3.救世主?
やろうと決めた途端、頭の中に魔法陣のイメージが流れ込んできた。これが大女神の言っていたお手伝いなのだろうか。
両手を握り、祈るように眼を閉じた。
見えてなくてもわかる―――今私の目の前では魔法陣が光を放ちながら形成されている。
そして私は次に浮かんで来た言葉を言い放つ。
「我が導きに応えよ! 来たれ、この世を救いし異界の者よ、いざこの地に舞い降りん!」
唱え終わると魔法陣から眩しい光が強く放たれた。まるで落雷があったかのような轟音があたりに響き渡る。
土煙が舞う中、私はケホケホと咳をしつつ魔法陣に目を向けた。うっすらと人影を確認できる。
―――やったわ、成功した!
両手を上げて喜びを爆発させたいけど、落ち着いてセミリア。
今召喚した人はきっと戸惑っているはず、まだ浮かれちゃダメ!
私はコホンと咳払いをすると姿勢を伸ばし、凛とした表情を作る。
ふふふ、女神という威厳を示さなきゃね。
魔法陣から現れた男は私よりも身長が高く175センチぐらい。黒髪に黒目で中肉中背体型をしている。
薄い部屋着を着ている彼は黙ったままジッと私を見つめていた。
まぁ、目の前に女神が現れて見惚れてしまう気持ちはわかるわ。でも何だろう、見つめると言うか睨まれているような……まるで死んだ魚のような眼ね。
さて、先ずは説明をしないといけないわ。えーと、確か大女神が勇者達を召喚した時なんて言ってたっけ?
頭の片隅にある記憶をなんとか探しつつ、私は口を開いた。
「い、異界からよく来ました。私はセミリア、あなたを召喚した女神です。あなたはこの世界を救う役目があります。さぁ、今こその使命を果たすのです」
たしかこんな感じだったような気がするわ。
なんか少し言葉が怪しい気もするけど、初めてだから仕方ないわよね。
彼も召喚したばかりで分からないことだらけだと思うし、何か質問が来て私が答えてあげればこの状況を理解してくれるはず。
「………俺は異世界に転生したと言う事でいいのか?」
きた、きた、きた!
早速質問ありがとう、私に何でも聞いちゃって!
「はい、あなたは私によって召喚された転生者と言う事になります。あなたは選ばれたのですよ、光栄に思いなさい」
「そうか」
「「…………………」」
え、おわり? この子他に何か聞く事ないの?
相変わらずなんか私のこと睨みつけてくるし大丈夫かしら?
本当に天界を救える力があるのかちょっと不安になってきた。何か彼の能力とか分かれば良いんだけど……。
そう思った途端、彼の右上辺りにうっすらと能力が表示された。彼は気付いてなさそうだから、もしかしたらこれも大女神の力かも?
【名前:戒場 海斗】
Lv.1
HP68
MP55
力61
守85
速63
魔攻46
魔防79
運89
・経験値ブースト
・火耐性、水耐性、土耐性、風耐性、氷耐性、雷耐性、打撃耐性、毒耐性、麻痺耐性、眠り耐性
・女神の加護
―――とんでもなく強い。
大女神が召喚した勇者パーティーの初期能力値もついでに比較されてるけど、どのパーティーよりも初期能力値は上回ってる。
「質問は以上で良いのですか? 戒場 海斗」
「……なぜ俺の名前を知っている」
「私は女神です。あなたの事は当然知っているに決まっています」
「…………」
ふふふ、驚いて声も出せないかしら。
なんか掴めない人だけど、この能力値だったら期待が出来るわね。さて、後は倒す相手を伝えなきゃ―――
「さて、これからあなたが倒すべき者達の名を伝えます。
曳野光輝、口木戸紗恵、喜瀬刹那、鬼場翔
―――以上の四人です」
勇者達の名前はハッキリと覚えている。
彼らも海斗と同じ転生者だ。
私と勇者達の関わりはあまりないけど、彼らの事はよく知っている。
魔王のせいで人間界へ女神の力の影響を与える事が出来なくて、勇者達へのサポートが出来なかった。
そう、彼らが魔王を倒すまで女神は天界から勇者達の様子を見護るしか出来なかったってこと。
勇者達が魔王城へ突入した時は魔王の力が強くて、天界からも勇者達の様子は見えず祈るしかなかった。
でも、魔王城を取り囲むように出ていた靄が消えて魔族が魔界へ去って行く姿を見て世界を救った事を確信できた。
あの時は天界のみんなで喜んだ事を今でも覚えている。
勇者の名前を出したらなんか思い出しちゃった。まさか、その世界を救った勇者に私たちがやられるなんて思いもしなかったわ。
とりあえず、今目の前にいるこの転生者の説明を終わらせて早く天界を助けないと!
「彼らは世界を支配し我が物にしようとしています。非常に強力な力を持っていますが、しっかりとレベルを上げれば、きっとあなたでも倒す事ができるでしょう」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
あ、あれ? ここまで説明してるのに相変わらず反応悪いわね。
よし、ここはビシッと決めますか!
「彼らを倒し世界に平和をもたらす事があなたの使命となります! さぁ、私と一緒に旅立ちこの世界を救済しましょう!」
―――決まった、、、!
初めてにしては我ながら上出来じゃないかしら?
思わず拳に力が入って腕を掲げてしまったわ。
さぁーて、これで海斗も少しはテンション上がっているはずよ!
どれどれ、どんな反応をするのかしら。
「………話はわかった。俺は元の世界へ帰らせてもらう」
「えっ?」
海斗の言葉に私は耳を疑った。
―――まさか、失敗した?




