2.堕ちる女神
私はあまりの光景の酷さに言葉を失いその場にへたり込んでしまった。
頭は混乱していて理解が追い付かない、これは一体何なの?
「セ、セミリアッ!!!」
道の先の方で聴き馴染みがある声が聞こえた。
私は顔を上げるとチアルが一生懸命に羽をバタつかせてこちらに向かっている。
「チアル! これは一体なんなの!?」
チアルの顔を見て、気を持ち直した私はチアルの元に急いで駆けつけようと思い立ち上がった。
「ダメ! 来ないで!! 今すぐここから逃げて!!」
チアルの声で私は足を止めた。
チアルは必死に背中の羽を振っても速度は上がらずその場で下に落ちた。
そして―――
「あああああぁぁぁぁあぁああッ!!!!!」
落ちると同時にチアルの体は徐々に石と化していく。
耳をつんざく様な叫び声、友の苦しむ姿に目を覆いたくなる。
「チアルッ!!」
「ダ、ダメぇぇぇ!!! 来ちゃダメぇぇぇ!!!」
思わず駆けつけようとしたけど、チアルは手を前に出して近付かないよう声を出した。
そして、チアルは石となった。恐怖に満ちた表情のまま固まってしまったのだ。
「チアルゥゥゥゥッ!!」
あまりの出来事に私はその場から動けなかった。
そうしている間にも石化は進み、私の家との距離を縮めて行く。
込みあげてくる涙――――私は思わず声を上げて泣いてしまった。
どこに逃げればいいの?
どうして天界はこんなことになっているの?
なんでこんなことになっているの?
考えるたびに私の足は動かない。
誰か助けて……チアル、チアル、チアル――――。
『セミ――――セ――セミリア聞こえますか?』
「だ、誰!?」
脳内から響く声にビックリした。でも、その声は聞きなじみのある声でなんだか心が落ち着くような気がする。
『私です。大女神です』
「大女神!!! 無事でよかった! あの、チアルが石になって天界もこんな状況で私は何がなんだか――――」
『セミリア、時間がありません。落ち着いて下さい』
「は、はい!!」
大女神声のトーンはいつもと違う様子だった。まるで焦っているかのように穏やかではない。
私は涙を拭いて立ち上がり話を聞く体勢に整えた。
『この天界の状況は勇者達の仕業です。彼らはこの世界を物にするため私達に刃を向けました。私の力でなんとか抑えていますがその場にいた女神たちはもう……』
そ、そんな――――世界を救った勇者のせいでこんなことになってるの?
これじゃ私がみた夢と同じじゃない。じゃ、私も遅れずに行ってたらやられてたってこと?
『まさかこれほどまでに力をつけているとは思いませんでした。勇者達を止めるにはまだ被害に遭っていないあなたが鍵となります』
「わ、私ですか? でも、私は豊作の女神で勇者達を止める力なんてありません!」
いくら大女神のお願いでも無理がある。私に出来ることは植物や食物を大きくするぐらいの力だ。これでは足止めにすらならない。
『安心して下さい、今から私の力の一部を分け与えます。力の中に召喚を行える能力があるので勇者を止めるべくセミリアが召喚を行いなさい』
「しょ、召喚なんてやったことありません! それに、もし失敗したら私……天界を救うこともできなくなってしまいます」
『大丈夫です。あくまでも召喚は力の一部、他の能力があなたのお手伝いをします』
手伝ってくれると言う言葉で私は少し安心した。
そうだ、失敗しても召喚が上手く出来るまで何度もやればいいんだ。
『ちなみに召喚は一度しか行えませんので気を付けて下さい』
―――え?
これじゃ、失敗出来ないじゃない。さっきまで安堵出来たと思ったら、また不安が押し寄せてきた。
『勇者を倒せるほどの能力を持つ者を呼び寄せます。ただし、勇者達を止める術を持っているのは女神しかありません』
どういうこと?
倒せる力を持つ者を召喚しても、実際に勇者達を止める事が出来るのは私?
頭でなんとかまとめようとするけど、整理する間も無く大女神の話は続く。
『勇者達を倒せる者を召喚するからには私の力はそちらへ多く割当てます。それによって、あなたに与える他の力はバランスが悪くなりますがきっと大丈夫です』
いやいや、大丈夫じゃないわよ!
天界の命運握ってるのに失敗出来ないじゃんか、他の能力って何があるの?
「あ、あの、、大女神他にも色々も聞きたいことが―――」
『くっ! セミリア、私にはもう勇者を止められません、最後にあなたを安全な場所へ飛ばします』
「そ、そんな! 大女神! 一緒についてきて下さい!」
『大丈夫、あなたならきっと勇者達を止められます、私は信じてます。セミリアどうか無事で―――』
「ま、大女神!!」
次の瞬間、私は今まで感じたことのない感覚に陥った。
そう―――それは落下。凄まじいスピードで天界から落ちている。
味わった事のない恐怖で思わず大声で悲鳴をあげた。羽を動かしなんとかバランスを取ろうとするが上手くいかない。
くるんと体が空中で捻り私は天界のある上を見上げた。雲は黒ずみ、紫色の靄が天界全体を包んでいる。
―――その光景はもはや天界とは呼べない。
※ ※ ※ ※ ※
う、うーん。
いつの間にか気を失っていた私は目を覚ますと、地面に横たわったままキョロキョロと辺りを見渡した。
周りは真っ暗で奥から光が漏れている。私はゆっくり起き上がると光に向かって歩き出した。
数十歩進むと入口が見えた。どうやらここは小さな洞穴の中みたい。
入口の先には山や草原が広がっている、この景色はどこか見覚えがある。
―――どうやら人間界まで落ちたように思えた。
「はぁ……」
思わずため息が出てしまった。
未だに心の整理は付かないし、信じられない。
「……大女神、私の声は聞こえていますか?」
脳内へ問いかけるように言葉を出したが、返事は返ってこず独り言になってしまった。
でも、自分が悩んでいる間にも天界の状況はどんどん酷くなっていると予想できるし、いつまでもウジウジなんてしてられない。
「……よし」
私は衣に付いていた土を手で振り払うと、一刻も早く天界を救うために早速召喚を行おうと決めた。




