第七話 涼子ちゃんの意外な特技
話によって長短あるんで申し訳ないです。今回、短いです。
俺らの地元の駅前には『アミューズメントスタジアム』、通称アミスタというゲームセンターがある。ゲームセンターって言ってもひと昔前のゲームセンターみたいなタバコの煙がする様なヤバい場所ではなく、女性や子供連れでも十分楽しめる、文字通り『アミューズメントセンター』みたいな感じである。
……まあ実は此処、国道に面した所謂『表』はそんなことも無いんだが、奥の方にある通称『裏』は昔ながらの――とまでは行かないが、やっぱり格ゲーの筐体なんかが置いてあって一見さんお断りの雰囲気を持っていたりする。全体的になんだか薄暗いし、やっぱり女の子とか子供が来るのはちょっとな感じではあるのだが。ナンパとかも普通にあるって聞いたし。
「さて! それじゃ何して遊ぶ? 格ゲー?」
そういう智美に俺は首を左右に振る。
「『裏』か? お前ら連れて『裏』なんか行けるか」
「だよね。私も流石に『裏』はちょっと怖いし……」
不安そうな顔を浮かべる涼子に俺も苦笑を浮かべる。こいつら連れて『裏』なんて言ってみろ。ナンパしてくださいって言ってるようなもんだろう。そうじゃなくても、流石にあそこは俺もあんまり行きたいと思わないしな。格ゲー自体は好きだけど……あの雰囲気はちょっとではある。
「あ、じゃあ私アレが良い!」
「アレって……」
「レースゲーム!!」
にっこり笑ってそういう涼子の姿に。
「……れ」
「……レース……ゲーム……ですか?」
俺と智美の顔が引き攣る。そんな俺らの顔に気付かず――違うな、気付いても無視してんな、アレ。涼子は笑顔のままで言葉を続ける。
「うん! レースゲームならいい勝負出来ると思うんだ! どうかな?」
眩しい笑顔の涼子に、俺と智美は顔を見合わせて。
「「――勝負にならないと思うんだけど」」
涼子は運動全般は決して得意な方では……というか、はっきり言って運動音痴だ。その関連というか、激しいコマンド入力とかが必要な格闘ゲームとか、そこまで激しくなくても瞬間の判断を求められるアクションゲームは苦手だ。まあ、某会社経営系のゲームとかの所謂『頭』を使うゲームは涼子の独壇場だったりするのでバランスが取れているといえば取れているのだが……
「もう! 大丈夫! ちゃんと『手加減』するから!!」
バランスが取れていたりするのだが……こと、レースゲームに関してだけは何故かバカみたいに上手い。いや、上手いどころかこう……普段は『ほわわん』とした感じのある涼子なのだが。
「……レースゲームしてる時の涼子って……なんか劇画みたいな顔してる時ない?」
「それ、どこの豆腐屋の息子さんの話?」
いや、まあ言わんとしている事は分からんでは無いのだが。多分涼子、ハンドル握ると性格変わるタイプだな。
「覚えてる、ヒロユキ? 中学生の時のやつ」
「……ああ」
「……私、涼子の運転する車には絶対乗らないって決めたもん、あの時」
中学生の時、子供用のゴーカートでドリフト決めた時はびっくりするのを通り越して思わず拍手したからな。隣に乗ってた智美は目をぐるぐる回してたが。
「……ま、涼子も楽しめるって言ったらやっぱりレースゲームが一番だとは思うけど」
「……まあ、そうだね。別に罰ゲームがある訳じゃない――」
「え? 罰ゲームあるに決まってるじゃん」
「――し、って……え? りょ、涼子? 罰ゲームがあるの?」
「そりゃあるに決まってるじゃん! ドベの人は一位の人の言う事をなんでも聞く!」
「ちょ、それは流石に……」
「大丈夫、大丈夫、ちゃんとハンデ付けるから!」
そう言って涼子はにっこり笑って左手をプラプラと振って見せて。
「――左手、お尻の下に置いておくから! 右手一本のプレイなら良いでしょ?」