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④―2 怒れる王 その2

「それで、シャルフはこれからどうするんだ?」


「まずはドライエード様が本当に亡くなられたのか確認いたします。人戻会が身柄を確保しているだけの可能性もございますし」


「そうだな、暗殺とは言ってるものの生きてる可能性もあるもんな」


「まあ半分は諦めていますけれどね。ドライエード様の残した『根』は日に日に朽ちておりますし、生きていたとしても無事ではないでしょう」


 シャルフは笑みを浮かべつつもため息をついた。期待を持つ方がつらい、そんな場面もあるものだ。これ以上俺が無責任な慰めの言葉をかけるわけにもいかないか。


「いずれにせよ人戻会にはお礼をしないといけませんわね。わたくしの大切な人に悪戯をされたようですし」


 胸元から針を取り出し、うっとり眺めるシャルフ。ちょくちょく怖いんだよなこの子……


「シャルフちゃん強いよねえ。わたしが寝てる間に悪い人倒してくれたんでしょ?」


「工作員ですから、外敵を見つけ次第排除する必要もありまして。ドライエード様はわたくしに天職をくださりましたわ、うふふ」


「……ドライエード様がキミを拾ってなかったらと思うとゾッとしないね」


「褒め言葉と受け取っておきますわね、うふふふふ」


 どうもシャルフはティンテのような腕力自慢とは別種の強さを持っているようだ。机の上に置いた針を愛しそうに撫でる彼女を見るに、味方で良かったと思わずにはいられない。


「アンゴ様たちはいかがなされますか?」


「そうだな……これは俺の直感だけど、人戻会が『狂躁』に一枚噛んでるような気がするんだよな」


「私も同じ感想を持ったよ。他にうさんくさい団体も無いし、調べる価値はありそうだ」


「手っ取り早いのは人戻会のアジトに乗り込むことだけど……」


 言いかけながら俺以外の三人を見回す。見るからに人外のティンテは論外だし、肌が緑っぽいシャルフも潜入は難しそうだ。エーゲルだけは牙を隠せば人間っぽく見えるし、変装すれば何とかなるかもしれない。


 ただ、エーゲルと二人というのも心配ではある。何故なら……


「地下のあれこれで疲れたからしばらく休もう? ね、アンゴくん。無理は良くないよ。1週間……ううん、1ヶ月ぐらいは休んだ方がいいと思うんだあ」


「またキミはそうやって……事の重大さがわからないのか」


「重大事だからだよう。わたしたちが無理してケガしたらティンテちゃんも悲しいでしょ?」


「それは事実だが、やはり女王としての責務がだな……」


 くどくど説教を続けるティンテに対し、耳を塞ぐどころか目まで閉じてるエーゲル。うーん……せめてもう一人くらいは協力者が欲しいな。できれば頼りになるメンバーがいいけど。

 人間で、俺たちに協力してくれて、なおかつ戦力になるような……


「勇者を頼るべき、か」


「そうだね。相手の組織規模がわからない以上、味方は一人でも多い方がいい」


「できれば見知ったライトやナギがいいけど、アイツらどこにいるんだろな……」


「その方たちかはわかりませんが、数日前から西ニワナに勇者様が来られていると伺いましたわ」


「なるほど……しかしシャルフ、はぐれ者を名乗る割に世情に詳しいんだな」


「ええ。わたくしが最初に見せた瞬間移動能力もありますし、諜報活動は得意でして」


 瞬間移動能力……これまたチートじみた能力だなあ。勇者も相当だが、人魔だってかなりのチートだよな。

 三人とも人魔の中でも上位の実力を持ってるっぽいから、俺が上澄みを見てるだけなのかもだが。


「そんな便利な能力があるなら一人で人戻会を滅ぼせそうだね!」


「そうでもありませんわ。瞬間移動はひどく体力を消耗しまゆえ、1日に3度までしか使えないのです。あとは針を身体じゅうから出せる他に特殊能力もありませんし」


「えっ、じゃあ野盗を倒した時の機敏な動きは何だったんだ?」


「鍛えておりますので、瞬発力」


「瞬間力かあ……」


 




 何をするにもまずは腹ごしらえということで、シャルフの家で昼食をいただく。固めのパン(バタールとかいうんだっけ?)に兎肉のスープと、チーズを少し。

 一人暮らしが長いのか、シャルフの料理の腕前はなかなかのものだった。何より洋食が食べられるのが嬉しい。元の世界に未練は無いとはいえ、懐かしむ気持ちが満更ないわけでもない。


「ごちそうさま。でもゆっくりもしていられないね。西ニワナに急がないと」


「ええー……また歩くのお……」


「おぶってあげようか? 早足だから落ちない保証は無いけどね」


「わざと落とす気でしょ……うぅ……」


「仲良くしろよ二人とも。幼なじみなんだろ」


 あれこれ言い募りながらも支度を進める俺たちを、シャルフはニヤニヤと眺めていた。彼女が何を考えてるかはわからないが、悪戯っぽい表情を見るに何やら悪い企みがありそうだ。


「それでアンゴ様はどちらの方がお好みですの?」


「いや、別にそういうのじゃ……」


「そうですか? でもお姫様2人は悪く思っていないようですが」


「なっ!?」


 真っ先に反応を示したのはティンテの方だった。彼女の頬がタコ脚と同様に赤い色に染まっていく。


「いや、アンゴとは良き友人でね。私にはまだ早いというか何というか」


「あらあら見事なうろたえっぷり。ウブなお嬢さんは可愛いものですねえ」


「やめろ! 恋愛経験の薄い私をバカにしているんだろう!」


 自分から墓穴を掘らなくても……とツッコミたくなったが今のティンテに声をかけると照れ隠しに触手で殴られそうだから話しかけづらい。


「エーゲル様はいかがです?」


「一緒に寝た仲だよう。ね、アンゴくん」


「なんだと!?」

 

 シャルフの「あらあら」という声を遮ってティンテが叫ぶ。エーゲルめ、わざと勘違いされるような言い方しやがったな。


「キミたち、私が寝てる間にそんな淫らなことを……!」


「ティンテちゃんも興味あるなら一緒に混ざる?」


「私を邪道に誘うな! そういうのはな、将来を契った男女が行うもので……!」


「堅いなあティンテちゃん。わたしたちは人魔なんだから、人間のほーりつに縛られる必要なんてないのに」


「法律というか常識的に考えてだな……! 友人同士がただれた関係だと複雑な気持ちにだな……!」


「アンゴくんの肌って思ったより柔らかくてね……」


「うわあああやめろやめろ! 想像力をかきたてるな!」


 ここぞとばかりにティンテを煽るエーゲル。普段叱られているぶんの意趣返しだろう。争うにしても俺を巻き込まないでほしいものだ、まったく……

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