1.救われた世界
―――ここは天界。
人間界を支配しようとした魔王は魔界から現れ、人間界を滅ぼさんとした。
状況を重くみた大女神は勇者達を召喚し魔王の討伐を命じた。
その後、勇者達の活躍により人間界へ平和にもたらした礼として天界へと招き入れ、大女神から恩恵を受ける事となる。
そして、私は跪く勇者達を見下ろし満面の笑みを浮かべながら語りかける。
『よくぞ魔王を打ち倒しました! 褒美として望むものを差し上げましょう!』
仲間を引き連れている勇者は顔を上げた。
その顔は靄がかかっていてなぜかよく見えない。
『なんでも? だったら欲しいものは一つしかない。それは――――――』
※ ※ ※ ※ ※
「ちょっと、セミリア!! なにしてるの!? 早くしないと怒られるよ!」
「はにゃ?!?」
ドア越しから響く声で私は情けない言葉をあげながら起こされ、慌てて口元のよだれを拭いた。
「ああ、やっぱり寝てたんだね、ほら急いで!」
ドアから入ってきたのは植物を司る自然の女神チアルだ。
グリーンのボブヘアが似合うナイスバディ……私も負けてないんだけどなぁ……って、考えてる時間はなかった!
「ご、ごめん! すぐに準備するから!」
私は慌てて飛び起きると銀色の髪をとかし、白い羽衣を着てチアルと一緒に家を飛び出した。
シャンデリアのように光る雲、美しいガラスで出来た橋を急いで渡る。
誰が見ても美しいと思えるこの光景は私にとっては見慣れたものだ。
「あー……明日の事を考え過ぎたのかな? 私が大女神になる夢を見てたわ」
「セミリアまだ寝ぼけてるの? あなたは豊作の女神でしょ!」
そう、私は豊作の女神であるセミリア。人間界の作物に恵みを与えるのが仕事。
人間界を救った勇者達を天界に招くって聞いてから、変に意識して変な夢を見てたのかな?
考え事をしている間に大女神がいる広間はもう少しで着きそう。
広間へ着く前に大きな階段があるけど、私とチアルは背中の羽をパタパタと動かして駆け上った。
「待っていたわ、2人とも。人間界が平和になったから使命で忙しかったでしょう。他の女神達には説明をしたからあなた達で最後です」
広間へ着くと私たちに大女神は笑顔で、そして優しく話しかけてくれた。
「遅れてすみません。大女神」
私は頭を下げて謝ると顔を見上げて大女神を見た。
大女神の背丈はとても大きい。椅子に腰掛けているけど、見上げないと綺麗な顔が見えないからだ。
「わかっていると思いますが、明日は勇者達を天界へと招きます。彼らは立派に使命を果たしてくれました。たったLv35で人間界を救うとは私も正直驚いています。とても優秀な者を召喚出来てよかったです」
魔王を倒すために女神全員をこの広間に集めて大女神によって召喚が行われた。
なので、私も実際に召喚されたばかりの勇者達を目の当たりにした事になる。
召喚されたばかりの勇者達は最初は混乱してたけど説明をするとすんなり受け入れていたので、彼らが抵抗もなく受け入れる姿を見て正直びっくりした。
勇者たちが人間界へ降り立った後に他の女神達から聞いた話しでは、異世界に抵抗があまり無い世界から選んでるんだとか。
明日の事について大女神から説明を受けた内容はそこまで大変なものではなかった。
案内をする女神が勇者達をこの広間へと招き入れ、女神全員で迎え入れるというものだ。
まぁ、最初と最後は同じでみんな揃って勇者たちを迎えると言うことね。
私とチアルは勇者達が到着する前に広間へと辿り着けばいいみたい。
「ああ、そうだセミリア。勇者達が来たら何か果物を出してあげましょう。お願い出来るかしら? チアルも協力してあげて下さいね」
「はい! 大女神任せて下さい!」
チアルが果物の種を作り出して私がそれを実らせる。ふふふ、豊作の女神だからとても大きな果実を作って勇者をビックリさせてやるわ!
「では、二人とも明日はよろしくお願いしますね」
「はい! よろしくお願いします!」
「はい、大女神!」
私とチアルは勢いよく返事をするとその場を後にし家へと戻った。
「セミリア、平和になって大変なのはわかるけどそれは私も同じだから明日は遅れないでね」
「ご、ごめんっ! 明日はちゃんと起きるから! でも、遅れたらごめん……」
「まぁ、また遅れそうになったら私が起こしに行くわ」
「……はい、お願いします」
帰路の途中少しだけ話したけど、チアルには頭が上がらない。
いつも助られてばかりだ。
「さて、もうひと頑張りしますか」
家に着いた私は椅子に座ると自分を鼓舞するかのようにひとり言を呟いた。
人間界が魔王の支配から解き放たれてからと言うもの忙しい。魔王が現れた時は女神の力が抑制されて勇者の手助けが上手くできなかった。
魔王が居なくなった今では他の女神達の力が強まったおかげで至る所で収穫祭が行われている。
そして、目の前にあるエメラルド色に輝く雲に意識を集中させた。
人間たちの様子がその雲に映し出されたのを確認した私は手を組んで祈りを捧げる。
平和になったから嬉しい気持ちもわかるけど、その分私の仕事は多くなってしまう。
お陰でここ最近はクタクタ……明日は勇者達が来るから早く寝なきゃ……。
※ ※ ※ ※ ※
『この世界が欲しい』
勇者から言われた言葉に大女神は言葉を失った。
あまりにも唐突で冗談かと思い、思わず笑みも溢れてしまうほどだ。
『ふふ、いくら平和をもたらした勇者でもこの世界は差し上げられません』
『……どうしてだ? 望むものくれるのだろう?』
『魔王の代わりに今度はあなたが世界を支配するつもりなのですか?』
私の言葉に勇者は黙ってしまった。顔に靄は掛かっているが機嫌が悪くなっているの事は雰囲気でわかる。
そして、沈黙の後に勇者は私に向かって悪態をつき始めた。
『………うるせぇ、うるせぇ! うるせえ! うるせえ! うるさい!!』
※ ※ ※ ※ ※
ハッと目を覚ました。どうやらいつの間にか寝てたみたい。
私は慌てて壁に掛けてある天界の時刻を表す針を見る。
嘘でしょ?
約束された時刻より大分過ぎてる、みんなが集まる広間に急いで行かないと!
昨日と同じ様に急いで準備を終えた私は急いでドアを開けた。
すると私の目に飛び込んできたのは歪な形をして黒ずんでいく雲、ガラスで出来た橋はヒビが入りながら徐々に石となっていく。
そして、辺りには淀んだ空気も漂い、息苦しさも感じてしまう。
「な、なに……これ……」
ドアの先には私の知っている天界ではない光景が一面に広がっていたのだった。




