅむ……」


 触手を細い人間体に巻き付けたティンテは周囲に最大限注意を払いながら進む。それでも大きすぎる下半身は周りにぶつかってしまうようだ。

 便利なように見えていたが、意外と不便も多いのかもしれない。布団もいつも上半身だけにかけてるし、実は寒がってるかもな……







 狭い狭い路地を抜けた先に、不自然に開けた空間が現れた。雑草は生えているものの、人が通れるだけの道はあり、奥に家屋らしきものも見える。

 ここに目当ての人物が住んでるはずだ。廃屋でなければ、の話だが……


「アンゴくん、なんでこんなところに住んでる人に会うの? どう考えても変な人だよう。わたしはこの荒れ具合好きだけど、人間はそうじゃないでしょ?」


 草を払いのけながら進むエーゲル。かなり家屋には近づいてきたが、いっそう雑草が鬱蒼として不安になってくる。


「だからこそ、だよ。変わり者ってのは噂には流されないもんさ。人魔が避けられがちな時勢でも話くらいは聞いてくれるはずで……」


 俺がそこまで言いかけた時、古びた家屋のドアがゆっくりと開いた。


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