第一話 興味
この作品は、現代を舞台とした「超身体的アクション」をモチーフをしております。
基本的にはバトルを描きたいのですが、過程を重視するあまりなかなかアクションシーンまで行きません(泣
ダラダラと感じるかもしれませんが、読んで頂けると幸いです。
【第一話 興味】
[第一節 面接]
「緊張する・・・」
白咲 葵。18歳。この4月から大学生となり、学費を稼ぐためにアルバイトを探していた。
今日はその面接。仕事内容は事務作業及び接客。
時給8,000円・・・。備考に[精神力の強い方]と書かれてある。
どういうこと・・・。意味がわからない上に恐い。だが18年育ててくれた両親のため、大学費用は自分で稼ぐと言ってしまった以上、背に腹は変えられない。ちょっと興味もあるし・・・。彼女は当たって砕けろの精神で向かっていた。
「・・・あ、ほんとにタクシーが停まってる」
電話で応募した際に、駅前までタクシーが迎えに行くとのことだった。
[白咲様]と書かれてた札が立ててある。いつから待っていたんだろうか。少し恥ずかしい。
「白咲様ですね?」
「はい」
最低限の言葉を交わし、手荷物と一緒に目的地へ向かう。
30分ほど走っただろうか。意外と遠いなと思い始めた時に、ふとその会社は現れた。
オフィス・・・というよりも別荘のような佇まい。割と大きめな木造の一戸建て。周りも草木に囲まれており、良い雰囲気だ。看板には[株式会社 ジ・オール]と書かれている。間違いなさそうだ。
「ありがとうございました」
ドライバーに会釈をし、建物へ歩を進める。入り口に近づいたところで、ドアがガチャリと開いた。
「白咲 葵さんですか?」
出てきたのは可愛らしい女性。背は自分より5cm以上は低いだろうか。キリッとした目つきと角張った眼鏡から、どこか聡明な雰囲気を感じる。
「あ、はい」
「お待ちしておりました。どうぞ中へ」
「はい、失礼します」
インテリアに凝っているのだろうか、居心地が良さそうだ。柔らかそうなソファもあるし、仕事机も大きい。環境は非常に期待できる。今のところ好印象な部分しかないが、やはりそこは時給8,000円。しかも強力な精神力を求めてきている・・・油断はできない。
「こちらにお掛けください」
「はい」
気になっていたソファに座ることになり、内心喜ぶ葵。ここで面談をするのだろうか。面談室というよりも、リビングの一角のようなカタチだ。座るとすぐに紅茶を運んできた。
「資料をご用意しますので、少々お待ち下さい。その間、テーブルの上のお菓子と紅茶の方、召し上がって頂いてもかまいません」
毒が入ってないだろうか・・・。ありもしない妄想を展開させながら、心臓を鳴らし待っていた。
正直驚いてはいる。高校生の頃に少しだけアルバイトをしたことがあるが、面接はこんなに高待遇だっただろうか。少なくともお菓子は出ていない。
(この場違い感で、働きにくさが出ちゃうのかな・・・)
それでもまだ時給8,000円の違和感には届かない。
お菓子を手にとってみる。袋を開けると、見たこともないロゴが焼いてあるクッキーが出てきた。小さめなので一口でいく。・・・なんだこの美味しさは。脳がとろけるほど美味である。毒が入っているかもしれない紅茶も・・・美味しい。仮に毒が入っていても後悔が残らないのでは・・・。もはやこの面接で落ちたとしても、ちょっとした旅行気分だ。
(まぁなるようになるか)
一種の諦めにも近いような感覚に陥った時、先程の女性が資料を持ってやってきた。瞬間的に立ち上がってしまう。中高生時代の部活を彷彿とさせるスピードだ。資料を葵の前に起くと、名刺を差し出してきた。
「お待たせ致しました。私、高田 絵梨花と申します」
「あ、白咲 葵です。よろしくお願いします」
「よろしくお願い致します。どうぞ座って下さい」
丁寧な方だ。手もキレイである。モテるんだろうなぁと思いながら見ていた。指輪はない。こんな可愛らしい女性・・・男がほっとかねぇぞ、なんて変なことを考えていると、面接が始まった。
内容は至って普通である。学歴・現状・住まい・経験・雑談・・・普通の面接と変わりないように思えた。
「・・・さて、最後の説明に入るのですが、ここまでで何か質問はございますか?」
「あ・・・」
聞いてみようと思った。時給が8,000円もある理由。[精神力が強い方]って何・・・?
「あの、時給がすごく良いなぁと思って・・・あと精神力がどうのって言うのは・・・」
「あぁ、気になりますよね。でしたらその答えも踏まえて、最後の説明に参りましょう」
「あ、宜しくお願いします」
「先程の説明にもありましたが、私共がアルバイトの方に求めるのは事務作業・雑務・接客対応です。当社の業務内容は[お客様の悩み相談・解決]になります」
株式会社ジ・オールの主な仕事は、「客のニーズに最大限応えること」。本当に様々な依頼があるので、資格等の問題が出てくる。しかし、近年の業務における法改正により、うまいこと切り抜けられるようになっているらしい。法に触れそうな場合は警察の方とも直接やり取りをし、吟味していくそうだ。
「はい」
「当社に来るお悩み相談はピンからキリまであります。簡単なものですと、家の掃除を手伝ったり、飼い犬の面倒を見たり・・・」
「あ、そんなことまでやるんですね」
「面白いので言うと、女の子が彼氏自慢をしたいということでプリクラを撮って欲しいというのもありましたね」
「えぇ!そんなのも引き受けるんですか」
「はい。結局そのあとどうなったかは知りません」
知らないも何も、無理がありすぎるだろう。実際に会わせて欲しいなんて言われてしまったらどうするのだろうか。まぁそのあたりのことは依頼主は考えてなさそうだが。というよりもそんな依頼を受けてしまっては、此方側の従業員の顔が変に広まってしまうのではないだろうか。
「いやぁさすがにまずいんじゃ・・・」
「一応サングラスしたり付け髭したりで工夫はしていますが・・・まぁ限界はありますね」
限界があるとかそういう問題でもない気がする。まぁ依頼主が満足すればそれで良いのだろうか。
「そうですよねぇ」
「相手方もそれをわかった上で依頼されて来られますので、こちらも全力対応しております」
「ちなみにそれはどなたが・・・?」
「基本的に依頼の解決は全て社長がなさっています」
いや基本1人なら尚更まずいのでは。もはやツッコミどころしか無いが、今のところおもしろそうだなと思ってしまっている。
「あ、そうなんですね」
「日々人手が足りないと嘆いていますね」
そりゃそうだ。掃除の手伝いをして、犬の世話をして、JKかなんだか知らないがプリクラまで撮っていたら、時間があっという間に過ぎてしまう。
「そういった内容も含めるとすごい数の依頼がありそうですね」
「はい。ですので人手が欲しく、募集しようかと思った次第です」
逆に言うと、今までそういった細かい案件も含め、ほとんど1人でやってきたということになる。もちろん案件の受注等はこの女性が行っているのかもしれないが、いかに効率を考えて手配を続けても、膨大な時間が必要だろう。それでもここまでやってきているということは、相当アクティブな方なのだろうか。
「なるほど・・・」
「そしてここからが本題ですが、小さい仕事があれば大きい仕事があります」
「はい」
「例えば、犯罪組織の壊滅」
「・・・はい?」
その後に出てくる言葉のほとんどは、日常生活ではまず聞くことのない、一般人には聞き慣れない言葉のオンパレードだった。
「・・・等々といった件が、大きな案件になっていきますね」
「・・・」
「・・・気持ちはわかります。正直この話を聞いた時点で皆さん帰られますから」
まさに絶句。割に合わない。時給8,000円でも割に合わない。命がいくつあっても足りない気がする。銃とか犯罪とか聞き慣れない言葉の連続に、葵の頭はついていかなかった。
「・・・で、でも!現地に私達が行くわけではないですよね?」
「絶対ではないですね。というか割とよく行きます」
「・・・」
開いた口が塞がらないとはこのことか。[精神力の強い方]の意味がよくわかった。モノが違う。住む世界が違う。
「・・・」
「無理にとは言いません。高時給とは言え、正直命に関わる仕事です。社長がもちろん全力で私達を守ってくれるとは思いますが、万が一もありますから・・・」
「・・・あの、」
「はい?」
「高田さんはなぜこの仕事を?」
ふいに出た質問だった。当然と言えば当然の質問である。人の生死に関わるような仕事をこなしていくというのに、なぜこんな可憐な女性が続けられているのか。割に合わないとも思うし、こんな時給、言ってしまえば水商売くらいしか思いつかない。職自体を否定するわけではないが、出来れば足を踏み入れたくない部分だ。だが、こういった仕事に比べると幾分かマシなような気もする。
「私ですか?」
「はい。あ、いや、その・・・あまりにもすごい内容というか・・・なんというか・・・いつか死んじゃうんじゃないかなって・・・」
「・・・そうですね」
そう言うと彼女は少し寂しげな表情を見せる。
「あ、ごめんなさい。変なこと聞いてしまって」
「あぁいえ、いいですよ。当然気になるところだとは思いますが、実のところほとんどそういった質問されたことがなくて・・・」
「そ、そうだったんですね・・・」
すると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「・・・私、実はあまり良い環境で育って来てなくて、昔は結構荒れてたんです」
「え!?そうなんですか?」
そんなばかな。てっきりどこかの令嬢かと思っていた。それくらい気品が溢れている。
「想像つかないですよね。まぁ当時も無理してたんだとは思います」
こんな可憐な女性が、例えるなら某有名な鬼狩り作品に出てくる蝶の人のような、そんな人が昔は荒れていた? それはそれでおもしろいと思ってしまった。
「社長と出会い、この仕事を通して色々な事を経験して、そして今に至るんです。だから・・・感謝の一つでもあるのかな」
「ほぇ~」
「もっと言うと、私と社長の出会いは私からこの会社への依頼からなんですよ」
「えぇ!!そうなんですか!」
「まぁこれは、もし入って頂けたら追々お話します」
「き、気になる・・・」
営業がうまい・・・。この方に一体どんな過去があったんだろう。それに、どうやってこの仕事を乗り切っているんだろう。多くの疑問や興味に導かれるように、葵の心は傾いていった。
「正直・・・白咲さんはまだ学生さんだし、オススメは出来ません。せっかく来て頂いたのに申し訳ないですが・・・」
「まぁ・・・確かに・・・」
すると資料に、ふと気になる文字が飛び込んだ。
「・・・あ」
「? どうされました?」
「この『住み込み可』というのは?」
「あぁ、実はこの建物を建てる時に従業員の住み込みを想定して建てましたので、部屋が余ってるんです」
どうりで大きく見えたわけだ。ルームシェアができる環境になっているのか。
「ここに住めるんですか?」
「そういうことになりますね」
「家賃はいくらくらい・・・?」
「全額こちらが負担ですよ」
全額負担は大きすぎる。実は実家を離れて少し違う環境に身を置いてみたいという気持ちもあった。しかも周りも静かで環境も良い。親元を離れるのは寂しいが、良い経験にもなり得る。
「・・・学校から少し・・・」
大学は、実家からは近かったが、ここに住むと若干離れることになる。良い点は多いが、まだ車の免許を取っていない葵からすると、移動手段が無いのはなかなか致命傷である。
「専属の移動車を設けましょうか?」
「???」
意味がわからない。なぜただの学生にそこまでするのだろうか。
やっぱり何か悪い組織なのだろうか。人体実験でもされて、いつかは捨てられる・・・そんな恐い世界の住人なのだろうか。
「いやいやいや、さすがに申し訳なさすぎます。なぜそこまで・・・」
「何かいけそうな雰囲気でしたので・・・」
(いけそうって・・・)
「意外と強かですね・・・」
「ちなみにお金のことはお気になさらないで下さい。時給8,000円も必ず働いた分お支払い致しますよ」
急激などんでん返し。命の危機もあるが、だんだん条件が良いようにも思えてきた。しかし、一体今までどれだけの人数が逃げてきたのだろうか。親に相談したら絶対断られるだろう。心配はさせたくない。それに・・・ここまでの好条件を叩きつけてくることが、この仕事の厳しさを物語っている。よほど人手が足りないのだろう。いかに学生だから無理するなと、表面上は良い顔をしても、実際は人材が欲しくてたまらないということだ。
「・・・やっぱり、一度考えさせてください」
「・・・かしこまりました。条件はそのまま良いので、またご連絡ください」
「はい。ありがとうございました」
「こちらこそ、大事な時間を頂戴致しました」
最後まで丁寧だ。本当に悩む。内容だけがネックである。その他全ては完璧と言わざるを得ないくらい好条件。いや、もはや完璧を超えている。しかしやはり問題は命の危機。こんな危ない仕事を両親が許してくれるだろうか。普通のアルバイトにした方が良いのではないだろうか。
外では行きのタクシーが待っていた。見送ってくれている優しい女性。あの方との交流もこれが最後なのだろうか。というか話が気になる・・・。
色んな事を考えながら葵は帰路についた。
「ただいま」
「おかえり! 面接はどうだった?」
自宅。この世の中で一番安心する空間。さっきまであんな恐ろしいことを聞いていたとは思えないくらい平和だ。
葵は荷物を降ろし、冷蔵庫を開ける。
「んまぁ・・・普通だったよ」
「通りそう?どうかな」
母が心配そうに聞いてくる。内容を言って良いものだろうか。実は家族には面接先の会社のことは言っていない。冷蔵庫にあったオレンジジュースを一口飲むと、一息置いた。
・・・相談してみよう。
「・・・ねぇ、ママ」
「なぁに?」
「ジ・オールって会社知ってる?」
「ジ・オール?知ってるわよ。何でも屋さんみたいなところでしょ」
意外だった。若い自分が知らないだけで、案外認知度は高いのだろうか。
「パパもママもお願いしたことあるわよ?ちなみにこないだママが友達と夕飯食べにいったでしょ」
「うん」
「あの時に作り置きしてたご飯、ジ・オールさんにお願いしたのよ」
「えぇ!」
そんなことまでしているのか。人手が足りないとはいえ、結構な従業員がいそうだ。
・・・てかそんくらいやれよと無情にも思ってしまった。
「もしかして今日面接に行ったのはジ・オールさんところ?」
「そ、そうなんだよね」
「いいじゃない!目に見えて人の役に立てるって!」
そう聞くと確かに聞こえは良い。だがそれだけではない。中にはとんでもない仕事もあるのだ。
「そうなんだけど・・・」
「? どうしたの」
言いづらい。正直なことを言うと、本当は自分の中では決まっている。
ジ・オールで働いてみたい。恐い仕事があっても、得ることも多い気がする。でも、言うと絶対に反対される。怖くて本当の内容を言い出せない。
「・・・」
「も~どうしたのよ」
「いや・・・」
「・・・まぁ、何でも屋さんだからねぇ。嫌な依頼もあるかもねぇ」
感づかれたか。話すしかないのだろうか。
「・・・」
「でもね、仕事を受けるかどうかは社長さん次第でしょ?」
「ま、まぁそうだと思うけど」
「従業員のことを考えない会社がそんなに有名になると思う?」
一理ある。事実、色々調べてみたが、ジ・オールの評判はすこぶる良い。もちろん人手が足りないということもあってか、なかなか対応してくれないだのというコメントもあったが、それでも基本的には高評価だ。
というよりもこんな身近な人が知っていることに驚きだ。しかも利用していたなんて。
「あなたのこともちゃんと見て、見合った仕事を振ってくれるわよ。まぁダメな方で有名になることもあるけどね」
「そんなもんなのかな」
「嫌だったら途中で辞めたらいいじゃない。辞めたらいけないルールなんて無いし。何か変なこと契約に書いてた?」
改めてもらった資料に目を通してみる。
「・・・いや、退職についてはあまり書いてない」
「ということは、やっぱり最初からジ・オールさんもわかってるのよ。難しい業種だっていうのをね。ていうか今の時代ブラック企業は出てきにくいからね!気にくわなかったらこっちから辞めてやればいいのよ。なんなら弁護士よ弁護士」
さすがは母親。言葉の理解・重みが違う。人生の先輩だ。心強い。
「・・・わかった!私ここにする」
「あんたがここにするったって、向こうが決めることでしょ?」
「それがね、実はもう私の心次第ってとこなの」
「え、じゃあほとんど受かってるの?」
「そう。だから明日電話する!」
「良かったねぇ!頑張るのよ!」
「うん!」
「・・・はい、こちらジ・オールです」
男性の声だ。予想外だった。てっきり昨日話した方が出てくると思っていたから、余計驚いた。
「あ、えーと、すみません、昨日面接させて頂いた者なんですけど・・・」
「あーはいはい、ちょっと待ってね」
遠くで「えりちゃーん!」と聞こえる。せめて保留にしろよと思った。
「・・・はい、代わりました」
「あ、あの、昨日面接させて頂いた白咲です」
「高田です、おはようございます」
「おはようございます。あの、昨日考えたんですが・・・やっぱりジ・オールさんのところで働きたいなと思いまして・・・」
「ほんとですか!?ありがとうございますー!」
面接って受かったら相手側に喜ばれるのか?当然の疑問が脳裏をよぎるが、すぐに昨日の話が頭に浮かび、考えるのをやめた。その後はすぐに初出勤日等の確認をし、電話は終了した。
「ふぅ・・・新たな生活だなー」
両親は住み込みに賛成してくれている。たまには帰って元気な顔を見せなさいよとのことだ。
「・・・家族に恵まれたな。恩返ししなきゃ」
白咲葵の波乱万丈・驚心動魄な人生が今、幕を開ける。
この度は当作品を呼んで頂き、誠にありがとうございます。
小説を書くのは初めてなので、セオリー等考えてやらないといけないとは思うのですが、実際書いてるとそんなこと気にせず、手が止まりませんね。
助けてください。
こんな作品ですが、これからも長々と続けていきたいと思っておりますので、是非とも暇つぶし程度に読んで頂けると幸いです。
よろしくお願い致します。