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プロローグ

2023年3月、『許嫁が出来たと思ったら、その許嫁が学校で有名な『悪役令嬢』だったんだけど、どうすればいい?』二巻発売決定を祝した短編――というか中編になっております。

あらすじにも書いてある通り、一巻と二巻の間の話ですので『書籍版しか買わねーぜ!』という読者の方、こちらは二巻のネタバレ無いので楽しんで頂ければ幸いです。っていうか、ぶっちゃけ二巻をだいぶお待たせしてしまっているのでお詫びの意味&忘れないでね! 二巻もよろしくね!! の意味合いが強いです(ダイレクトマーケティング

なお、感想欄は開けておりますが毎日朝6:00の予約投稿になりますので直ぐに返信は出来ないかも知れないですが、週に一度程度は返信させて頂きますので宜しければ感想なども頂ければ。


それでは約一か月間、よろしくお願いします!!


「……おはよう、桐生」

「随分お寝坊さんね? もう、おはようの時間じゃないわよ?」

 そう言ってにっこり笑って見せる桐生に頭を掻く。時間は……うん、もう昼間じゃね? そらちょっと寝すぎだよな。いや、昨日ちょっと面白い漫画読んでだな? こう、ついつい夜更かしを――

「土曜くらいは良くないか?」

 誰にという訳ではなく、自分自身に言い訳しつつそういう俺に桐生はもう一度クスリと笑って見せる。

「そうね……朝の弱い私の代わりに平日はいつも早起きしてご飯も作ってくれてるし、土曜日くらいはゆっくりして貰って良いわよ」

「……」

「……なに?」

「いや……朝のお前、ゾンビみたいだもんな」

 何時だってきりっとした桐生だが……朝のコイツ、マジで動きがノロノロして墓場から復活したゾンビみたいになってるし。

「ぞ! ……し、失礼じゃないかしら? 仮にも華の女子高生に言う事じゃないと思うんだけど?」

 じとーっとした目をこちらに向ける桐生に肩を竦めて見せる。別に馬鹿にしたり揶揄ったりしてるわけじゃないぞ? ただ……まあ、なんだ、『普段とは違う桐生の姿』ってのが見えるのが許嫁特権と言うか……

「……ま、まあいいじゃねーか」

「あんまりよく無いんだけど?」

「ともかく! それ、どうした?」

 さっきから気になってるそれ――桐生の前にあるホカホカと湯気を立てる炒飯を指さす。一瞬、むっとした表情を浮かべるも、桐生は俺の質問に答えてくれた。

「冷蔵庫の余りものでささっと作ってみたのよ」

「……桐生が?」

「……何を言いたいかは大体分かるわよ。ほら、こないだ少し実家に帰ったでしょ? そこで静香さん――お手伝いさんに教えて貰ったの。『炒飯ならお嬢様でも作れるかと』って」

「……まあ、伝家の宝刀『焼く』だもんな」

「『炒』飯だから炒めるじゃないの?」

「焼き飯とも言うじゃん」

 あれ? 炒飯と焼き飯って別物じゃないよね?

「まあそれはともかく……美味そうだな、それ」

「そうね。私にしては上手に出来たんじゃないかと思っているわ。そもそもご飯炊くのだけは上手だし、私」

 さっきまでの機嫌が治ったか、ぐっと握りこぶしを握って見せる桐生。そんな桐生の言葉通り、リビング中に香り立つ良い匂いに、思わず俺のお腹がぎゅーーーーっと鳴いた。

「……随分と盛大なお腹の音ね? なに? お腹空いたの?」

「そら、そんなに美味そうな匂いさせられたらな」

 あー……良いな、炒飯。最近とんとご無沙汰だし、たまには駅前のあのラーメン屋のラーメン炒飯セット頼むか。時間的には良い時間だし……ちょっと混んでるかも知れんけど、いっか。いや、待てよ? 折角の炒飯なら、新規開拓もアリかも知れんな。この辺、あんまり回ってねーし。

「なに? 急に携帯取り出して? どうしたの?」

「いや、この辺全然見て回って無いだろ?」

「そうね。公園とスーパーと百円ショップくらいかしら?」

「これから暮らす街でそれだけしか知らんってのは寂しいしな。腹を満たすついでに、ちょっとマッピングでもしてみようかと思って」

「マッピング?」

「まだ見ぬ上手いラーメン屋を探す旅のついでにな」

 折角だし、ちょっと足を伸ばしてみるのも良いかも知れん。今日は特に用事もねーし、たまには良いんじゃないだろうか。

「……あ」

 考え事をしている俺の頭に、腹の方がぎゅーっという抗議の声を上げる。

「……主張しているわよ、早くしろって」

「朝から元気な事だよな。んじゃ、そういう事でちょっと行ってくるわ」

 はははと笑い、さて、着替えでもして出るかな~なんて部屋に戻りかけて。

「……ちょっと待って。その……す、座らない?」

「は?」

「だ、だから! お腹がなるぐらいお腹空いてるんでしょう? そ、その……今から外に出て食事するより、私が作ったのを食べたほうが、は、早くないかしら!?」

「……え?」

 えっと……桐生さん?

「それって……作ってくれるって事?」

 俺の言葉に恥ずかしそうに頬を染めてそっぽを向く桐生。

「そ、その……さっきも言ったけど、朝の弱い私の代わりに平日はいつも朝ごはん、作ってくれるでしょ? だ、だから、恩返しというか、なんというか……そ、その……ど、どうせ私の作った料理だし、お店の料理の方が美味しいと思うから……東九条君が嫌なら、む、無理にとは言わないけど……」

 そういって少しばかり拗ねた様な表情でこちらを見る桐生。そんな桐生に、俺は。


「い、要ります!」


 慌ててキッチンの椅子に腰を降ろす。眼前では顔を真っ赤に染めた桐生が、入れ違いに腰を浮かせた。

「い、言っておくけど!」

「な、なに?」

 顔を真っ赤にしたまま、こちらに視線を向けて。

「ま、まだまだ下手くそだし、その、自信も無いけど……」


 その眼を、ふいっと逸らして。



「そ、その……い、一生懸命作るから! だ、だから……お、美味しく食べて欲しい……な?」


 

 そんな可愛い事を、言いやがりました。



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