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第十四話 そんな事、貴方に言われるまでもありません。


 桐生がファミレスを飛び出し、葵ちゃんがそれを呆然と見送って、数時間後。

 キッチンの椅子に座り心なしか背を丸め、唯でさえ小さい体を、もっと小さくした葵ちゃんの背中が見えた。ちなみに桐生は部屋から出てきていないが……まあ、玄関に靴があったのでかえっては来ているのだろう。

「……大丈夫?」

 ……何だか哀愁を誘うその姿に、ついつい、声をかけてしまう。

「……何か用ですか、東九条浩之?」

「いや……用って訳じゃないけど。落ち込んでるみたいだから」

「……用が無いなら、直ぐに出て行って下さい。それとも、何ですか? 傷心の女性に取りいって、籠絡する手管ですか? それならば、残念ですが無駄ですね。別に私は落ち込んでなど居ませんから」

 何時もの様に毒を吐きながら……何時もの様なキレは無く。

「……葵ちゃん、あれからなんにも食って無いんだろ?」

「別段、お腹が空いたとは思えませんので」

「そうは言っても……」

 時間は午後十時。晩飯はもちろん……分かんないけど、出逢ったのが十一時くらいだから下手すりゃ昼もまだなんじゃないか? 唯でさえ、線の細い体をしてるし、ソレじゃ無くても規則正しい生活を――

「……放っておいて下さい」

「いや、でも……」

「放っておいて下さいと……言ってるでしょう!」

 相変わらずの無表情のままで、それでも眼に激しい怒りを湛えて、こちらを睨む葵ちゃん。

「……はっきり言いましょう。迷惑です」

「……そうかい」

「……」

「……」

「……貴方の耳は聞こえないのですか? 迷惑だ、と言ったでしょう?」

「聞こえてるよ」

「なら!」

「迷惑でも……放って置けないから」

 涙を流さず、泣いているかのような、そんな女の子を放っておくなんて事、出来る訳が無いだろ?

「……勝手にして下さい。どうせ、私は客人です。此処が貴方とお姉様の家である以上、私が貴方をキッチンから追い出す権利はありませんから」

「どっちかって言うと桐生家の財力って感じだから俺より葵ちゃんの方がオーナーよりだとは思うけど……まあ、それじゃ遠慮なく」

 そう言って席を立ち、お茶を入れて葵ちゃんと自分の前に置く。

「……粗茶ですが」

「……」

 無表情のまま、お茶を見つめる葵ちゃんに肩を竦め、俺も席につく。

「……別に、俺の事を嫌いでも構わないけど、さ。桐生の事は……嫌いにならないでくれよ」

「……」

「別に……桐生は昔より駄目になった訳じゃないさ。あいつ、凄いぜ? 学校でもずっと成績は一番だし……運動神経抜群、加えてあの容姿だろ? そ、そりゃ……浮気しても良いとか言われたのは……まあ、言われたけど……」

 衝撃だったからな、あれ。

「……でもまあ、桐生の立場っていうか……俺、殆ど借金のカタみたいなもんだし? だからまあ……その、なんだ? 気を使ってくれたというか……」

「……」

「……それに、さ? いや……こう、葵ちゃんは……何て言うのかな? 桐生を絶対視というか、凄い人って言うか……なんていうか、そういう風に見てるかもしれないけどさ? その……桐生だって普通の女の子っていうか……」

 そう。

 容姿端麗で。

 成績優秀で。

 運動神経抜群で。

 お嬢様で。


 毒舌で、性悪で、付いたあだ名が『悪役令嬢』なんて、そんな女の子で――でも。


「……悲しいことがあれば泣くし、楽しいことがあれば全力でわくわくしてみせるし、嬉しいことがあれば笑う――そんな、普通の女の子なんだよ」



 ――とっても可愛い、女の子。



「……」

「その、だか――」

「東九条浩之、貴方は愚鈍ですか?」

「ら――は? ぐ、グドン?」

「なんですか、その特撮映画の怪獣みたいな発音は。そうではありません。『愚か』なのか、と聞いているのです」

「愚かって……」

 いや、別に賢い方だとは思っちゃいねーけどさ? 酷くない?

「……悲しいことがあれば泣くし、楽しいことがあれば全力でわくわくしてみせる……なんでしたか? 嬉しいことがあれば笑う?」

 はぁとため息を一つ。


「そんなこと――あなたに言われる筋合いはありません。分かっています」




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