第六話 友達
暑い・・・日が強いですね。
日焼けしちゃいました。
焦げると健康的には見えますね。
ガングロ目指そうかな・・・。
「いってきます」
「はぁい、気をつけてね」
絵梨花に見送られ、正憲の車に乗り込み大学へ向かう。既に何度か大学まで正憲に送ってもらっているが、やはりまだ慣れない。正憲には少し離れたところで停めてくれとお願いをし、若干離れたところから歩いて大学へ向かっている。
それでも一度友人に見られしまい、未だにつつかれているのだ。
「お願いします」
「はい」
正憲の車に乗り込み、昨日の朝のことを思い出す。朝というか・・・深夜?
(1人増えたなぁ)
まだ仕事に慣れていない内に新しい従業員が増えた。ほとんど同期という形になるが・・・年齢は社長と同じ。人生の先輩である。
(うまくやれるかなぁ)
強面の新入社員にビクビクしながら働くことになるのだろうか。でも優しそうではあったしなぁ。
もうどうにでもなれと割り切ったところで、正憲に話しかけられた。
「白咲様」
「は、はい」
構えてなかったので一瞬体がビクリと反応する。
「社長からメールが来ていますね。本日は歓迎会だそうです」
「か、歓迎会?」
正憲の車には、どういう仕様なのかPC画面のようなモニターが、本来ナビ等がついている部分に存在している。そこにメールが届いたので確認したようだ。
「吉金さんですか?」
「と、白咲様ですね」
じ、自分も・・・。ありがたいやら申し訳ないやら。どこの会社もこういったものはあるのだろうか。
「ちなみに何時からですか?」
「19時からになっていますね。場所は○○町のフェンネルというお店です」
「・・・フェンネル!?」
フェンネルというと、このあたりでは誰でも名前くらいは知っているであろう名店である。名前の由来はフェンネルという花で、花言葉は「称賛」。元々は違う名前だったらしいが、どこかの富豪が当時のお店を訪ねた際、対応・料理等、内容全てを絶賛し、全世界に拡散したところ、またたく間に有名になったとのことだ。その時にその富豪から店の名前をこの名前にしたらどうかとの依頼があり、元々借り物の名前だったことから、フェンネルという名前になったらしい。
「な、なななな、なんでそんな・・・」
「すごいお店ですよね。まぁこれも社長の人脈です」
何者なの本当に。そんなところで学生が歓迎会なんてとんでもない。吉金さんもいるとはいえレベルが・・・いやでも行ったことがないだけで意外と敷居が低いのか?
「ご心配なさらず、過ごしやすい環境に社長が整えてくれますから」
「は、はぁ・・・」
そこらへんもまた社長側から依頼するのだろうか。
「緊張する・・・」
今日は授業に集中出来なさそうだ。てゆーか週の頭からいきなり高級レストランで食事なんて、どんな上層階級だよ。
「どうかご緊張なさらず。社長のことですので考慮してくれています」
考慮と言われても・・・てか、あの人そんな出来る人なの?今のところほとんど寝てるイメージしかないけど・・・。まぁ基本的に時間が合わないから仕方がないが、確かに最初、一緒に行った仕事のことは今でも印象に残っている。
「何を着ていけばいいですかね?」
「普段着で構わないと思いますよ。最低限のオシャレは・・・見てくるかもしれませんけどね」
正憲がニコリと笑うのが、バックミラーから確認出来た。何ワロてんねん。最低限のオシャレとか怖いんですけど。
「私ファッション疎くて・・・」
「なるほど。ご友人に聞いてみては?」
「・・・あ~」
そうだ。こういう時の友達じゃないか。葵は大学の友人に相談することにした。
「ありがとうございます」
「それでは、頑張ってください」
正憲に見送られ、大学へ歩を進める。すると早速、どこから来たのか、友人が現れた。
「あーおいっ!」
「茉莉花、おはよ」
宮原 茉莉花。葵と同じく大学1年生。初めての授業で隣同士になってから、今も仲良くしている。
「今日も執事に送ってもらっちゃって~」
「いやほんと・・・違うんだって」
「うらやましい限りですなぁ」
こんな感じでお調子者という雰囲気の子だが、小柄で可愛らしい見た目からどうしても憎めない。それに本人には悪意がないのだ。見てても正直、可愛くて仕方がない。
「・・・ねぇねぇ茉莉花」
今朝正憲と話したことを聞いてみる。
「茉莉花ってファッション詳しい?」
「ファッション? ん~、人並みかなぁ」
「今日さ、大事な用事があって、少しくらいは身だしなみ整えようかなって・・・私ファッション疎くてさ」
「なになに!? デート!?」
変なスイッチを押してしまった。
「ち、違うよ。バイト先の歓迎会」
「なぁんだ、つまんないの」
「いやでもさ、正直・・・男とデートするより緊張すると思うんだよね」
「なんでよ~、ただの歓迎会でしょ?」
「それがさ・・・フェンネルなの、場所」
「・・・えぇ!? あのフェンネル!?」
「そうなのよ・・・ねぇ、どうしたらいいかな」
「どうしたらって・・・なんでまたそんなところで・・・」
「社長がさ、結構お偉いさんと付き合いが良いみたいで・・・私もびっくりしちゃって」
「すごいなぁ・・・服の指定は無いの?」
「そうなの、無くてね」
「じゃああれだ、余計困ってるってやつだ」
「ほんとそうなの・・・試されてる感じがしてさ・・・」
「OK、手伝ってあげる!」
「え、ほんと?」
「葵、今日2限で終わりでしょ?」
「うん」
「お昼一緒に食べに行こうよ!そのまま市内でお買い物!」
「え・・・いいの? 茉莉花4限なかったっけ?」
「いいよ!一日くらいサボっても大丈夫!」
それは申し訳ない・・・でも今は藁にもすがる思いだ。
「じゃあ・・・お願いしようかな」
「OK!2限終わったら校門ね!」
「うん。お昼、私が出すから」
「ゴチになります」
いきなりガニ股で頭を下げる。こういう元気なところに、こちらも元気を分けてもらっている感じがする。
2限目が終了し、校門に向かう葵。すると、既に茉莉花が待っていた。
「あおいー!」
「茉莉花! ごめんね、待たせたかな」
「3年待ちました」
「んなわけあるか」
二人でバスに乗り込み、市内へと向かう。正憲には今日迎えに来てもらう場所が変わったことを既に伝えている。バスの中で他愛もない話をしながら20分ほど走ると、市内のバス停に到着した。
「よし! まずは腹ごしらえだ!」
「何が食べたい?」
「ん~~~~~~~、カルボナーラ!」
パスタとかではなく、ピンポイントなところがまた可愛い。近くのファミレスへ向かい、二人で食事を済ませる。
その後は茉莉花に連れられるがままに洋服店を転々とした。基本的に休日はジャージで過ごしていた葵にとっては、実に興味深く、大変で、疲労した一日となった。
「いやぁ・・・ファッションって大変だね」
「そうだよー?そこまで詳しくない私でも、結構調べたりするからね」
「すごいや・・・」
ヘトヘトである。今まで自分で服を買ったことくらいもちろんあるが、部活一筋だった故か、正直そこまでこだわったことがなかった。
現在時刻は16時。良い時間だ。
「ごめんね今日は、付き合わせちゃって・・・」
「いいってことよ! 次は回らないお寿司で」
頭が上がらない。本当に回らないお寿司に連れて行こうかな。
「それじゃまた明日」
「また明日!」
茉莉花を見送った数分後、正憲が迎えに来る。
「たくさん購入されましたね」
「ちょっと買いすぎました・・・」
「有意義な時間でしたか?」
「それはもう。疲れましたけどね」
荷物をトランクに詰め込み、葵も車に乗り込む。
「わかります。世の旦那の悩みに近いですな」
「世の旦那?」
「世間一般では、奥様の買い物に連れ添う旦那様方は、奥様の異常な体力についていけない方が多いそうです」
「へぇ~」
「基本的には男性の方が体力があっても、ショッピングとなると何故か逆転してしまうそうですよ」
「そうなんですねぇ」
なんや、私が男って言いたいんか。少しむすっとしてしまう。
「ふふっ、葵様もいずれどなたかの妻になられます。今こうやって将来の旦那様の気持ちを知っておくことは、良いことだと思いますよ」
なんだかいつも心の中を見透かされている気がする。
「そんなもんですかねぇ」
「そんなもんですよ」
「・・・柊さんはご結婚されてるんですか?」
そういえばこんな仕事をしているくらいだ。結婚は難しいんじゃないだろうか。
「・・・昔はしていましたけどね。今は相手はいません」
しまった、まずいことを聞いたかもしれない。最近気が緩みすぎたか、デリケートな質
問をズバッと聞いてしまった。
「あ、す、すみません」
「いえ、お気になさらず。・・・私の妻は10年ほど前に亡くなりましてね」
「・・・病気とか?」
「いえ、名誉の戦死です。またいずれお話しましょう」
せ、戦死?軍隊か何かだろうか・・・。
「そ、そうだったんですね・・・」
「白咲様も、想い人が見つかった際はしっかりと愛して差し上げてください。悔いの残らぬよう」
「う・・・はい」
彼氏がいない前提で話をされている。いないように見えたのか、そもそもバレていたのか・・・。デリケートな質問をしたことは申し訳ないが、少し悔しい。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
「本日はお楽しみください」
「? 柊さんは来ないんですか?」
「私は基本的に参加致しません。こういった集まりがあまり好きではありませんので・・・」
「そうなんですね・・・」
「それでは、失礼します」
正憲は車へ乗り込み、走り去った。断れるのは良い会社であると聞いたことがあるが、独り身ならば来れるものなのでは、などと思ってしまう。それともお子さんがいるのか、まぁ理由は様々考えられるが、醜態を晒す人が減るだけマシのような気もして、若干安心もしている。
ドアを開け、電話中の絵梨花に軽く会釈をし、自室に戻る。
「早速着てみるか」
今日買った服を次々と着てみる。
正直なことを言おう。どれが「良い」のかさっぱりわからない。
「ちょ、直感に頼るしかないのか・・・」
茉莉花がオススメしたものはとりあえず全部買ったが・・・イマイチ良さがわからない。絵梨花は・・・仕事中である。とりあえず着た服の写真を色んなポーズで撮り、茉莉花に送る。すぐに茉莉花から返事が来た。
『拡散していい?』
「・・・」
『次はお寿司にしようと思ってたんだけどなぁ』
『3枚目の写真が大変良うございますお嬢様』
茉莉花が言うには、送った写真の3枚目の服が良いらしい。
「まぁ確かに・・・一番着てて違和感は無いかも」
別に他の服が変というわけではないが、葵自身、慣れるまではこの服が良いなと思っていた服でもあった。
「・・・これでいくか」
色んなポーズを撮ったり、ネットで調べたりしていたので、気付いたら既に18時を回っていた。
「やべぇやべぇ・・・」
化粧をサッと済まし、服を整えリビングへ向かった。そこには既に着替えている絵梨花の姿があった。私服可愛すぎ。なんで私とこんなに差があるの。
「葵ちゃん、出れそう?」
「はい、大丈夫です。お仕事の方は大丈夫ですか?」
「全部留守電にしてるよ。ボイスメッセージも残してるし、お客さんにもメッセージを残すようにしてもらってる」
こういった場合は、お客さんと会社の繋がりを断つようだ。きっぱりしていて良いのかもしれない。
「あ、了解です」
「それじゃ、いこっか」
「はい」
二人で事務所を出発する。ドアを閉め、絵梨花が鍵を閉めていると、正憲が車を事務所前に車をつけてきた。
「ありがとうございます」
絵梨花が頭を下げる。釣られて葵も下げる。
「はい。白咲様、よく似合ってますよ」
「あ、ありがとうございます・・・」
二人は車へ乗り込む。
「あ、社長は・・・」
「社長は先に向かってるよ。吉金さん達も現地で合流」
達・・・? 同伴がいるのだろうか。
「それでは、出発致します」
最近ポケモンやってないな・・・。
久しぶりにやってみようかな。