【Connections③(繋がり)】
しばらく途絶えていたレイラからの連絡が入った。
「レイラ、どう?」
「もう、イタチごっこよ。繋がっては切られての繰り返し」
「で、ナトちゃんたちの居場所には、どう行けば良い?」
「残念だけど、敵のアジトへは車やオートバイで気軽に行けるような道は繋がっていないわ」
「道がない!?」
「そう。余程用心深い奴なのね。その付近で一番近い道が、いまサオリさんが居る所なの。直線距離にして10㎞弱と言う所だけど、起伏があるから徒歩で6時間ほど掛かるわよ」
「6時間も!?」
「普通の人なら……サオリさんでも5時間は優に掛かると思うわ」
成る程、だからキャスは飛び出して行ったのだ。
「私も行く!」
「えっ!?」
レイラとの連絡が終わって、私は準備に取り掛かった。
「でも、さっきのレイラさんの話では、5時間は掛かるって言っていたじゃないですか。今から5時掛けて着いたら、もう夕方ですよ」
「夜を跨ぐよりましでしょ」
「じゃあ僕も、いいえ貴方は司令部としてここに居なさい。レイラからの連絡が受けられるのは、この車に着けてある無線機を介さないと無理だから離れないで頂戴」
「なるほど、そういう仕組みだったんだ」
「その代り、ドローンを借りるわよ」
「ドローンを……荷物になるでしょう」
「荷物になるかどうかは、使い方次第よ」
サオリはドローンから輸送用のラックを取り外して、そのスペースにロープを通し、そのロープを自分の体に巻き付けた。
「そのドローンで飛んで行くつもり??」
ニルスが驚いて止める。
「まさか、だって最大搭載量は15㎏でしょ。いくら私が小柄だからって15㎏以上は軽くあるわ」
「じゃあ……」
「そうね。扇風機代わりに使わせてもらうわ」
キャスは森の中に入ったが、サオリは川沿いを進んだ。
森の中を進めばドローンは邪魔になるだけ。
でも川沿いなら、上が開けているから使える。
試すのは初めてだけど15㎏の物を引き上げる能力があるのなら、今の私の体重は30㎏を下回るはずだからその分体力に余裕が出来るはずだし、強く蹴り出さなくてもドローンが引っ張って行ってくれるはず。
「な~んか、僕だけ、置いてけぼり」
「まあそう腐らないの。だって司令部でしょ」
「そりゃあそうだろうけど……」
車のシートを倒して天井を見上げるニルス。
「留守番かぁ」
ダニエルの携帯が鳴る。
「どうした?衛星を乗っ取っている奴のアジトが掴めたのか」
『いえ、そちらの方はまだですが、受けている側の位置は掴めました』
「どこだ」
『そこから10㎞ほど離れた路肩に駐車中です』
「でかした。直ぐに陸軍のセテ大佐に伝えてくれ。“麻薬密売組織の武器輸送車が受け渡しのために、その位置で待機している”と」
『承知しました』
「ところで、これからどうするつもりだ?」
「先ず、クラウチ社長を引き渡してもらいたい」
「嫌だ、金が先だ」
「ピパ。何度も言うが、金はいずれ欲しいだけやる。予定通りマルタが来たんだ、社長を解放しないと話が先に進まないじゃないか」
「裏切られるのは御免だ」
「まったく……生きているんだろうな」
「ああ、生きている」
「いいか、クラウチ社長にもマルタやナトーに危害を加えるんじゃないぞ。金の事は何とかしてやるから明後日迄には解放する準備をしておけ」
「金は倍払ってもらうぜ」
「何故!?」
「しらばっくれるんじゃねえ。テメーのお目当てのナトーまで生け捕りにしてやったんだ。手柄だけ自分の物にしようたってそうはいかねえ」
「わかった。考えておく。しかしナトーを甘く見るな、奴は手強いぞ」
「地下牢に入れてあるんだ、逃げられっこねえ。それよりも戻って金の工面でもしな」
「……」
ダニエルは今更になって組む人間を間違えたと気付いたが、それも明後日迄の辛抱だと思った。
金を用意してクラウチ社長を解放した後は、こちらで交渉すればいいだけの事。
手順が少し狂ったに過ぎない。
金については、奴が動かす前に警察や軍に動いて貰えば無傷で戻って来る。
“おとなしく言う通りにしていていれば良い物を、欲を出すから罰が当たる”
『こちらヘリ375号機、指示された地点に目標の黒い車を確認。予定通り攻撃しますか?』
『こちら航空司令部、攻撃を許可する』
『了解。これよりヘリ375号機は目標の黒い車を撃破します』
コロンビア陸軍のUH-60が上空からミサイルを発射すると、路肩に停めてあった車は一瞬にして激しい炎に包まれた。




