③―4 血飛沫に舞う花 その4
怪しいだと? 俺はともかく、ティンテは真面目一徹の女王だし、エーゲルは不真面目だが、良く言えば野心の無いタイプなのだ。
短い付き合いだが、俺にはわかる。彼女らが植物族の女王を暗殺するだなんて有り得ない。そもそも昨日は俺と一緒に東ニワナにいたし、街の人たちから姿を見られている以上アリバイなら十分証明されているわけで。
「そんなに怪しいかな、私たちは」
「ご気分を害されたようですし、訂正いたしますわ。特に怪しいのはそちらの方お一人です」
「お、俺?」
待てよ。俺はこの世界のことに詳しくないし、何ならドライエード様とやらの顔すら知らないんだが。
いや……だからこそ怪しいのか。客観的に見れば俺は、素性も身寄りも不確かで、不気味なスキルを持っている謎の男なのだ。
何か弁解をしたいところだが、長々と話すとかえって怪しいような気もする。
「アンゴは確かに怪しいかもしれないね。それで、キミはアンゴを治安維持組織に引き渡すつもりなのかい?」
「まさか。わたくしはですね、お互いの立場を鑑みたうえで最前の提案をさせていただきたいだけですわ」
「どうも回りくどい話し方だな。お前は結局どうしたいんだ?」
「ですから、ここは協力してドライエード様暗殺の犯人を探しませんこと? 怪しい者同士、疑いは晴らしたいでしょう?」
張り付いたような笑みを浮かべるシャルフ。彼女は上品だし美人ではあるが、それがかえって胡散臭さを増幅している。
こんな怪しい奴の提案においそれと乗っていいのだろうか。
ティンテたちの反応を窺ってみるが、彼女らも俺と同じ気持ちらしい。ドライエード様の暗殺が『狂躁』と関係あるかもしれないし、真相を探る価値はありそうな気もするが……
「どうする? ティンテ、エーゲル」
「うーん……ここはアンゴくんに任せるよう」
「またお前は無責任な……」
「いや、アリかもしれないね。私たち人魔が断れば、植物族と確執が生まれるかもしれない。無所属のアンゴが決めてくれれば角が立ちにくいのは事実だよ」
「えっ、マジ?」
「難しい選択を委ねてすまない。その代わり、キミだけの責任にはさせないよ」
大真面目な顔で頼んでくるティンテを見ていると嫌だとはとても言えなかった。
さて、どうするべきかな……やっぱり断るのが無難なような……
「怖ーいお兄さん、もしわたくしに協力してくださるならご奉仕しちゃいますよ」
ワンピースの裾を軽くたくし上げながら微笑むシャルフ。見た目が人間に近い彼女の姿は妙に艶やかで……正直グッとくる。
「よし、やろう」
「アンゴ!?」
「いや違うんだティンテ。これは決してやましい気持ちではなく合理的な判断なんだ。このまま俺たちが北ニワナに入ろうとしても門番に弾かれるわけで、そこを突破するには協力者がいた方が良いのは事実なわけで。いやスケベな理由とかじゃなく俺は冷静に考えてだな」
「ふえぇ……アンゴくんがすごい早口だよう」
怯えるエーゲルにニヤつくシャルフ、呆れ顔のティンテと真顔(に見せようとする)俺の4人は傍から見ればシュールな光景だろう。ここに鏡がなくて良かった。
しばしの沈黙。それを破るように、ため息をつきながらティンテが肩を落とした。シンとした森の中ではため息すらも大きく聞こえる。
「なんだか釈然としないが、キミに判断を委ねたのは私だ。責任持って付き合うよ」
ティンテがイライラした時に特有の、触手で地面をバシバシ叩くやつが始まったが、なるべく気にしないことにした。俺は最善と思われる選択をしただけなのだ。それを責められる謂れは無い。
シャルフを怪しいと思うなら近くで監視した方がいいのは事実だし……
「うふふふ。それでは皆様、よろしく可愛がってくださいませ」
シャルフのグラマーな身体が擦り寄ってくる。甘い花の香りでクラクラきそうだ。近くで見ると肌が緑っぽく見えるが、そんな細かいこと気にならないくらい魅惑的である。
「とりあえずアンゴから離れようか」
「あら、ティンテさんはもしかしてアンゴさんの恋人なのでしょうか? たいへん失礼いたしましたわ」
「そういうわけではないのだけど……」
「でしたら早い者勝ちですわ。素敵な殿方は確保しておかないと」
「とにかく! 離れたまえ!」
ティンテの触手により引っペがされるシャルフ。ニヤつく彼女の真意はわからないし、たぶん何かの罠なんだろうけど、男としては悪い気分ではなかった。
しかし植物族ってどうやって子孫を増やしてるんだろうな。人間の男をたぶらかしても得るものは無さそうだが……まさかシャルフの正体が食虫植物ならぬ食人植物だったりしないよな? 本人はヘチマを自称してるけど……
「アンゴくんアンゴくん。あの人本当に信用して大丈夫?」
エーゲルがコソッと耳打ちしてくるので俺も小声で答える。
「信用したわけでもないさ。ただ、さっきシャルフは突然現れただろう? あの能力がある限り、むしろ近くで見張っておいた方が安全かと思ってな」
「本当に真面目に考えてたんだ……」
驚いた表情のエーゲルにデコピンを食らわせつつ、シャルフの方に向き直る。
「犯人探しって言っても、手がかりすら無いんだろ?」
「それがあるのですわ。ドライエード様が姿を消す直前、城に見慣れない人物が出入りしていたしていないとか」
「ふぅん……『はぐれ者』のくせにやけに詳しいんだな」
「噂好きでございまして……」
「まあいいや。で、怪しい人物の人相は?」
「ただならぬ気配を纏った男性と、触手を操る女性だったそうですわ」
「俺たち(私たち)では!?」
思わずティンテと発声がかぶってしまった。実際のところ、俺たち以外にそんな変なチームなんていないのでは。
シャルフが俺たちを疑うのも当然じゃねえか。むしろ犯人として拿捕されなかっただけかなり優しい処置では。
「えっ……待ってよう。わたしが数に入ってないのは存在が薄すぎるってこと?」
「そ、そうだ。私たちにはエーゲルもいるじゃないか。うん、きっと別人だ。そもそも昨日は城なんて訪れてないし」
「なあシャルフ、俺たちはやってないんだ。無実なんだ。うまいこと言いくるめて城まで連行しようとかじゃないよな? 見逃してくれよ」
ついつい焦ってまた早口になってしまう。これじゃ逆に怪しいんじゃねえか?
「ですから、わたくしは皆様を疑っておりませんわ。ご安心なさいませ」
「そ、そうか……」
一同ホッと胸を撫で下ろすが、そう安心ばかりしていられない。シャルフの情報を聞く限り俺たちが街に近づくことは不可能じゃねえか。さっき門から衛兵が大量に出てきたのも、街の警戒体制がMAXになってる証だろうし……
「もう夜ですし、ひとまずわたくしの住処に案内いたしますわ。そこでじっくり策を練りましょう」
「あまり言いたくはないが、私はあまりキミを信用していないからね。この触手を暴れさせないでくれよ」
「信頼していただけるよう精一杯努めますわ。うふふ……」
ティンテの殺気を受け流すように、薄笑いで答えるシャルフ。まずこの二人を仲裁するところから始めなきゃだな、これ……




