1.さんぽに行こう
主人公の名前「萌」は、だいぶん昔(たぶん30年ほど前)に付けたもので、
オタク文化のいわゆる“萌え”が一般に発生するまえだったと思う。
名前を変えようかとも思ったのですが・・・
私はキャラクターを作って次に世界設定をしたりする、までが趣味でして、
つまりキャラクター(愛する我が子たち)が一番大事なのですね。
まあ、作品を今まで完成させたことが無く、この作品においても長年放置されてたわけですが…
てふてふてふてふてふてふてふ・・・
学校が終わり、いちおう家に帰っておばあちゃんにただいまを言うと、
いつものようにすぐに出かける。
てふてふ・・・
足音だよ?特徴的なそれだとはよく言われるし、まあそうなのかも知れない。
コロコロ・・・
あめ玉を転がしつつ、てふてふ・・・コロコロ・・・
私は一人散歩が何より大好きだ。13才の女の子がそんなことを言うとおかしいですか?
けどね、私の並外れている(らしい)知識欲をこれほど手軽に満たしてくれることは他にあまりない。
部屋にこもってネットをうろつくのも悪くないけど、例え同じ道を歩いても毎日発見があるし、歩きながら思索にふけるのも心地よい。それにおばあちゃん家に引っ越してきてまだ一年経ってない。どこを歩いても楽しみいっぱいだ。
・・・やっぱり枯れ老人ぽい?
でもそれは趣味の話だ。ピチピチの乙女である私。男子に容姿についてからかわれたりした日にゃ大変腹が立つし(相手にはしないけどね)。
うざい人付き合いからは積極的に逃げる。面と向かって人と接するなんて気の置けない一握りの友人とのおしゃべりだけで十分だ。
決して枯れてなんかいない。子どもらしさが足りないのはちゃんと理由があるのだ。
うあ、しかし、これはバッドフラグ立ったんじゃ。
と思う間もなく同級生の男子が目の前の窓から顔を出す。
「おいっ、用も無いのにうろうろしたらいけないんだぞっ」
名前も覚えてないウザダンシだ。無視して歩いていると言ってはいけないことを口にする。
「聞こえないのかよ、このチビデブメガネブス」
あ、あ、あっったまくるー
た、し、か、に、私の身長は平均女子よりちょびっっっとだけ低く、キュートにぽっちゃりで、メガネもかけている。
だからってなんでクソダンシどもは平気でこんな罵詈雑言をはけるのか理解できない。
自分で言うのもあれだけど私の心はそんなに広くない。無視して逃げるのもしゃくなので、ちょっと周りを観察するとその家から女性が出てくるところだった。このクソダンシの母親だ。
「おばさん、私ひどいこと言われたんだけど」
それまでも何やら要らぬことをくちばしり続けていたクソダンシの声は母親にも聞こえていたので、私のセリフは“神の一手”になるはず。結果はもう決まっている。こってりしぼられればよい、ひひひひひ。
これ以上散歩のジャマをされたくない。走ってその場を離れる。
メガネをかけたままでも、こんなもんだ。
未来は誰にも自由にならない。
どんなに適切な行動をしても、ちょっとしたことで結果は大きく変わり、思ったようにはならない。
普通はね。
数十万人に一人とも言われる、俗に特殊能力者とかエスパーとか呼ばれる“変質能力保持者”その一人が私。四肢か内臓あるいは脳でも、どこかしらの生まれつきの欠損を補う(それとも奪う)ように常識ではあり得ない特質を持って生まれるゆえに変質能力と呼ばれるのね。
私は私の能力を“超洞察力”と勝手に呼んでいる。
「一を聞いて十を知る」という言葉がある。すごい聡明な人を指す表現だけど、
私の場合、一を聞いて十一とか一二まで知るって感じ。つまり、その場で見聞きしたことからは知り得ないことまで瞬時に理解し、自分が求める最適な答えや行動を即座に得ることが出来るといったものね。
だから超洞察力。そして得られる情報や結果を“天の答え”とか“神の一手”って呼んでるよ。別に神様とか信じてるわけではないけど(否定したいわけでも無い)、まだほとんど何も解っていない“変質能力”という不可解な現象を、それを知る人たちは冗談交じりに神かナニカのいたずらだと言ってるらしいので私も倣ってみただけ。
つまり、さっきの場合、私がどうすればあのクソダンシを黙らせるか、その結果を得るための最適回答を、あのクソダンシも母親のこともよく知らないのに得ることができたりする。それは、その時私の視界に入ってないことの影響も含めての回答だから、望む結果が外れたことはない(同じ様な能力で抵抗されたらどうなるかわからないがそんなのに遭ったことはない)。
未来予知とはちょっと違うけど、大変便利という以上のすごい能力なんだ。
なんだ、けど・・・すごくお腹がすくんだよね・・・コロコロ・・・
まあ、自分の知識に根っこもないことを得たり、まだ理解できないことが解ったりすることはないんだけどね。
私はもうよく覚えていないような幼いときから、誰よりも賢しかったように思う。よく天才だの何だのともてはやされたようだ。
そしてはっきり物心がつく頃には自分に皆には無い力があることに気づき始める。しっかり能力を意識しないと完全には発動しない力だから、周りからは少々頭のよい子みたいな感じで、誰にも気づかれてはいないはずだけど、むしろこの能力のおかげで普通を演じてこられたのだと思う。
そう、私はこの力を誰にも知られたくない。
幸い、手に入れた能力は、どうすれば思うようになるかを知るには最適の力だったし、私利私欲のために使ったりしたあげく、目立ったりするのは最も避けたいことだった。
しかし困ったことも多少あって、ひとつは年齢とともに力も強くなり、その使用後の疲れ方がヒドくなってきたことだ。RPG風に言うと強大なスキルを使うためのSPだかMPだかが足りない感じだ。
意識しないと発動しないとはいえ、実は欲しい結果を得るために必要なエネルギー?の量がやってみるまで判らないのだ。うっかりぶっ倒れたり意識不明とかになったら大変面倒なことになるに違いないよね。
それにさっきも言ったけど、それほどでなくても、すごくお腹が減るのよ。しょっちゅうお腹をグーグー鳴らしてるなんて乙女としては耐えがたい。
だから私はこの力を抑える方法を探すことにする。
視覚をトリガーに発動する能力は前例があって、そういった能力は特殊なメガネで抑えられるということだった。そこまでは調べればすぐに解ったのだけど、お役所に届け出て正式に援助を受ければもらえるアイテムだがそうゆうワケにはいかない。
しかたがないので我ながら苦労をして今着けているメガネを手に入れたのだ。まず視力検査で偽って普通のメガネとメガネをかける理由を手に入れた。眼科医での検査があんなに細かくややこしいのを知らなかったから焦ったけど、能力でナントカなったよ。お腹が減って倒れそうになったけど・・・。
肝心のレンズは意外なほど簡単な材料と作り方でできていた。私の知らない材料や特殊で専門的な作り方だと私の能力で調べることができないから詰んでたかな?
とにかくこれで能力を隠しつつ静かに暮らすすべを手に入れられた。と、思う。
しかしある程度力を抑えても、しょっちゅうお腹がすいちゃうのには変わりがなかった。とくに甘いものが欲しくなるね。私のぽっちゃりとそばかすは甘いのを食べずにいられない能力をくれた何かのセイだ。キットソウニチガイナイ・・・。
それにしてもさっきは何で馬鹿男子に見つかるへまをしてしまったのかなぁ。快適なお散歩コースを間違えるはずは無いんだけど・・・
ちょっと喉が渇いたかな。今日は冷たい緑茶を持ってきました。テーブルの上の急須に残ってたやつだからちょっと出過ぎてて渋い。
コクコク・・・てふてふ・・・ガサガサ・コロン・コロコロ・・・
ええと、ここは、この長ぁい生け垣と庭木にかこわれて奥にあるはずの家というかお屋敷(のはず)も見えない巨大な敷地が私の視界に広がって見える。
ここは確かクラスは違うけどやっぱり同級生そして校内随一の有名人“天然金髪美少女”の広世さん宅ではないか。
なんか、めずらしく昔のことなんか思い出してたらあんまり通らない道に来てしまったみたいだ。
でも、広世ぷらむ、彼女のことは少し興味がある。名前が・・・だめだめ!それを言ったら完全に私に跳ね返ってくる気がするよ。
ええっと、もとい!彼女自身も彼女の周りも好奇心をくすぐる宝庫だ。私は人付き合いははっきり嫌いだけど、べつに人間嫌いでも他人に興味がないわけでもない。積極的に個人情報を探ったりはしないけど、ここに足が向いたのは神様の導きだよね。
あ、広世さん帰宅、じゃすとなう。
・・・・・・
てふてふて、てってっ、てててててて・・・
緊急事態発生!緊急じたい、はっせえぇぇぇ!!
「すみませんっ、用海中学校、ど、同級生の彩葉ですっ、お、おトイレ貸してっ!」
(ああああああああああああああああああああああー)
主人公達の通う学校の名は、作者が昔転校するまで三年だけいた小学校の名前だけをもらいました(無許可)。
物語の舞台・主人公たちが暮らす土地のイメージとは全く関係がありませんし、用海中学校は存在しません。
この主人公の女の子は、今回の作品を書き始める前までは一人のサブキャラでした。
この子を中心に描くことを思いついたために、ちょっとずつ物語を綴ることにしました。
お仕事が自営業な上、子どもが大きいのから小さいのまでいて大変です。
なので、続きを期待する人がそんなに居るとは思いませんが、気長にお待ちください。
・・・人は何故、忙しいときに限って更に何かをやろうとするんでしょうね?
挿絵。今回は、むか~しに描いた設定画をそのままのっけました。