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【To the enemy's bosom②(敵の懐へ)】

「マーベリック、ナトーたちを追っているトーニの所在が分かった!」

 ニルスがマーベリックに携帯で知らせる。

 マーベリックは直ぐに村の捜索を打ち切り、キースを先行させて獣道に駒を進めた。

「俺も行く!」

「待て。君は戦闘員じゃない」

 急に出て行こうとするキャスをニルスが止めるが、キャスはその言葉も聞かずに森の中に入って行く。

 追いかけて止めようとしたが、丁度ドローンが帰って来たところだったので、着陸を優先させてしまい追えなかった。

「もう……みんな結構勝手だな」


 ドローンで届けた携帯でトーニと話すサオリ。

「えっ?靴?」

「ああ。俺のシューズがリュックの中に入っているから持ってきてくれ。今履いているビジネスシューズは壊れてサンダル代わりにもなりゃしねえ」

「リュックってどれ?」

「青いやつで、真ん中にイタリアの国旗が付いている」

「ああ、これね」

 リュックを開けて靴を探っていると何か固いものに当たり、取り出してみると、それはフォトフレーム。

 しかも。どこにでも売っているものじゃなくティファニーの高級品。

 中に入っているのは、画学生みたいにスモックを着ているナトーの写真。

 誰が撮影したのかは知らないけれど、トーニ君ではないだろう。

 任務中なのか、そうでないのかは分からないけれど、後ろにエッフェル塔が見えるのでパリで撮影されたもの。

 こうしてあらためて、軍服や銃といったものと無縁なナトちゃんの姿を見ると、なんだか罪の意識で涙が出そうになってくる。

 12年前SISCONに入って間もない私は、紛争のまだ激しかったイラクで、2つの任務を請け負っていた。

 ひとつは、有能なエージェントを見つけること。

 最も重要な条件として、類稀な射撃能力を持つもの。

 もうひとつは、子供の捜索。

 男の子とも女の子とも分からない。

 ただ白人の子供という事と、20××年6月頃に生まれたはずだという事だけが依頼主から渡された情報。

 正直、子供の捜索は難しかった。

 なにせ、紛争で親を亡くした子供が溢れていたから。

 しかしエージェントの条件として出された狙撃の名手は直ぐに見つかった。

 何しろ多国籍軍の名だたる狙撃手を、ことごとく撃退するという驚異的な能力を持つ、コードネーム『グリムリーパー』と呼ばれる狙撃手が居たから。

 ただ問題なのは、このグリムリーパーが敵であるという事と、若者なのか老人なのか、その正体は誰も知らないということ。

 知っている者は、グリムリーパーと対峙して殺されていった者たちだけ。

 ある日、他のエージェントから情報が入った。

 それは大々的な“グリムリーパー暗殺作戦”が発令されたこと。

 そしてその暗殺作戦の中心人物としてKSK(ドイツ連邦陸軍特殊作戦コマンド)で、五輪射撃競技銀メダリストのローランド・シュナイザー中尉が加わっている事。

 勝ったほうを懐柔すれば目的は叶う。

 圧倒的に不利な条件で戦っているグリムリーパーには申し訳ないが、何者かも分からない敵の男よりも味方のほうが良いと思い、銃撃戦の行われる街に潜んでいた。

 銃撃戦はローランド中尉とグリムリーパーの一騎打ちとなり、ローランドは敗れた。

 だが彼は、自らが敗れた後の作戦も考えていた。

 それはグリムリーパーの位置を、優秀な砲撃観測員に教えておくこと。

 ローランドは敗れて死んだが、グリムリーパーも砲撃に合い瓦礫に埋もれた。

 そして、そこで私が目にしたのはドラグノフ狙撃銃を握ったまま倒れているまだ10歳くらいの子供だった。

 私はその時、たまたまそこに敵の少年兵が居たのだと思っていたが、彼のポケットの中には狙撃用のスコープが入っていた。

 そう。

 この子こそ、グリムリーパーの正体。

 この子こそ、私の大切なナトー。

 そしてこの子こそ依頼主に託されていた子供の正体だということは、当時の私には知る由もなく、もう一つのミッション通りに優秀なエージェントに育てるために教育してしまった。

 もしもあの時直ぐに気が付いていれば、ナトーはこのような場所へ来ることもなく、年頃のお嬢さんとして平穏な社会の中で暮らしていたことだろう。

 “全ては、私のミス……”

「おい。あったのか?一番底に入れてあるから。ほかの物は触るな」

「了解よ」

「サオリ風邪か?」

「なんで?」

「いや、なんか鼻声で、色っぽい感じがしたから」

「まあ、お上手ね」


 戻ってきたドローンのバッテリー交換をして、荷物を載せる。

 武器はチアッパ リトル バッジャー 22 LR ライフルと拳銃はトーニ用のグロックG44の他に、ナトーのワルサーP22。

 銃3丁にサイレンサーと弾丸。

 それに靴。

「重いけど大丈夫?」

「大丈夫じゃないかも……」

 ニルスはそう言うと予備のバッテリーも装着して飛ばす。

 白いドローンが、まるで雲のように青い空を泳ぐように飛んで行った。

 ”お願いトーニ君、ナトーを守って!”

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