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④―3 怒れる王 その3

 勇者が目撃された西ニワナに向かうことになった俺たち。今はシャルフが北ニワナの街まで食料やら支度品を買いに行ってくれている。

 結局ドライエード様の城に入るどころか、北ニワナの街にすら入れず仕舞いか……


「悪いな二人とも、俺のせいで街に入れなくて」


「構わないよ。狂躁やら人戻会やら気がかりなことが多い中、のんびり買い物もしてられないしね。全部終わったらみんなでまた来よう」


「そうだねえ。北ニワナの高級宿はお布団もふかふかだから行ってもいいかもねえ」


「へえ……出不精のエーゲルが宿泊旅を好きとは意外だな」


「好きだよお。お宿に泊まって、旅館から一歩も出ずにダラダラ過ごすの。気持ちいいんだあ……」


「それ宿取る意味なくない?」


「わかってないなあアンゴくんは」


 無為で穏やかな会話を続けているうち、シャルフが家に戻ってきた。両手いっぱいの荷物だが、四人分と考えればおかしくもないか。手伝ってやりたかったけど、俺は街に入れねえからなあ……


「西ニワナって遠いのか?」


「歩けば2日くらいかな。強行軍で行けば1日で行けなくもないけど、どうする?」


「反対。わたしは絶対に反対だよう」


「そうですわね。疲れきった状態で戦闘になれば困りますし、落ち着いたペースでいきましょう」


「決まりだな」


 途中野営を挟みながら西ニワナへ向かう。これが今の俺たちにできるベストな選択だろう。

 お目当ての勇者とはすれ違う可能性もあるが、それならそれでまた行き先を尋ねれば良い話。


 これまでも散々トラブルに巻き込まれてきた以上、体力は常に万全にしておきたい。


「そういや西ニワナにも特産品とかってあるのか?」


「農業大国だから野菜は豊富だね。畑に併設してる店だと新鮮な野菜をその場で食べられたりとか」


「果物も美味しいですわよ。最近では乾燥させた果物が流行っているようで」


「わたしはトマトの絞り汁が良いなあ……」


 なるほど、ドライフルーツやトマトジュースなんかも流通しているのか。エーゲルの和ゴスな服やシャルフのワンピースもしかり、ニワナは和洋折衷な面が多そうだ。


「平和そうなところでいいな。今度こそ俺も街に入れるといいんだが」


「アンゴ……キミも苦労人だな」


「同情するならこの能力を消してくれ……」


 申し訳なさそうに目を逸らすティンテ。彼女に当たっても仕方ないのだが、これについては深刻な悩みなのだ。


「そういえばアンゴ様、わたくしに何かされました? 最初出会った時の怖さがずいぶん和らいでいるのですが」


「あー……俺が何かしたんじゃなく、シャルフが変わったんだよ。俺に対して好い印象を持つと怖さが弱まるみたいでな」


「なるほどですねえ。お世辞ではなくアンゴ様のことは素敵な殿方だと思っていますから」


 身をくねらせて俺の肩に寄りかかるシャルフ。勘違いしそうになるからやめてほしい。自慢じゃないが俺はチョロいんだぞ。


「コラ、アンゴに色目をつかうのはやめたまえ。風紀が乱れるだろう」


「あらあら、ティンテ様はずいぶんアンゴ様にご執心ですのね」


「べ、別にそういう訳じゃ……」


「でしたらわたくしがアンゴ様と睦まじくなろうと問題ありませんよね? ティンテ様が特別な感情を彼に抱いているなら別ですが」


「くっ……ぬぬぬ」

 

 なんだ? ティンテが悔しがる意味がわからない。これじゃまるでティンテが俺のことを好きみたいじゃないか。まさか二人で芝居打ってるとか? いや、ティンテに限ってそれはありえないか。

 だとしたらやっぱり? いや……都合のいい妄想はやめとこう。元の世界でモテなかった俺が急にモテる訳ないしな。それにティンテのタコ足を受け入れられる自信もないし……


「アンゴくん、鼻の下が伸びて気持ち悪い顔になってるよ?」


「本当ですわ。お猿さんのようです」


「どうもアンゴには緊張感が足りないね。そんなだから何回か死にかけてるんじゃあないか? だいたいキミは……」


 罵倒されたうえに説教食らってるんだが? なぜか石の上に正座させられることになったし。やっぱり俺別にモテてないよな。勘違いしないで良かった、うん……

 





 しばらく歩くともう日が暮れてきた。やっぱり西ニワナにはたどり着けなかったし、今日は野営だな。

 ちょうど近くに湖もあるし、林も近いから木材も取れる。シャルフの案内のお陰で悪くない場所に陣取れそうだ。


「さて、わたくしは兎でも狩ってきましょうか」


「お肉、お肉」


「遊びじゃないんだぞまったく……もし林に行くなら魔物には気をつけたまえよ、シャルフ。近ごろな凶暴なワーウルフも多いらしいから」


「ええ。ご忠告痛み入りますわ」


 臆するでもなくズンズン林へ入っていくシャルフ。まあ、彼女の強さを考えればそこまで心配しなくてもいいんだろうが。


 それにしてもワーウルフか。異世界っぽい名前が出てきたな。一度見てみたい、なんて言ったら不謹慎だろうか。結局魔物とかモンスターみたいなやつは遠目でしか見たことないんだよなあ。


「どうしたアンゴ、ソワソワして」


「いや、魔物とかってほとんど会ったことないからどんなだろうなって」


「会ったことがない!? 一週間も野宿してたのに!?」


 ティンテは目を見開き、テントを張るためのポールを落としてまで俺の方に身を乗り出してきた。


「正確に言えば遠目には見たことあるぞ、ドラゴンとか。後は無害っぽいスライムとか」


「それが異常なんだが!? 普通の人間は野宿してたら襲われるから、人魔に護衛を依頼したり色々工夫するんだよ。よく生きてたなキミ」


「えぇ……じゃあ俺は超ラッキーだったってことか?」


「みんなアンゴくんが怖くて近づけないんじゃないかなあ。魔物は人よりずっと獣に近いから、勘が良いのかもねえ」


 ってことは、俺は「恐怖の大王」の効果のお陰で無事に生きてこれたってわけか。マイナス面ばっかりのクソスキルかと思ってたが、知らん間に役立ってたんだな……




 火を起こして一時間ほど経つが、まだシャルフが戻ってこない。さすがに心配になってくる頃合だ。


「シャルフ、ずいぶん遅くねえか?」


「そうだねえ。狩りがダメでも戻ってくればいいのに」


「一応様子を見に行こうかな。戦闘力はあるみたいだし、滅多なことでは不覚を取らないと思うが……」


 ティンテが立ち上がりかけた瞬間、林の方からパキパキと木を踏む音が聞こえてきた。


 なんだ、ちょうどシャルフが戻ってきたのか。暗くてハッキリ見えないが、遠目にぼんやり人影らしきものが浮かんできた。


 いや……でも待てよ。あの人影ちょっと大きくないか? まるで二人の人間がいるようなサイズで……


 火影に近づくにつれ、だんだん歩いてくる人のシルエットが鮮明になってきた。片方は確かにシャルフだが、もう一人の人物は知らない。

 ボウズ頭にラインの入った、チンピラみたいな男がシャルフの腕を掴んで粗雑に引っ張ってきている。唇にはピアス。革ジャンにエナメルのズボンと明らかに「転生者」のファッションだ。


 いや、そんなことよりもっと重大なことがある。シャルフがぐったりした姿勢で、息も絶え絶えの様子なのだ。


「どうしたシャルフ!? 大丈夫か!?」


「なんだぁ? テメェら、コイツの仲間か」

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