【Counterattack④(反撃)】
橋を抜けてしばらく行くと、左手に赤い旗の目印が見え、船を岸に着ける。
誰も居ない。
どうやら敵は、遠巻きに俺たちを観察しているに違いない。
「マルタ、弱ったふりをして」
「弱ったふり?」
「そう、こんな感じ」
俺はひざを折って、その場に座り込んだ。
マルタも、続いて同じようにした。
「いい?俺たちは、飲まず食わずで、ここまで辿り着いた」
「でも本当は、ナトさんのおかげで、何も不自由はしていないわ」
「その体力を隠して敵を欺く」
「隙を作らせるのね」
「その方が、何かとやり易くなる」
「ありがとうナトさん」
同じ年の女の子から、ありがとうと言って貰って正直胸がワクワクした。
サオリをはじめ、レイラやエマ、そして一番歳の近いユリアでさえ俺よりも6つも年上。
同じ歳の女の子と会話するなんて、産まれて……いや過去に1度だけある。
あれはグリムリーパーとして最後の狙撃を終えた後のアパートで。
良く喋る女の子だった……。
行先も分からない、出迎えも来ないまま、そこに座り込んでいると予想通りしばらくして奴等が来た。
「マルタか?」
「はい」
「人質交換に来た」
マルタが返事をして、俺が要件を伝えると、迎えに来た男たちがさも可笑しそうに笑った。
「馬鹿か、こいつ。お前たちは只の虜じゃねえか、この状況でどこの誰が何のために人質交換の要求を呑むんだよ」
思った通り。
奴等は最初から人質交換などする気じゃなかった。
奴等はマルタを捕えてクラウチ社長に条件を呑ませ、その後はマルタと俺の解放と引き換えに身代金をせしめるのが狙い。
奴等は5人。
武器はM16が2丁。
後は拳銃とナイフ。
片付けるのは容易いが、奴等のアジト迄案内させるまで待たなければここまで来た意味がない。
麻薬と人質犯罪、これまでPOCの常套手段だったアルバイト的な奴等じゃないから、その時になれば容赦はしない。
赤い旗のある所に1艘のボートが岸に乗り上げていた。
ナトーに間違いない。
「やっと仲間に追いつくことが出来たぜ。あんがとよアミーゴ!」
送ってもらった漁師に礼を言うと「もう、喧嘩はするなよ」と笑われた。
近くの街でナトー達の船を見たと言う男が居たので、俺はビショビショになっているのを好い事に、女房と喧嘩して川に落とされたと言って船に乗せてもらい追いかけてもらった。
岸に上がり、ナトーの乗ってきた船の船外機を触ると、まだ熱かった。
そして地面にはナトー達の他に、5人の男の足跡。
まだそう遠くに行っていないはず。
足跡に注意してナトーのあとを追う。
川岸の湿った部分にしか足跡は残っていないが、今はそれで充分だ。
川沿いの道は一本道だから、右に行ったか左に行ったか分かればいい。
あとは見つからないように注意しながら、急いであとを追った。
「レイラ、その後のナトちゃんたちの行先は?」
『それが、あれから直ぐにシステムを遮断されてしまったの』
「復旧は?」
『何度も試みては居るのだけれど、どうやら衛星側の通信自体を切られた可能性が高いわ』
「衛星自体の?」
『そう。引き続きガモーと連絡を取りながら試してみるけれど、あまり期待はしないで頂戴』
「わかったわ。一応、チャレンジは続けてみて。また復旧次第押して頂戴」
パスワードだけでなく、衛星自体の通信を切られたら、いくらハッキングしても無駄な事だ。
大まかな位置は掴めたから、今度はこっちで何とかするしかない。
「いよいよコイツが活躍する頃だね」
ニルスが得意そうにドローンを手にした。
13号線を外れて暫く進むと、道の分岐点に出くわした。
真直ぐ行くと、衛星が最後に確認したナトーの位置に一番近い集落があり、左の道を行くと別の集落に行く。
「キャス。この2つの集落は道で繋がっているの?」
「いや、道はない。行き来するには船を使うしかない」
「どうする?」
「とりあえず俺たちはまっすぐ進む。ボートを降りた以上、真直ぐ行った先の集落に居る可能性の方が高い」
「そうね、じゃあ頼んだわ。キースも付いて行って」
「了解」
「ただし、直接作戦には参加しないで集落の外で待機して」
「外で?」
「そうよ。敵がそこから森の奥に移動していた場合、直ぐに距離を詰められるのは貴方しかいないでしょ」
「了解しました」




