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【Connections②(繋がり)】

「うへっ♡」

 ニルスから送られてきたライフルにスコープを付けて覗いていると、地下室らしき小さな窓からナトーの顔が現れ、いきなりウィンクと小さな投げキッスをされた。

「アイツ、見えてんのか??」

 ここから屋敷までの距離は約500m。

 しかも、ここは暗い森の中。

 おまけに、俺は茂みの中に隠れてスコープだけを出して見ていると言うのに……。

「愛だけが、なせる業なのか!?」

「えっ!何ですか?」

 思いもかけない背後からの声に驚いて飛び上がってしまい、振り向くとそこにはキースが居た。

「お前!いつの間に!?」

「今来たところです」

 少しホッとする。

「いつから俺を追っていた」

「昼からです」

「昼からぁ~!?俺が半日かけて歩いて来た道を、僅か2時間足らずで追いついたって訳か?」

 トーニは情けなくて頭を抱えた。

 いくらキースが元プロライダーで体力があるからと言っても、いくら俺がナトーを追ってペースを合わせたと言っても、どう頑張ったってそんな体力なんてありゃしない。

 なにが“ベストを尽くせ!”だよ。

 自分に言い聞かせていたことは、ただの自己満足にすぎなかったのか……。

 激しく落ち込んだトーニの様子を察してキースが付け加えた。

「嫌だなぁ、バイクで追って来たのだから人間より早いに決まっているじゃないですか」

「バイク!?それを先に言え!!」


「パパは無事でしょうか?」

 窓の外を見ている俺に、マルタが心配そうに聞く。

 人質交換だと言われてワザワザここまで来たのだから、せめてパパの無事な姿か解放されたと言う知らせが欲しかったはず。

 それが踏みにじられたのだから、無理もない。

「屹度、大丈夫だ」

「ありがとう」

 気休めで言ったのではない。

 おそらくピパは、クラウチ社長を自分の手の届くところに隠しているに違いない。

 何故なら、信用できる人間が居ないと思っているだろうから。

 何故そう言い切れるのかと問われると、答えは明白。

 自らが想像する他人に対する意識と言うのは、常に自らの考え方が基本になっているから。

 まだ30代の若さで、しかも麻薬と言う犯罪の世界で伸し上がってきたのだから、そうとうな悪事を重ねて来ただろう。

 まして靴を舐めさせてまで、俺の気質を試した用心深さと他人の尊厳を無視する態度は、敵を多く作ったに違いない。

 そしてピパはダニエルの事を嫌っている。

 ダニエルがペラペラ喋ってくれたおかげで、重要なヒントを得る事が出来た。

 それは彼らの間で、何らかの取引が行われていると言う事。

 つまりクラウチ社長の誘拐をピパに頼んだ際に、交換条件が出されたと言う事で、その条件とはおそらくピパ一味に関する事への警察や軍の介入制限なのだろう。

 だから、捜査は打ち切られた。

 マルタが捕らえられた以上、クラウチ社長もダニエルの条件を呑むのは時間の問題だろう。

 POCとしてはアフガニスタンの工場移転計画を阻止することにより、アメリカなどへの不信感が和らいで平和を取り戻しつつある民衆に対して再び欧米への不信感を募らせ、アフガニスタンを元の戦乱の地に戻すことが出来る。

 しかも俺と言う“お土産”付きで。

 これでダニエルの目的は十分果たせ、武器商人とは言え元々が大企業のサラリーマンだった彼等は約束を守りマルタもクラウチ社長も家に帰し、その身代金も入る。

 戦乱の戻ったアフガニスタンで手に入る金に比べれば、身代金の額など比べ物にならないだろうから、POCはその全額をピパに渡すだろう。

 ところが、ここで一つ問題が発生する。

 ダニエルがその継続を約束したところで、ピパとしてはそれを保証してくれるものがないので信用はできない。

 もちろんダニエルはビジネスマンだから、チャンとした契約書を出すだろうが、ピパはそんな紙切れは信用しないから結果的にはマルタかクラウチ社長のどちらか、あるいは両者とも返さないだろう。

 返さなければダニエルの計画は反故になる可能性も出て来る。

 マルタとクラウチ社長を手放すことによって身代金は入るが、交換条件だった警察と軍の介入制限も解かれる恐れがあるし、ピパは味を占めてもっと多くの金をせびろうとするに違いなく、今度は仲間であったはずのダニエルを脅迫してくるだろう。

 つまり、彼等は最後の詰めの段階で、お互いに詰まらなくなる。

 ダニエルは、ピパを能力の低い普通の悪党だと思っているらしいが、ピパは用心深い犯罪者だ。

 ビジネスで組む人間を間違えれば、思わぬところで墓穴を掘って失敗する。

 ダニエルは愚かな人間を甘く見過ぎている。

 それは、まともな環境でチャンとした教育を受けて育った人間としては、ごく当然の反応と言えなくもない。

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