【Counterattack③(反撃)】
夜明け前にレイラから連絡が入った。
「早いわね」
『ガモーが夜勤の交代前を狙って集中攻撃してくれたおかげよ』
「あーコロンビアと日本の時差は14時間だから、時間的有利点を狙った訳ね」
『でも、おそらくそう長くは持たないわ』
「イイよ。で、ナトちゃんたちの居場所は掴めた?」
『ハイ。それにもう1人も』
「トーニちゃんね。彼はどっち?」
『ナトちゃんの1時間後方』
「やるわね!」
『でも、彼は徒歩だから、これから差は広がるわ』
「徒歩!?ボートは?」
『どうやらボートの燃料切れで、彼ったら夜どうし歩いて追いかけたみたいよ』
「あのトーニちゃんが!?」
『そう。あのトーニちゃんが』
「ありがとう。引き続きナトちゃんを追って」
『了解』
レイラとの電話を切り、直ぐに皆を部屋に集めた。
「見つかったわよ、ナトー軍曹たちの位置はここ。そしてトーニ上等兵は、ここ」
「おーっ、トーニ、やるじゃないか」
トーニの位置がナトー達に非常に近いのを見て取って皆がどよめく。
「でも、この地図には、そこへ行く道がないぞ」
確かに指示した位置は、地図上に描かれている道路から優に10㎞以上も離れている。
「キャス、どう?」
いよいよ出番が来たと、ニヤリと笑ったキャスが、地図上の位置を示した。
「ナトー軍曹の行く手には、こことここに小さな集落があり、道路はこの辺りから続いています」
「その先は?」
「その先に行くには、川沿いに道が無いので、また13号線まで戻って移動する必要がありますね」
「どうします、マーベリック少尉」
「陸上の道は川に比べて曲りくねっていないので、直ぐに13号線を南に進めば追い付ける可能性はある!」
「よぉ~し野郎共、出発だ!」
モンタナの声で、皆が歓喜の雄叫びを上げた。
「よして、私たち観光客でしょ」
準備を済ませ、直ぐにチェックアウトしてホテルを出た。
その間わずか5分。
さすがに軍人は早い。
私が乗ってきた乗用車には、ニルスと私、そしてガイドのキャスが乗り、その後ろをキースのオードバイが続く。
最後尾はキャンピングカーで、ここには実戦部隊のマーベリック少尉たち5人が乗った。
午前8時。
レイラからナトー達が船を降りて上陸したと連絡が入り、それから1時間後にトーニも同じ所から上陸したと連絡が入った。
「えっ!?トーニは船を捨てて、徒歩で追いかけていたんだろ。どうして差を開かれずに追い付く事が出来たの?」
ニルスが不思議がって言うと、キャスが愛の力だと言って笑った。
おそらく……いや、確実にキャスの言う通り。
トーニが方向を間違えなかったのも、ワニやアナコンダやピラニアに襲われずに徒歩で追えたのも、この1時間を離されなかったのも全て愛の力だ。
でも何故ハンス大尉は、自分が行けない任務に、トーニを同行させたの?
頭の良いハンスなら、とうの昔にトーニがナトちゃんの事を好きなのは分かっているはずだし。
この様な状況になる事も、予め想像できたはず。
リビアでの戦いでは潜入捜査中のナトーに協力して敵中に入り、敵将バラクを捕獲した。
コンゴでは孤立した本部を放って置いてまで、ナトー達の戦場に急行した。
パリのテロでは、DGSIから屈辱を受けたナトーに代わり本部に立て篭もり抗議して、ザリバン高原の戦いでは単身ナトーを追った。
誰よりもナトーを大切に思っているはずのハンスが、何故自らナトーを手放すような行為をするのか私には理解できない。




