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【To the enemy's bosom③(敵の懐へ)】

 ナトーたちが連れて行かれた家を見張っている。

 まさかジャングルの奥に、こんな立派な家があるとはだれも思わねえ。

 森の中に現れた、白亜の宮殿ってえところだ。

 そういう所には、たいてい魔王や魔女が住んでいるのに決まっている。

 ジャングルから出て、屋敷に近づきたいが、迂闊に出るわけにもいかねえ。

 どういうわけだか知らねえが、家の周りには木もなく、身を隠せそうな草さえ殆ど生えていねえ。

 しかも監視カメラに、あそこに見えるワイヤーは獣除けの高圧電流が通っている奴に血が居ねえ。

 俺が迂闊に出てしまうと、折角ナトーがひ弱な女を演じているのが、おじゃんになってしまう。

 それに靴も履き替えたい。

「キース先に行って、トーニを手伝え!」

「了解しました!」

「俺たちも急ぐぞ!」

「了解!」


  *白亜の邸宅の中*


「ようこそマルタお嬢さん」

 俺たちが連れて行かれた居間に、白いスーツを着た30代後半の男が居た。

 口に咥えた葉巻に火を付けて、ニヤリと笑う。

「あなたが一味のボスね!言われた通り、私はここに来ました。さあお父さんを返して!」

「駄目だ」

 白いスーツの男はマルタをチラッと見ただけで、目を俺のほうに向けた。

「エリザベスさん。マルタさんをよくここまで届けてくれて感謝しますよ。しかしながらアンタには幻滅だ」

 “幻滅?”

 頭らしき男が俺を指さして言った。

「そう。なんでも一騎当千の兵だと聞いていたのに、船着場では暑さでフラフラになり吐いてしまうし、ここに到着するのに時間も掛かった。そして今もフラフラ」

 奴の言う通り、怒りのパワーで立ち上がったマルタに対して、俺は床に腰を下ろしたままの体勢。

「噂に聞いていたナトー軍曹も、その程度だったのですかね……」

「なぜ、知っている」

「おっと、これは、知らないことにしておくはずだった」

 奴がニヤッと笑う。

「芝居かも知れねえし、本当に単に噂が誇張されただけの英雄なのかも知れねえ。なにせフランス外人部隊が1世紀ぶりに採用した女性戦闘員だ。誇張された情報でも充分人は信じるだろうし、志願者を募るには好いPR宣伝になる」

「……」

「だがな、俺には関係ねぇ。今直ぐに、いやもっと前からお前を消しておきたいと考えていた。なにせ、もし芝居だったとしたらシャレにならねえからな。だが俺の相棒が、お前を捕えたら御褒美をたんまりくれるって言うものだから生かしているんだ。そいつはもう直ぐここに来るから、礼を言うんだな。……おっと、その前に相棒との約束をチャンと守った俺に感謝して貰わねえといけねえ」

 男は口に咥えていた葉巻を、白い革靴に当てて火を消す。

「おっと、折角の靴が汚れちまった。おいナトー靴の汚れを舐めて拭け」

 そう言うと手下が差し出したデザートイーグル50AEを俺に向け、足を突き出してきた。

「さあ、早く舐めろ。それとも、ここで消えるか?」

「やめて!!」

 マルタが叫ぶ。

 だが俺は躊躇う事も無く、差し出された靴を舐める。

 戸惑ったのは奴のほう。

 素直に靴を舐める俺を見つめながら、銃を持つ手が微かに震えている。

「いい子だ。褒美をやる」

 そう言って奴は俺の顔を蹴った。

「キャー!」

 見ていたマルタが悲鳴を上げ、失神して床に倒れる。

「ハハハハハ」

 蹴られて体勢の崩れた俺と、失神して倒れたマルタを見た奴が狂ったように笑っていた。


 しばらくするとヘリの音が近づいて来た。

 奴等の表情を見ると、どうやら俺たちの味方ではないようだ。

 ヘリでやって来たのは、奴の“相棒”に違いない。

 奴には知性の欠片も見られなかっらから、きっと最近麻薬の密売で勢力を拡大しているピパ一味のボスか幹部なのだろう。

 と言う事は、コイツを唆してクラウチ社長の誘拐を企てたのは“相棒”と呼ばれる奴で、その正体はPOCの幹部なのだろう。

 見張りを置いて奴が部屋を出て行く。

 外で微かに話し声が聞こえ、それが近づいてくる。

 “この声は……”

 大理石張りの廊下に足音が響き、徐々にこの部屋に向かう。

 この歩幅の違う2つの足音。

 間違いない。

 奴がPOCの幹部だったのだ。

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