3.神様、盛りすぎです。
本作を書き始めて1月経ちましたがたったこれだけです。
朝になって思い出す。
きっと昨日の口の悪いバカ男子が何か言ってくる。
朝から終業の時間が待ち遠しいとか。
学校でアメ玉コロコロするわけにはいかないから、校内ではメガネかけたまんまの弱い力も使えないんだよなー。色々制限もあるし、一見チート級の我が能力は案外使い勝手が悪い。
着替え、洗顔、おばあちゃんに「おはよう」。
「いただきます」朝ご飯。
うちのご飯はひかえめに言っていつでも美味しい。必ずおばあちゃんが畑で育てた旬の野菜が使われた料理が1品2品あるし、おばあちゃんの料理の腕も抜群だし。
うん、美味しいご飯を落ち込んだり怒ったりしながら食べるほどつまらないことはないよね・・・。朝の小さなユウウツも引っ込んだかな。
「あ、そうだ、今日は約束の日だけど畑のお手伝いできないや」
朝から忙しくしているおばあちゃんに断りを入れてその理由も話す。
おばあちゃんの野菜畑には時々手伝いに行ってる。最初はめんどくさかったけど今は楽しみのひとつだ。今日も色々教えてもらったりする予定だったけど、行けなくなった。放課後、広世さん家へ行かなくてはいけない。
昨日のぶっ倒れ事件はいつもの貧血みたいなのだから心配しないでと言ってある。それにあちらからのお誘いだしね。
おばあちゃんは毎日採れたての野菜を数カ所の直売所に朝早く持って行く。だからいつも「いってきます」はおばあちゃんで、「いってらっしゃい」が私だ。今朝も私が朝の仕度をしている間に荷造りを終えて少し私のことを心配しながら出かけていった。
ふぅ、しょうがない、学校に行こ。玄関になぜか置いてある招き猫に声は出さずに(いってきます)をして、1人で出かける。
てふてふてふ・・・・・・
「てふてふ」と書いてでチョウチョだって?知ってるよ(ほんとはちょっと間違ってるよ)。
しょうがないじゃん、私が歩くとそんな感じなんだもん。
ふと足を見る。自分のことだ、当然いつも見ていて思うことはある。脚、太い短い(あ、あくまで標準よりもちょっとだけという意味だよ)。足首、ない。ふくらはぎから、そのままストンと踵だ。オシャレではないがしっかりとしつつ無骨ではないお気に入りのスニーカーの中の足は、ぷにぷにだ。おさんぽが趣味でよく歩くからツチフマズもしっかりあって、指並び?もおかしな所は何もないけど、ぷにぷにだ。
おっと、べつに卑下してるワケじゃないぞ。ありのままがそうってだけだ。良いとこもイマイチなとこもあるのが人間でしょう?私に世間一般的にマイナスイメージなところがいくつかあることは認識してるさ。でも私は自分のことがわりと好きだよ。ちょっとチートっぽい能力によって普通では持てない自信があるからってのも、あるかもしれないけど、それだけじゃ無い気がするんだなー。
コミュ障で滅多にしゃべらないし、しゃべればぶっきらぼう。転校生で、友だちも少ない作ろうともしない。そのくせ俯いてじっとしているでもなく、むしろいつも歩き回っている。あらためて考えると自分でもずいぶんな変人だと思う。
多様性が大事だとかナンバーワンよりオンリーワンだとか言いながら、現実は高性能でも扱いづらいモノは大体の所では弾かれるこの世の中で、イジメの対象になったことがないのは、なんでなんだろうね。
まあ、私を見下して絡んで来たって私自身に劣等感なんかないんだから相手にならないし、人に妬まれるような所もないんだから、色恋沙汰やマウンターに絡まれることもない。
あ、イジメたりイジメられたりしている他人のことなんか知らないよ。勝手にやっててちょうだいだ。
とりとめもないことを考えてるうちに学校に着いてしまった。
いつもならつい興味のひかれるままにキョロキョロとゆっくり歩いて、遅刻手前のぎりぎり登校なのに、あんまり空いた時間が要らないときに限って余裕を持って教室まで来てしまった。
昨日から調子が狂いっぱなしだなぁ。でも不思議と嫌な予感はしない、どころかかすかにワクワクしてる気がするのだけど・・・・・・
やっぱり目の前の状況は好ましいものでは到底ないぞ。あのバカ男子がちょっと芝居がかったわざとらしい怒った顔でまっすぐこっちに歩いてくる。
ちょっと大きな足音までさせているので周りの注目まで集めてるぞ。迷惑この上ないことだよ。
「おいっ昨日あの後大変だったんだからな、うちの母さんのお説教は長くて大変なんだ。それからな・・・」
そしてグダグダと愚痴を聞かせ始める。知ってるさ、そうなるように私が仕向けたんだし。
「それで、なんであんたの愚痴を聞かされてるの、私」私は不快感をにじませつつ、グダグダとしゃべり続けようとする彼の言葉を遮る。
「ひどい悪口言っといて、自分のが正しい、なんて思って、ないよね?」
まあ、こいつが始めは私に常識的な注意をしただけのつもりが、私に無視されたんでああいう事になったのはわかってる。でもだからって悪口を言われたことをゆるすつもりは無い。
しかし私の口ってば、普段なにげない会話をするときは中々上手くしゃべれないのに、拒絶のセリフはスラスラと出てくるなんて、ねっからのぼっち体質だなあ。ん、スラスラじゃあ無いですか。
「悪口?ははっ、見、た、ま、ん、ま、だろ」
このセリフを聞かされた私はついカッとなってしまって、それまで机に肘をついてジト目で相手をしていたのに、椅子にガタガタと音をさせて立ち上がっていた。こいつ、母親にこってりしぼられたはずなのにまだ言うか。それともお小言が長くなって別件でも叱られてるうちに始めの件が薄れてしまったのかな。大体の男子なんて叱られるネタに事欠くことはないだろうし。全くもう、うっとうしいことこの上ない。むぅー、どうしてくれよう。
しかし、私と目の前のバカがにらみ合って次の言葉を発する前に、教室に入ってきた1人の女子が私を呼ぶ。
「あ、居ました。萌ちゃん!広世ぷらむです。おはようございます。ちょっとお話よろしいですか?」
すごい。彼女の声がそんなに大きかったわけでもないし、それなりにザワザワしてた我がクラス。それが、見事に全員の視線が彼女に集中している。
それにしても、初対面の昨日もそうだったが、なんでこの子は私を下の名前で呼ぶのかなぁ。いきなり「ちゃん」付けだし。
そして、なんだか嬉しそうに私に近づいてくる彼女。
「あれ、何かお取り込み中でしたか?」
バカ男子は固まっている。なんとなくこっちを見ていた子たちの関心もすっかり広世さんの方に向いてるし、うっとうしい状況から抜け出せて私にとっても渡りに船だ。乗っかろう。
「いいえ、何でもない」
「お、おいっ」
バカ男子は何かを言いかけるが、私と広世さんを交互に見ながら、結局黙る。そりゃあ、私なんかの相手をするよりマドンナ様のご機嫌をうかがう方が大事でしょうね。
「それで?」
私が椅子に座りつつ広世さんに要件を問うと、周りで男女問わずざわつく。
彼女は間違いなく何らかの能力もちだとは思う。でも単純に人の考えを読めるとかじゃない感じ。まあ今わからないことを考えてもしょうがない。私の能力が通じないことはわかってるんだし。
「はい、今日の放課後、萌ちゃんに我が家へまたお越しいただけることの確認なんですけど、本当は放課後に学校を出てから2人きりになってからで良かったのですが、学校でお見かけしたら、萌ちゃんとおしゃべりできるのが待ちきれなくて、来てしまいました。」
ゆっくりめで、ずいぶん丁寧にしゃべる彼女。しかし噂では彼女は滅多にしゃべらないと聞いたことがあるんだけど・・・。彼女の家に行くのは私もちょっと楽しみにしているけど、よく分からないことも言ってるよ。
「どういうこと、放課後にあんたの家に、また行くのは、良いんだけど」
「ええっとですね、わたくし、とある理由でお母さんに人前でむやみにおしゃべりを、特に感情を込めて、してはいけないと言われているのですが、今朝お母さんに放課後萌ちゃんがちゃんと来てくれるか確認してもいいか尋ねましたら、萌ちゃんとおしゃべりするのは良いと言ってくれたので、もう私、萌ちゃんに会えるのが楽しみで楽しみで・・・」
そこまでしゃべって彼女は少し首をかしげる。自分で言っててよくわかってないな。しょうがないので言って上げる。
「大体わかった、けど、この状況は、良く、ないんじゃない?」
クラス中の注目を集める現状をキョロキョロして確認した後、彼女はみるみる青ざめる。
「やっぱり。どういう理由で、おしゃべりを止められてるのか知らない。けど、どうして皆がいる教室に入ってきて、話そうと思ったの。」
昨日私の考えを読んだっぽい能力とおしゃべりを禁止されてる理由は関係あるのかどうだか分からないけど、私がこうやって黙って目を見て考えを巡らせたり、ふいに今は関係ない事(畑の野菜のこととか)を頭に浮かべてみても、彼女が気づいている風ではないので、彼女がテレパスとかだったりしても常に人の頭ん中をのぞいたりしているわけではなさそうだ。
固まってるとこ悪いけど周りの雰囲気かどんどんおかしくなっていくので今のうちにもう一言。
「それに、たぶん、あなたが原因で皆が、おかしいのは、ちょっと怖い」
実際男女関係なく彼女に魅了されたみたいになった後、なぜかなんともない私が更に彼女に対して意見を言うと私には敵対的な視線や言葉が出始める。ほんとにちょっと怖いんですけど。
そして私の言葉で泣きそうになった彼女を見て、手の届く位置にいたクラスメイト達が「いい加減にしろ」だの「黙れ」だの、中には「○○○のくせに」とか○○○の中に言ってはならぬ事を入れて口走るヤツまでいる。くくっ、覚えてろよ。
しかしこれは私の能力発動必須だよね。広世さんに対しては無効化されてしまうっぽいけど周りの状況に対してはどうだろう。しかし私が決断するより広世さんが口を開く方が早かった。
「皆さん止めてくださいっ」
しかし止まらないね。命令に従わせたりできる能力ではないのだろうか。というか、彼女が泣きそうになったりしていて更に感情的になっているせいか、私までおかしくなりかけてる気がするのですが。
そして周りから責め立てられるうちに、私か言ってしまったセリフは、
「私だって、広世さんを、困らせようと思ってるわけじゃ、ない」だった。
おおおおおお・・・
なんだか恥ずかしい。けど、みんな止まってる、というかボオ~と気が抜けたようになってますね全員。そのわけははっきりしないが、この隙に広世さんはこそこそと教室を出て行こうとしている。しかしその手は私の手を握ってますよ。しょうがない、もうちょっと付き合ってあげますよ。
廊下に出てちょっと教室をうかがう。みんなはまだフリーズしてますね。始業ちょっと前だから廊下を歩いている人はいないようだ。
彼女は両手をあげて口元をかくして
「すごく迷惑をかけてしまって・・・本当にごめんなさい、でも、放課後待ってて良いですか」と言うのが聞こえた。
私が頷くのを見てから、すごく喜んで急いで去って行った。
しかし私はしっかり見ていたよ。彼女の口が開いても動いてもいなかったのを。
テレパシーとか念話とか言うやつですかね。と、いうことは、考えを読まれたと思ってたのも、口から出てない言葉を聞かれてたぐらいの事なんだろうか。
まあ、何にしても、彼女については色々ありすぎて流石に頭がパンクしそうだよ。
それにしても、神様、いくらなんでも盛りすぎですよ、あの子。
お嬢様だし、金髪超絶美少女だし、たぶん複数の能力持ちだし、すごく性格も良さそうだし、極めつけは天然ボケ子ちゃんだったって事かな。まいったねホント。
萌ちゃん何やら子どもらしくないんだかやっぱり子どもっぽいんだか分からない事を色々思ってますが、そこは知識もありちょっと大人びてはいるものの、やはり経験の少ない子どもの考えること。
今は生意気でちょっとずれてる考えの持ち主ですが悪い子じゃないんでゆるしてやってね。
今回は挿絵はないですがタイトルロゴを作ってみました。