4.ぐだぐだ
すいません。たいっっへん申し訳ない。僅かながらいらっしゃるここまで読んでくださった方々へ。
主人公達の年齢設定を変更しました。
これまでもチョコチョコ手直しはしていますが、これでそのチョコチョコの箇所がまた増えております。
ほんますんません。
言うほどまだまだ書いてないやんけ。はいそうですね。
広世さんが自分の教室に入って行くのを見てから振り向くと、向こうから先生がやってくるのが見える。
我がクラスを見るとみんな首をかしげたり、まだぼおっとしたりしてる。多分だけどもうからまれたりはしないと思うので、時間も無いし教室に入る。
私が席に着くと程なくして先生が入ってくる。先生は少し様子がおかしい生徒達を見ると、暫し考えるような仕草をするが、何事か一人で納得したように感じた。そして素早く手元でメモを取ると、バンバンと少し大きめに教卓を叩き、普通に注意と授業を始めることを伝える。
先生は広世さんがこの教室の廊下にいて去って行くのを見てるはずなので、ひょっとしたら彼女について何か事情を知っているのかも知れない。
先生に尋ねてみるのも良いかもだけど、たぶん何も教えてくれないし、広世さん本人にお呼ばれしてるんだからいいかな。
その後は何事もなく時間が過ぎて行く。クラスメイト達は1時限目が終わった時にはもう何事もなかったようだった。わざわざしゃべりかけるのは嫌だったから確認はしていないけど、どうも朝の騒ぎのことはよく覚えていないっぽい。私のこともことさら意識するでもなく、いつも通りスルーしてるしね。
あの悪口バカ男子だけは何やら言いたげに近寄ってきたけど、私がすっごい嫌々「なに、私はもう何もしゃべりたくないんだけど」って言ったら、なぜかやたらへこんで離れていった。友人らしき男子に背中をポンポンされながら何やら言われてたけど何なの?
私と同年代の他三人が互いの手をつなぎ輪になってクルクル踊っている。
いきなり映画のシーンを切り取ったような感じで、どういう状況か分からない。
休憩時間にめずらしく居眠りをしてしまって夢を見ているんだろう。
私の向かいで無邪気に笑っているのは広世さんだ。
そして両隣は見知らぬ男子二人。
一人は精悍な感じの黒髪地黒でイケメンと言えなくもない。
むすっとした表情だがこの状況を嫌がっている風ではない。
もう一人は色白細面の美男子。女子と見まごうその顔は広世さんに似ている。
思慮深そうな感じでちょっと何を考えているか分からないが、こちらも楽しんでるようだ。
私は、自分なので当然顔は見えないが、このこっぱずかしい状況なのに幸福を感じている。
メリーゴーラウンドのBGMでも聞こえてきそうな、あるいは背景にお花畑でもありそうなシーン。
いつまでも続きそうなふわっとしたこの夢は、やはり夢らしくすうっと薄れて目が覚めた。
むう、夢、ただの夢か?
全然見知らぬ男子二人と知り合ったばかりの広世さん。広世さんはともかく、全く知らない男子二人がなんで私の夢に出てくるのか分からん。分からんと言うかあり得ないでしょ。
なんだか気になるけど、考えても解らないし、私の能力はまず現実に見えている物・現象をもとに導き出される物なので、相手が夢なんかだと手も足も出ない。まあ夢相手にそこまで気にしてもしょうがないね。忘れよう。
昼休み。
とりあえずいつも通り行動しよう。
休み時間はたいがい本を読んでるか校内をウロウロするかしている私。ぼっちのテンプレ的行動だね。でもただコミュニケーションを避けるためだけに闇雲に惰性でそうしてるわけではないよ。もとより本を読むのは好きだし、散歩好きの私は学校でも好奇心を満たすためによくウロウロキョロキョロしている。
で、昼休みはいつも、おなかも満たされてることもあって、ちょっとだけ能力を使い快適なコースを探りつつ校内を徘徊する。散策なんだから特に目的はないんだ、け、ど、一つだけいつも行く事にしている所がある。
特別支援学級。この学校は普通の中学校だから、専門的なケアが必要な重いハンデキャップを持った子はいない。だからそこは、おもに軽い発達障害のある子が希望して在籍しているクラスなのね。
そこに行く前に、くどいようだけどまた自分のことをちょっとだけ説明するのを許して欲しい。
私の知る限りの変質能力保持者の特性として、その能力の大きさ・強さに比例して本来の身体の部位の欠損が大きくなる。私の能力の対価がどれほどのものなのかは、知らない。ちょっと・・・すごく怖いので、我が能力でもって調べればたぶん分かるけど、知らない。
けど、だから、これはただの個人的な感傷なんだけど、本来たぶん重い機能障害を持って生まれた、あるいは生まれることも出来なかったんだろう私としては、身近にいるあの子達がちょっと気になってしまう。
朝、ちょっと考えてたことを思い出す。イジメたりイジメられたりの他人なんて知らないと思ってる。こんな事を言葉に出して言ったり、何かしらの発信をしたら、色々言われるのは分かってる。下手をしたら大炎上だ。
でも今のところ関心の無い他人がどうしようと何とも思わない。
現状周りにはいないけど、身近にイジメを受けている子がいても、そのイジメに加わったりはしないし、例えばその子が私に話しかけるとかしたら無視したりはしない。ひょっとしたら、そこから友だちになれるかも知れない。
だからって私から積極的におせっかいはやきたくないし、友だちが欲しいわけでもない。
だけど、障害児は自分自身がそうであるという意識から無視できない。
人の世は不平等だ。それは仕方ない。今の状況のなかで自分にあった幸福を見つけるのが人生だと人は言う。まあ、私は周りより大人だと自分で思っているが流石にまだまだ子どもだとも思う。が、この言葉はたぶん間違いじゃないと思っている。
しかしそう思える私はそれだけで幸福であると言うのも一方での真実だと思う。世界にはどうしようもなく多くのあるいは大きな不幸の種を抱えて生きている人が沢山いる。サスガに生きてるだけで幸福だとはなかなかいかないんでしょう。
まあ、何が言いたいかというと、いくら普通より知識をため込んでいて特殊な能力持ちと言ったって、子どもの私が思いを寄せたり干渉したい他人は、自分が興味のあるほんの周辺の者だけだと言うこと。
そして、その気になる人たちがそれなりに暮らしてるなら良いんだけど、それこそイジメにあったり一方的な不利益を受けたりしているのを見てしまったらたぶん私は我慢できないと思う。
まあ、でも今は何をどうするか決めているわけではない。毎日私のこの眼でもって異常がないかうかがっているだけだ。何も無いならそれで良い。
ごちゃごちゃ考えてる間に支援学級の前だよ。
はい、今日も異常なし。
てふてふてふてふ。私の足音も異常なし。スニーカーだろうが上履きだろうがお構いなしにてふてふだ。
そして適当に校内を散策する私。
おやおや、前から近づいてくる女子グループは私の方を見てないかい?快適な散策ライフがまたもや乱された。ぶー。昨日から度々こんなだ。能力の不調ではない感じ・・・たぶん。
これはあれか、急がば回れ的な。だが欲しい回答を得ようにも、今以上の能力行使はダメだ。流れに乗るしか無い。
でもなー、あれ、普段からファッションのことやら、あの男子がかっこいいの、あの芸能人がどうの言ってる連中だぞ。一番・・・てことは無いが、あんまり関わりたくない奴らだよ。
流行を追おうが好みがどうのこうの言おうがそれぞれの勝手だ。大いに結構、勝手にやってて欲しい。しかしこの手の奴らは必ず周りの反応を欲しがる。それも大体同意をだ。あーいやだいやだ。
まあ、こんな所で偶然見かけたであろう私にその手の話題で話しかけてくるでも無いんだろうけど。
どうか私に用事があるのではないように、と僅かな可能性を思う。しかし、5人いる中の一番目立つのが私の正面に立ち止まったよ。
ああ、ああ、もうっ、すぐ目の前で立ち止まって見下ろしやがって。ちょっと体格でまさってるのがそんなに嬉しいか。間近で見上げてたら首が痛えっての。もちろんそんなことは口に出さないが顔には出てるかも知れない。
「あんた、いつもこうなの、ちょっと訊きたいことがあったのにちっとも捕まらないんだもん。」
どうやらわざわざ私を探していたらしい。まことに煩わしい。
「いっつもさぁ、分かってんだかどうだか分からないような難しそうな本を読んでる風にしたり、一人で教室を出て行ったりでさぁ、そんな一人が好きなんです、みたいなポーズ取って、友達がいないのをごまかしてさ、見苦しいんだよ」
「なんなら仲間に入れて上げよっか?」
「えぇ~嫌だよあたしー」
「バカ、冗談に決まってるっしょ」
言いたい放題だ。まさかこんな事を言いにわざわざ私を探してたんじゃ無いんだろうけど、そろそろホントに首が痛いのでエスケープしたい。
「散歩も、本も、ホントに好きなだけ、ほっといて」
我ながらどうしようもなく、ぶっきらぼうだ。
私のおしゃべり能力はとてつもなく低い。
だからって、望まないおしゃべりや電話での会話でどれだけしんどい思いをしているかなんて、普通に出来る者には永久に理解できない。
はぁ、とにかく顔逸らしてエスケープだ。
ああしかし身体能力もダメダメな自分が恨めしい。
敵パーティーに回り込まれた。エスケープ失敗。
「待ちなさいよ、訊きたいことをまだ聞いてないし」
まあそうでしょうとも。だからってそれを聞きたいとは思わない。しかし逃がしてはくれないよね。なら最初の嫌みは全く余計だ。じつに忌々しい。
「あんた、アシくんと何話してたか、どうゆう関係か話なしさい。だんまりは許さないからね」
?・・・だんまり許さんて言われたって、誰だ、アシくんって。
まあ、今日私が会話した男子はあのウザ男くんだけだ。
「だから、だまんなって、田村足充くんのことを聞いてんのよ。早くしゃべれ。」
ああやっぱり、悪口言いの彼で間違いないだろう。田村たるってんだ、それでなんでアシ?よく分からんけど、ドウデモイイや。
それはいいけどなんだ、この女子グループ皆そのアシくんのファンかなにかの集まりなのか?ミーハーっぽい子達のようだけど、あの悪口男子イケメンってわけでもないよ?
まあそれならやつに悪口言われただの言うのは良くないだろうし、一石二鳥の手もある。
「彼のおせっかいが、こじれただけ。田村くんにも、私には、かまわないでって、 言っておいてくれると、うれしい」
さあ、これで彼女らにそのアシ君とやらに会いに行く口実も出来ただろうし、うまくいったら彼がまた私にからんでくるのも阻止できるかも。
彼女らも彼がおせっかい焼きとの認識はあるらしく、何やらしゃべり交わしそこは納得したらしい。
とにかくもう用事は済んだだろう。今度こそこの場を去るぞ。
ところがまた回り込まれるまでも無く、呼び止められる。
「待ちなさいって、行って良いなんて一言も言ってないわよ」
ええー、ずいぶん譲歩してお相手さしてもらってるつもりだし、最初に「ほっといて」って言ってるのに、まだ何かあるの?
もういい加減、精神力尽きる。
「もう一つの質問もさっきと同じよ。広世さんとあんたの関係。なんで底辺女がいきなりお嬢となれなれしくしてんの」
ここでスクールカーストの話すか。
同じ質問て、確かにそうだが、話の方向性が違いますな。
私に対する認識がそんななのはまあいいや、奴らにどう思われてようと本当にドウデモイイ。
広世さんとの関係は、朝のやりとりを聴いてたら大体分かりそうなものだけど、これは私の口からどう思ってるかを聞きたいと言うことなのか。
「広世さんとは、まだ、何でも無い。昨日偶然会ったのが初めてだし」
これ以上は言いようがない。人間関係は本当にこれが全てだ。彼女の家での失態なんて言うことない。絶対言わない。
それにしても、噂でしか知らなかったけど、広世さんはホントのお嬢様なのとその美貌とで、全然しゃべらないのを私なんかと違って好意的に解釈されて、神秘的だとかおしとやかだとか思われて、スクールカーストの頂点に君臨とかでは全然ないけど、多くの生徒達の心を男女関係なく惹きつけている。
この5人組も私からなにかしらの情報を得て、彼女に取り入るか他の同様の者どもから一歩抜け出したい思惑なんだろうが、バッカじゃなかろか。
私がもし彼女とほんの近しい間柄だった場合、私に悪印象を与えるあんな対応をして、立場が悪くなるのを考えなかったのか。
まあ実際そんなこともないし、奴らは本当に気にしてないようだ。
それにそろそろ反応の薄い私に付き合うのも嫌になってきているんじゃないかな。
「もういい?」と言う私に、渋々という体を取りながらも少々ほっとしている様子。
やれやれ、もう休み時間も残り少ないし奴らの気が変わらないうちに退散しよう。
・・・何か、田村君に関しては失敗の予感がちょっとするが、なんでそう思ったかは自分でも良く分からない。けど、彼女らとのおしゃべりはもう沢山だ。この場は離れて、ちゃっちゃと行こう。
さて、放課後だ。
カバンを持って廊下に向かうと、すでに広世さんが待っているのが見えた。廊下に出て軽く手を挙げてあいさつをすると、彼女も同じようにするが、首を少し横に傾けた顔は笑ってはいるがちょっと泣きそうな微妙な表情だ。
うあぁ、やめてほしい。ただでさえ性別を問わず人を引きつける美貌なのに、そんな顔をされると何ともいえない気持ちになるよ。ずるい。
本人のドジを差し引いても大変な思いをしてきたことは想像に難くないけど、やっぱり想像は想像だ。よく知らないことに変わりないし、この子、盛り盛りに持ってんだからちょっと同情はできないかな。
あ、周りのみんなも彼女がそこに居ることに気付いている。あの周りの人を魅了するような現象は彼女の声が原因のようだから今は問題ないだろうけど、私に向けられている表情を見られたらまた何を言われるか分かったもんじゃない。ここにじっとしている理由もないので、急いで学校を出ることにしよう。
思わず手をつないで走ってしまったんだけど、この子はどうしてこんな嬉しそうにしてんの。さっき泣きそうになってた子はどこに行ったのかしら。でもそれより私も朝に結構な目に遭っておいてその元凶の手を取って仲良く走ってるって、自分で自分が分からない。あんな夢を見たからってこんな行動に出る私では無いよ。
萌ちゃんは人に説いたり押しつけたりすることはありませんが、自分が思う人の生き方をこれでいいと思っています。
少し変わった個性の自分が生きていくための自分の中だけのルールだから。