【Decisive battle②(決戦)】
案の定、屋敷の中から地下室を攻撃するために3人が階段の所まで来た。
早く撃ち過ぎると周囲に居る敵に位置がバレてしまい、俺が挟み撃ちに会ってしまう。
かといって遅すぎて階段で人が重なってしまうと22口径の場合、弾が1人目を貫通したとしてもその奥の奴に殺傷力のある怪我を負わせることは出来ない。
だから1人1人順番に階段を降りる位置まで来た時に撃つしかない。
幸いな事に、トーニから渡されたワルサーP-22にはサプレッサーが装着されているから、他の奴等に気付かれる可能性は薄い。
1人目が階段に一歩足を降ろすタイミングで膝関節を狙って撃つ。
直ぐに2人目が重なり、そいつにも同じ個所に銃弾を撃ち込む。
3人目は勘の良いヤツで、1人目が階段を踏み外した音に気が付いて“何かおかしい”と感じたらしく振り返り、俺と目が合い銃を向けようとしてきた。
だがもう遅い。
振り向く動作の途中で、もう俺のP-22から放たれた弾はお前の軸足に命中している。
男は、回転の途中で膝を折り、先に転げ落ちて行った2人を追うように、階段に呑み込まれて行った。
「うひょ~、こりゃあ癖になるぜ!」
射程は短いが戦場は外とは言え邸宅の敷地内。
まして散弾だから当てずっぽうに撃っても、結構当たる。
喜んでいると、バイクと馬の蹄の音が近づいて来て、振り向くと馬に乗ったモンタナとバイクに乗ったキースが器用に銃を撃っていた。
「ようカーボーイ!」
モンタナに声を掛けると、ナカナカ面白い玩具を持っているなと茶化された。
そして奴は自動小銃の弾が切れたらしく、腰から拳銃を抜くと階段の上に居る敵目掛けて馬ごと突っ込んで行く。
「キース、負けちゃいられねえぞ」
「分かっています」
奴もアクセルを開け続いて行った。
「トーニ君、大丈夫だった!?」
馬から降りて来たサオリが俺の所まで走り寄って来て、直ぐに離れて行く。
「おいっ、どうしたサオリ。俺はここだぜ!」
「知っているけどアンタ臭すぎ。私に近付かないで!」
「よお、色男も台無しだな」
キャスが馬上から顔を覗かせて揶揄って行く。
俺だって充分臭えのは知っているし、俺自身がその臭いの源に一番近い位置に居るのだから、もう鼻が壊れそうなくらい嫌な思いもしている。
だけど、そんな事でへこたれているとナトーは守れねえ。
今まで左程気にしていなかった事が、仲間の到着で気が緩んだのか凄く気になって来た。
「トーニ、軍曹は!?」
そんな中、ブラームが俺の所に駆け寄って来た。
「ピパとダニエルを捕えるために、中に入った」
「少尉!俺はここから中に入ります」
「よし、2人でナトーの援護をしろ」
「了解!」
ブラームは狭い穴から入って来ると「さあ行くぞ!」と言ったが、俺の傍に居ながら“臭い”とはまだ一言も言っていない。
“コイツ鼻が壊れているのか?”
外で派手なドンパチが始まった。
マーベリックたちが来たのだ。
これでもうトーニの心配は要らない。
今頃は良く気の利くブラームが、既にトーニの援護をするために地下牢の中に入って来る頃だろう。
俺は見を隠していた場所からホールに飛び出し、一気に2階へ続く階段を駆け上がる。
我ながら大胆だとは思った。
普通なら、物陰に潜んだまま危険度の高い敵を仕留めて、安全を確保した後にホールに出るのが定石。
しかし時に型破りな行動が効果を示すこともある。
特に今奴等は敵が外から来るものだと思い、そのうえで行動をしている。
指示があって地下牢のほうにも3人移動させた。
この3人が倒されたとしても、建物内部に入って来る敵は必ず自分たちを撃って来るものだと思っている。
つまり内側からの銃声が侵入者の合図。
誰かが撃たれると言う覚悟の上で、外に居るマーベリックたちと闘っているから、ただ飛び出して来た俺については視界の中には入っているだろうが認識されていない。
車の運転中にイチイチ飛んでいる鳥に注意が行かないように、自信の身を脅かす存在でない以上、動いていても認識されない。
これは自身の命を奪う可能性の高い敵が目の前にいて、それに集中し過ぎているときに起こりがちな現象。
1点に集中し過ぎると、周りに注意が働かなくなる。
この様な事が起こるため、軍隊では常に一点に集中せず視野を広く持つ訓練をしているのだ。
無事に2階の階段まで上がり終えると、廊下の奥から走って来た男に声を掛けられた。
「馬とバイクに乗ったヤローが、テラスに上がった。ついて来い!」
男はは混乱して、外に居るものが敵で、中に居るものは味方という簡単な判断しかできなくなっている様子だ。
「地下牢に居た敵1人を捕まえたので、ピパ様に報告したいがまだ部屋に居るか!?」
「ピパ様はさっき2階の裏口から駐機場に降りたところだ」
「クラウチ社長も一緒か!?」
「クラウチは、その向こうの納屋だから一緒かどうかは知らない……さては、お前!!」
「御名答」
男は銃を向ける前に、俺の蹴りを食らって倒れた。




