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【Sleep in a white hemp field②(白い麻畑に眠る)】

 ワニに取り囲まれている中で、ピパが業を煮やしてボートのエンジンを全開にした。

 慌てて部下の数人が、走り出すボートにしがみつく。

 だが、それはしてはいけない行動。

 抵抗し続ける限り、ワニも躊躇ちゅうちょして止まっているが、逃げようとして背中を向けると食いついて来る。

 俺の側に居た敵のうち、1人は胴体に食いつかれてボートから落ちてしまったが、もう1人の方は噛まれる直前にワニの脳天に弾を打ち込んでやったので無事にボートに乗る事が出来た。

 トーニの側は1人が膝から下を食いちぎられた状態でボートの中に転げ込み、もう1人は逃げ遅れてワニたちのド真ん中に取り残されていた。

 男は暫く狂ったように銃を撃っていたが、それも直ぐに弾切れになってしまった。

 トーニが必死に助けようと、ワニに向かって銃を撃つが、重なり合う様に密集したワニたちには効果は薄い。

 弾が切れて呆然と立ち尽くしている男が、急に振り向いて目と目が合う。

 助けを求め、怯え切った眼差し。

 残念だが、俺に出来る事は一つしかない。

 それは苦しみから解放してやること。

 パーン。

 ジャングルに最後の銃声が響く。

 額に銃弾が撃ち込まれる直前、男が俺の目を見て笑った。

 その笑顔は、まるで迷子になった子供が母親の姿を見つけた時の様に、ホッとした無邪気な笑顔だった。

「撃ち方ヤメ!」

 まだワニを撃っていたトーニに合図する。

 生きている人間が居なくなった以上、もうワニを殺す理由は無い。

 それでも人間を襲ったワニを憎む気持ちは理解できるが、ワニにしてみればエサにありついただけの事。

 それが肉食獣の生きて行くための本来の行為で、誰に怨まれたり文句を言われたりする筋合いはない。

「ボートを追え!」

 川の曲がり具合から、トーニの方が俺よりボートに近い。

 おそらく俺の方は、どこかでこのワニがうようよ居る川を渡らなければならないかも知れない。

 トーニはスッと姿を消すように、迅速に行動に移った。

 俺も負けてはいられない。

 なにせトーニは、もう丸一日以上寝ないで戦っているのだから。


 激しい銃声と、人の悲鳴、それと川の水をひっくり返すような水しぶきの音が響く。

 ナトーさんに残っていろと言われた私の位置からは、そこでどんな事が起こっているのかは見る事は出来ないけれど、天国と真反対の事が起きていることだけは分る。

 ざわつく心を落ち着かせるために、目をつむり深呼吸してから、言われた通りゆっくりと10数え始める。

 途中からボートのエンジンがかかり走り出すが、焦る心を抑えてそのまま数えていると、パパの囁く声が聞こえた気がした。

 目を閉じた瞼に映るのは、天空を流れる川の傍でパパと抱き合う私。

 目を開けると森に重なり合う木々の向こうに微かな光を感じた。

 “こっちだ!”

 銃声のする方向からは90度以上も角度がずれているが、私には感じる。

 何だか分からないが、何かが確かに私を導こうとしている気がした。

 これは屹度、ナトーさんの言う“私しか感じる事の出来ないモノ”

 私は迷わず、感じた方へ向かって馬を走らせた。


 ボートを追って走る。

 ボートを追っているのは俺達だけではない。

 ワニもそうだが、何だか川の水もざわついている。

 ピラニアだ。

 あの膝から下の足を食いちぎられた男をボートに乗せてしまったから、そいつの流す血の匂いがワニやピラニアを呼び寄せている。

 いや、呼び寄せているのはそれだけでは無いかも知れない。

 あの男をボートに乗せてしまったのは俺のミス。

 気付いた時には、男の重心がボートのふちを越えていた。

 38口径クラスの拳銃なら、それでも何とか川に落とせたのだが今持っている22口径のワルサーでは、相手を殺すことは出来ても重心を変えさせるほどの衝撃は与える事が出来ない。

 案の定ボートは俺から遠ざかる方向に曲がった。

 陸上に居るワニは、概ねこっちが不用意に近づかない限り問題はない。

 もし追いかけてきても、走って逃げきる事が出来る。

 種類によっては人間よりはるかに速く走るものもいるが、たいして持久力がないうえに方向転換が苦手なので追いつかれそうになったときはジグザクに方向を変えて逃げればいい。。

 ところが水の中となると話は違う。

 水の中では人間が陸上で走るほどのスピードで動けるばかりか、方向転換も自由自在で持久力もあり、いったん噛みつかれるとデスロールと言って水中で回転して噛みついた部位を引き千切る必殺技を仕掛けて来る。

 今も川の中には何匹ものワニが、血の匂いを垂らしながら逃げるボートを追い駆けている。

 ボートが向こうに曲がった以上、追いかけるためには川を渡るしかない。

 準備も用心に掛ける時間もない。

 俺は走りながら川幅の狭まった個所を見つけて、勢いよくジャンプした。

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