15.なまえなまえ
そしてまた広世邸へと来ている私。
もちろん一人で来ているわけではない。広世さんも一緒だよ。
またもやお手々つないでになってしまってるのには閉口するが、もうこの子のこういう行動は諦めるしかないのか。
しかし3日連続でその初日に初めて会った相手の家に訪ねることになるなんてね。
でっかい門もバカッ広い庭も何回見てもなかなか慣れないけど、好きなんだよねこの家自体は。
っと、その前に、ここに来る前、もう一つだけ話したくはないけど、ちょっとした出来事があったから、ほんと、どうでもいいことだけど話しておこう。
保健室で広世さんの母親、静さんに放課後の予定を繰り上げてすぐに会うことは出来るか、の了解はすんなり受けられた。広世さんに昼からのサボりに付き合わせることも含めてのおうかがいなんだけど、すでに朝からゴタゴタしてしまってるから今更だよね。
保健室のお姉さん先生にあいさつをして保健室を出るときには、弘枝佳奈ちゃんと彼女の付き添いできていた先生はもういなかった。ケガをしていたわけでもないしカウンセリングにそれほど時間を要するほどでもなかったのだろう。
佳奈ちゃんがなんともないようで良かった。
休み時間に合うように保健室を出たので、すでにちらほらとこの辺りにも生徒達がいる。
今の状況であまり人の目に触れるのはイヤだけど授業中の廊下を移動するよりましだろう。
最低限の時間で学校を出てさっさと広世邸に行きたいところだけど、担任に会いに職員室には行かないといけないし、カバンを取りに教室にも行かないと。
しかしなんということだ。あの5人組の女子グループが向こうに現れた。昨日私と広世さんがどうとか田村くんがどうとか言ってきた連中。今日もめざとく私たちも見かけるとまっしぐらによってくる。
彼女らには広世さんとは偶然知り合ったばかりで全く深い仲ではないと言ったのに、私ったら昨日の今日でずっとべったりだ。きっとなにか言われるだろうと思ったんだけど、私のことはちらっと見て特に不快な表情を向けられたわけでもなく、彼女らは広世さんにあいさつをする。
まずは当たり障りのないあいさつが交わされる。ただし彼女らのそれは同級生なのに広世さんを上に見たものだ。それにしても私にからんできたときの口調とずいぶん違うね、まあいいんだけど。
そして当然広世さんは声を出さない。彼女のテレパシー自体はそれと知らなければ耳に聞こえる声と区別はできないんだけど、口パクの演技が下手くそなんだな。だから広世さんはにっこりと微笑んで軽く頭をかしげるものとなるが、それがかえってお嬢様っぽくて、事情を知ると知らないではずいぶん印象が違ってくる。ちょっとわらける。
それにしてもなんで彼女らは最初にちらっと見たっきり私には何も言ってこないんだろうか。いやまあ何も無いならすごく助かる。早く学校を出て行きたい身としてはこのままスルーしたい。
が、やっぱりそうはいかない。あいさつだけで通してくれればいいのに(もちろん私には何のあいさつもない)一つ質問をしてきた。
「それで、広世さん、よければそちらの見慣れない方をご紹介いただければ、うれしいのですけど」
「?」
「?」
広世さん、口元に袖を当てて念話とばれないようにしてしゃべる。
(「あなたは確かB組だったと記憶しているのですが・・・彼女はあなたと同じクラスの彩葉萌さんですよ?」)
五人組も全員きょとんとしているが、私も一瞬何が起きてるのか理解できない。
はっとして自分の頭をまさぐる。
ああ、支援学級の前でのゴタゴタの後、保健室に連行される前にちょっと気持ちをリセットしようと思って顔と頭を水でバシャバシャと洗って適当に拭いたままだったのを忘れてたのだ。
いつもは私の必要以上にぷっくりとしたほっぺたが目立たないようにサイドにボリュームを持たせつつオシャレな感じにはならないように、ありていに言えば目立たないようにしてるつもり。
全くかわいくないのは私だって嫌だけど、敢えてちょっとダサめになってる、はず。
しかるに今私の頭はぐしゃぐしゃのぺったんこでメガネもかけてない。
親しく付き合いのある者などいないから顔をよく覚えている相手などいない私が、こんな状態では誰だか分からなくてもしかたが無いと、そんな感じなのかな。
私を見慣れないといったこいつも私の顔なんかまともに覚えちゃいないんだろう。それはそれで良いんだけど、前にからんできたときといいまあ大した行動力ですね。
しかし前に広世さんとはなんの関係も無いと言った手前このまま対峙していてはちょっとめんどくさいことになるぞ。
「そういうことなんで、さいならっ」
私は広世さんの手を取って走る。
やった。今回はエスケープ成功だ。
その原因が私の顔面のことなのはしっくりこないが、マヒ状態の敵パーティーは振り切った。
だって目の前に職員室のドアがあるもんね。ヤツらも媚びを売りたい広世さんが一緒にいるし職員室の中まで追ってきてまで私なんかにかまったりしないでしょ。
実際「待ちなさい」の一言も聞こえてこない。
早引けの許可は保健室のお姉さん先生にもらってるのでさっさと報告して学校を出たい。
しかしここでもちょっと時間をとられちゃう。
なんとクラス担任の先生までも私のことが分からなかったのだ。すぐに気付いてくれたけど。
あんまりでないですか、泣いちゃうよ。
うそ。そんなに気にならないよ。ホントだからね。
それにしても、なんだろう、会ってから大して間もない広世さんもほんの数分しか顔を合わせてないしかも人外の自称龍神のヤツらも、まるで気にした感じはなかったよね。
それもあって自分のことなのに気がついてなかったんだけど・・・
ともかく教室に行って私物を持って学校を出るんだ。
丁度次の授業の担当がクラス担任だったんで、先生と共に教室に行くことになる。
職員室を出ると、五人組がまだ職員室の前にいてこっちを見てたんだけど、微妙な感じのままゾロゾロと教室まで行くことになってしまった。
あんたの教室はずっとむこうでしょうが。手え放してさっさと自分の教室に行って帰宅の準備をして下さいっての。
またもやいっぺん手を握ったら放さない広世ぷらむの手を振りほどき自分の机にむかう。
先生も一緒に教室に入ってきてはいるが、次の時限の開始までまだちょっとだけ時間がある。
五人組は先生もいるからか、頭の整理がつかないのかなんなのか、今は寄ってこない。
ほかに私が帰宅の準備をしていても気にする者はほとんどいないが、ちょっとだけ気になる風な視線を感じる。それはこの席の主つまり私と今の私の見た目にとまどっているか、誰だあいつってなってるか、そんなところだろう。
しかしそんな中、一人近寄って来るのがいた。
イヤ正確には二人連れだけど、片方は私を見て他のクラスメイト達と変わらない反応。
「すまない、先輩に代わって謝らせてくれ」
いきなりそう言い、頭を下げられる。
それはあの悪口言いのおせっかいヤロウ、田村。もう片方のいつもつるんでる男子の名前は知らないけど、田村の私へのセリフで私に気付いて少しきょどっとる。
まあそれはもうどうでもいいんだけど。
確かにあの先輩にははっきりと嫌な印象しかない。だからって彼がわざわざ私に謝ったりするのはちょっと違う気がする。
が、メガネがなく広世さんも隣にいない今、ちょー気をつけてないとムダに私の能力様が働いてしまう。
それに、あのクソ先輩にはからまれはしたけど、とくに被害を受けたわけでもない。あの騒動のあと保健室のお世話になり早退までする結果になったのはだいたい私自身の言ってしまえば自業自得なんだよね。
ところがそれを見て心配してくれてるわけで、実際今もそんな感じで声をかけ続けてくれてる彼と対峙してると、ただおなかが空き過ぎだっただけなのと自分の都合だけで早退しようとしてるんだから、かなりバツが悪い。
したがって、速やかにこの場を立ち去りたい。
だいたいなんだ、悪口言ったりからんできたりしたかと思えば、普段と違う私をきちんと分かってて気遣ったりしたり。
イヤもともと急いでんだし。そもそも私が、ホットイテ体質、なのを分かっているのか。
何て言葉を返したら良いのかも分からないし、ここで能力様に頼るのもなんか嫌だ。
と言うか今の状態ではうっかり発動させるとやばい。
ちょっとだけ彼への心証を修正しないとだけど、今は帰らせてくれ。
だから彼にだけ聞こえるように言う。
「心配、してくれて、その・・・・・・ありがとね。・・・早退するけどホントはなんともないんだ、じゃあね」
もちろん目なんて合わせない。そして返事なんかあると面倒でしかないので外へ急いで逃げる。
ああ、なんだか変な感じだった。
そして広世邸。
まだ今日という日は長い。
はっぴばーすでーとぅーみー
うへえ、書き始めてから一年経っちまったよう




