【Miami the Caribbean and Natow in swimwear.(マイアミとカリブ海と水着のナトー】
次の日、目が覚めて驚いた。
なんと俺はトーニの頭を胸に抱いて寝ていて、トーニは俺の胸に顔を埋めながら片方の手を俺の胸の曲線に合わせるように宛がっていた。
襲ってもいいと、昨夜行ったが、まさか本当に襲われたのか?
一瞬焦ってボディーチェックをしてクンクン匂いを嗅いでみたが、何ともなさそうだった。
“コイツ、俺を焦らせやがって”
それにしても可愛い寝顔をしている。
幸せそうで、まるで子供みたい。
それに寝ているくせに、胸に当てた手が時々モミモミしてきて、俺をドキドキさせる。
もし服を脱いだら、赤ちゃんみたいにチュウチュウして来るかも知れない。
特にイヤらしいとも感じず、恥ずかしくもなく普通にそう考えていた。
普通。
目の前にオッパイがあれば、哺乳類の赤ちゃんであれば誰だって普通にする行為。
俺だって屹度そうしていた。
赤ちゃんの本能。
トーニの、まるで赤ちゃんの様に安心した寝顔を見せられると、母性が刺激されて胸がキュンキュンなる。
“仕方ない、しばらくこのまま眠らせておいてあげよう”
「あー朝から、好いお天気……」
暫く青い空を見ていたが、トーニが目を覚ます前に顔を洗って何か腹を満たすものを用意してあげたい。
本人は気付いていないかもしれないが、トーニは丸2日何も食べていないはず。
まだ寝ているその可愛い唇にキスして、麻畑を抜けて森に入った。
森に入ってすぐに面白いものを見つけた。
それは木になるトマト。
トマテ・デ・アルボール(tomate de árbol)だ。
はじめはナツメの仲間かと思ったが、食べてみるとなんとなく甘味の強いトマトの味。
ほかにもオレンジの様なものも見つけたが、皮を割ると中から蛙の卵の様なものが出て来た。食べると甘い。なるほど、これがグラナディージャ(granadilla)か。
沢山採れたのでブラウスの裾を広げて、そこに収穫したフルーツを乗せて戻ると丁度トーニが俺の気配に気が付いて起きたところで、抱えたフルーツを見て「Bellissima!!(超奇麗!)」と声を上げた。
お腹が減り過ぎたところに大量の果物がやって来たものだから、超ハイになっているのかと思ったが、そのあとに「カメラがありゃあなあ……」と残念がっていたので「ありがとう」と返す。
食事を終えた頃、上空にヘリが飛んできた。
コロンビア軍のUH-60。
レイラが衛星で探し出してくれたに違いない。
ヘリからは、サオリをはじめコロンビアに派遣されたLéMATの仲間たちが1人も欠けずに元気な姿で出て来た。
勿論、その中にはニルスもいた。
「爆発音がしたから心配していたが、大丈夫だったのか?」
「ああ、車はミサイル攻撃を受けて爆発したけれど、丁度車から無線機を取り出して森に設置していたところだったから難を逃れた」
「どうして無線機を外した?」
「敵に裏を取られまくっていたから、一応関係者の中に裏切り者が居ると想定した場合、ジャングルに駐車しているこの高級車は格好の的だからね」
「さすがだな」
俺が褒めて、ニルスが照れ臭そうに笑っているところへサオリが割って入る。
「ところが、全然“さすが”じゃないのよ。この人ったら無線機の設営場所とアンテナの設置に夢中で、肝心のバッテリーを車に残したままだったの。おかげで音信不通!もう死んじゃったと皆思っていたのよ」
「しょうがないだろう。設置を終えてから取りに行こうとした所にヘリが来たんだから」
「お、俺の荷物は!?」
話を聞いていたトーニが慌てて荷物の事を気にした。
「全員の荷物も無事だよ。写真もね」
「ふえ~助かった……オ、オメー荷物の中身を見たのか!!?」
「見ていないよ」
「じ、じゃあなんで!?」
「カマを掛けてみただけ」
「おいおい、戦地にエッチな写真ご持参かあ?」
モンタナの言葉にみんなが笑った。
「そんなんじゃねえ」と、トーニが小さくつぶやくのが微かに聞こえた。
一旦ボコタに戻り大使館に出向くと、大使をはじめ駐在武官などの偉いさんが血相を変えて飛んできた。
やはり専門調査員のダニエルによって、情報は操作されていたのだ。
出発の日には、空港まで車いすに乗ったクラウチ社長とマルタが見送りに来てくれた。
帰りは全員揃ってマイアミ経由。
「トーニ、夢が叶うな」
ブラームに声を掛けられたトーニが「冗談だって!真に受けんなよな!」と怒るが、それを聞いて一同が大声で笑う。
“あれっ、でも声のトーンがいつもより少し小さい”
そう思って辺りを見渡すと、その輪の中にモンタナが居なかった。
モンタナは柱の向こうで、マルタと話をしている。
“いつの間に……?”
コロンビアのエルドラド空港を飛び立ち、マイアミに付く。
今夜はここで一泊して、明日の午後の便でパリに戻る。
「さあ!カリブの海が俺を待っているぜ!」
「トーニさん、今度は泳ぐんですか?」
「ったりめーだろうが!任務を終えたらストレスを発散するために青空の下で泳ぐ!これは勝利の鉄則だ!」
「勝利の鉄則?」
「おい、ナトー行くぞ!」
「ナトーさんは、いませんよ」
「いない?……どこ行った?」
「いつも通り、どこかの資料室か、図書館じゃないのか」
通りかかったニルスが、ナトーが外出したことを告げ、その後にハバロフが何かを言いかけたが、今度はマーベリックがハバロフの口を押えてビーチに連れて行った。
「まあまあ、軍曹はいつもの事だ、さあトーニ行こうぜ!」
浮き輪を抱えたモンタナが陽気にトーニの肩を叩く。
「痛ぇなぁ……」
「すまん、そんなに痛かったか?」
「いや、急に腹が痛くなってきた。しばらく部屋で横になる」
「馬糞食ったからな」
「食ってねえよ」
「まあ、お大事に」
「おう、楽しんできな!」
部屋に戻るため歩き出したトーニが、前から来た誰かとぶつかりそうになって避けようとして止まる。
「部屋に戻るのか?」
「ああ、腹が……」
声を掛けられて振り返ったトーニが、口を開いたまま言葉を止める。
そこには、今までテレビや雑誌でも見たことがないくらいセクシーな水着美女が居た。
「いよう軍曹!見間違えましたぜ!!」
「軍曹、凄い!」
「スッ、スマン。やはり、規律違反になるか?」
ナトーの姿に、ロビーに居た他の人たちも動きを止めて振り返っていた。
「とんでもねえ。部隊じゃ女扱いしちゃあならねえ掟はあるが、泳ぐと言う自由を奪う権利迄はねえ!」
「それに、公共のビーチで泳ぐのに海パン一丁じゃ、いくらLéMATの隊員だからと言っても、犯罪になるでしょう?」
「ああ。ワンピース型やセパレート型の水着も、大昔は男の水着として使われていたのだから特に問題ないだろうさ」
「似合う似合わないは、人それぞれ」
みんなが口々に肯定的な意見を言ってくれる。
「に、似合わないか……?」
「Ça te va trop!!!!!(似合いすぎ!)※フランス語」
「さあビーチへ行こうぜ!」
一行がビーチに向かって動き出す。
立ち止まったままのトーニを残して。
「さあ、トーニも一緒に行きましょう」
「お、俺は……」
皆の前で腹が痛いと言った手前、少し怖気づいているトーニの耳元で囁いて手を取った。
「Ero di moda per Toni(トーニの為にお洒落してきたのよ)※イタリア語」
「ナトー行くぜ!!」
話し終えた途端、トーニが凄い勢いで俺の手を引いてビーチに向かって駆けだした。
「待って、トーニ」
「Do your Be~st!!」
青い海に白い砂浜。
空には青い空と白い雲が、俺達を迎えてくれた。
そして音楽は、活気のみなぎる歓声と、打ち寄せては返すさざ波の音。
平和……。
【THE END】




