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第九話 なんとも間の悪い出会い


 百円で二個ゲット――まあ、百円で二回プレイなので実質二回みたいなもんだけど……まあ、ともかく、そんな俺の戦利品に上機嫌になった涼子と智美に連れまわされた。リズムゲームや、ガンシューティングゲームなんかを遊んでいたのだが……そろそろ良い時間か?

「さて……それじゃ、どうする? そろそろ帰るか?」

 スマホで時刻を確認すると一時間ちょっと。まあまあ遊んだほうだし、そろそろ帰るか?

「そうだね~。いいプレゼントも貰ったし、私は結構満足だけど……智美ちゃんは?」

「ん~? もう帰るの? まあ、あんまり長居するとアレかな? 桐生さんの従姉妹ちゃんに『逃げた』とか思われるかもしれないしね、ヒロユキ」

「……言うな」

 何が怖いってマジでその可能性あるんだよな。『私から逃げる様な男はお姉様に相応しくありません』とか言いそうだし。

「それじゃちょっと勿体ないけど解散にしよっか。あ、そうだ! それじゃ最後にプリ撮ろう?」

「プリ?」

「プリクラ! ほら、よく考えれば私たち三人で撮ったこと無いじゃん!」

「あー……」

 そう言われれば……っていうか、そもそも俺、プリクラなんて撮ったことあったっけ?

「……ほら、昔は何時でも取れるって思ってたけど……ヒロユキ、遠くに行っちゃったからさ?」

「……電車で数駅だぞ?」

「距離の話じゃないもん……ばか」

「……悪い」

 拗ねたような智美の言葉に、俺は頭を掻き、掻いた頭を下げる。

「……ううん、ごめん。変なこと言っちゃった。だからさ! プリ、撮ろうよ! 記念に!!」

「……まあ、それぐらいなら……うん」

「よし! それじゃ涼子も! いこ?」

「はーい。それじゃどのプリクラにする? いつもの?」

「そうだね。んじゃいつものでとろっか。いい、ヒロユキ?」

「詳しくないからなんでもいいぞ?」

 俺の言葉に頷いて連れだって歩く二人の後ろをついて歩く。やがてゲームセンターの一角、プリクラコーナーに辿り着いた。

「どれ?」

「これこれ! ほら、早く入ろ!」

 智美に背中を押されるようにボックスの中に。つうか……せまくね?

「……狭いんだが」

「あー……まあ、ちょっと狭いかもね。なんだかんだでヒロユキも男の子だね~。女子三人ならもうちょっと広いんだけど。ま、そんな長時間じゃないし我慢して」

「それは良いけど……んで、どうするんだ? プリクラって普通に映ればいいのか?」

「証明写真じゃないよ、浩之ちゃん。このプリクラは色々指示だしてくれるから、その通りにしたらいいよ?」

「……指示とか出すの、こいつ? なに? 世界はAIに乗っ取られた的な?」

「私たちが生まれる前から指示だしてますから、この子。さ、早く取ろう、ヒロユキ!」

「あ、待て、お金は?」

「此処は私が出すよ」

「いや、でも……」

「私も出すよ、智美ちゃん。浩之ちゃんにはホラ、さっきのお礼ってことで」

「良いの? それじゃ涼子と折半するから。それじゃホラ、ヒロユキ真ん中ね!」

「……はいはい」

 智美にそう言われて俺は智美と涼子の真ん中へ。ちょうど俺たちが定位置に付いたところでプリクラから指示が飛んできた。

『それじゃ、行くよ~。まずは、笑顔!』

「笑顔だって! 浩之ちゃん、笑顔!!」

「……はいはい」

『巧く笑えたかな? それじゃ、次! 両手でハートを作って~』

「……おい」

「ホラ、ヒロユキ! 早く!!」

「浩之ちゃん!!」

 二人にそう言われ、俺はハートのポーズを作る……んだけど、絶対顔引き攣ってるぞ、これ。

『上手に出来た~? それじゃ次、にゃんこの手で――』

「ちょっと待て! なんだ? プリクラってこんな辱めを受けるのかよ!?」

「ちょ、ヒロユキ! 早く早く! にゃーん!」

「そうだよ、浩之ちゃん! にゃーんだよ、にゃーん! あ、ごろにゃーんでも可!!」

「お前らマジで何言ってんだよ!?」

 いやマジで! な、なに? これ、本当なの? 俺、こいつら二人に騙されてるのか?

『お疲れ様~。それじゃ、最後のポーズだよ!』

 ……数枚の写真を撮ったあと、流石に精神をガシガシ削られた俺は小さくため息を吐く。いや、マジで一番真面なの『変顔して~』だもんな。いや、最初の笑顔が一番ましなんだが……あれ、間口広くする詐欺の手口と一緒じゃね?

「……やっと終わるのか」

「次が最後だよ、浩之ちゃん」

 涼子の笑顔に、俺も疲れた顔に笑顔を浮かべる。疲れた。マジで疲れた。でもまあ、これが最後だから、頑張って――



『最後の写真は……隣の人と、ハグ! だよ!!』



 ――は?

「……は、はぐぅ?」

「ほ、ほら、ヒロユキ! ハグだよ、ハグ!」

「そうだよ、浩之ちゃん! ハグ! レッツ、ハグ!!」

 そう言って両手を広げて俺に抱き着いて来ようとする智美と涼子――じゃなくて!!

「不味い! 流石にそれは不味いって!!」

「だ、大丈夫!! 機械の指示だから! ね、涼子!!」

「そ、そうだよ!! やましい気持ちはないよ!! 私たちだってたまにぎゅってするし!!」

「それは女の子同士だからだろ!! 無理だ! 流石にそれは無理だってば!!」

「往生際が悪いわよ、ヒロユキ! 黙ってハグされときなさい!!」

「そうだよ、浩之ちゃん!! 黙ってハグされて!!」

「無理!!」

 狭い室内でまるで肉食獣みたいな視線をこちらに向ける涼子と智美から逃れるように俺は身をよじろうとして。

「――あ」

「ちょ、ヒロユキ!?」

「あ、危ない浩之ちゃん!!」

 足がもつれて後ろに倒れかかる。なんとか踏ん張ろうとして――慌てた涼子が俺を助けようとして重心をこちらに向けたため、失敗。そんな俺らを助けようとして智美が手を差し伸べ、その手を涼子が手に取って。


 どしん、と。


 涼子と智美だけは、という俺の意思が神様にでも通じたか、何とか涼子と智美の頭を庇うように両手を回して保護。盛大に後頭部を打ち付けて目の前に星が飛んだが、それでも俺はなんとか笑顔を浮かべて二人を見やる。

「……けが、ないか?」

「う、うん! 大丈夫! 浩之ちゃんが助けてくれたから!!」

「そ、そうだよ……っていうか、ヒロユキ!! アンタは大丈夫なの!? 凄い音がしたけど!!」

「……なんか目の前に火花が飛んだけど……まあ、お前らにケガが無いなら良かったよ」

 俺の言葉に申し訳なそうな、それでも嬉しそうな瞳を見せる二人に俺も笑顔を浮かべる。良かった。取り合えず二人にケガが無くて。結構無理な態勢だったけど……あれか? 最近、俺に厳しかった神様が、バランスとるために俺に優しく――




「――随分と楽しそうですね、東九条浩之」




 ――ああ、違った。俺が神様だと思ってたの、尻尾と角が生えてる神様だったわ。



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