【Counterattack①(反撃)】
直ぐにニルスたちと合流したサオリはレイラに連絡を取り、ナトーの行方を捜すように伝えた。
GPS機能付きの時計は敵に取られると思ったのか、銃と一緒に車の隠し扉に仕舞ってあった。
ナトーが17歳になる少し前に渡した時計を未だに大切にしてくれている事を嬉しく思っていると、レイラから連絡が入った。
「どう?見つけた?」
『すみません、それがセキュリティーシステムを切り替えられて、衛星にアクセスできません』
「どのくらい時間が掛かりそう?」
『昨日のハッキングがバレたとすると、最悪システムが凍結させられている可能性がありますので、早くても1週間……』
「わかった。じゃあガモーと協力して明日のお昼にはシステムを乗っ取って頂戴」
『やってみます』
「頼んだわよ」
「船で出たのなら、手分けして船を追えば良いんじゃないのか?」
マーベリックが素朴な疑問を投げかけるが、却下した。
この辺りはもう奴等のテリトリーだから、表立った行動をとるのはマズイ。
当然奴等も何らかのアシストが付いて来ているのは最初から疑っているだろうし、今こうして集まっている事自体監視されているかも分からない。
今肝心なのは、私たちが完全にナトー達と切り離されて打つ手がない状況だと言う事に気付いてもらう事。
そうすれば奴等は、安心して気を緩める。
「取り合えず、今できる事は何にもないから、今日はホテルに泊まって楽しみましょう!」
「楽しむって、何を?」
「首都ボコタと違って、田舎だぞ」
「田舎だって、女はいるでしょ」
「えっ!?」
「ナトー1等軍曹とマルタの事は気になるけれど、衛星が使えるようになるまで何も手立てがない状況でしょ。ただ憂いて居ても意味が無いので、今日はもう営業中止。臨時休業ってこと」
「いいのか、そんな事で……」
「気持ちの切り替えは大切よ。その代り居場所が分かったら、ヒルに刺されようがジャガーやワニに襲われようが、電気ウナギの電流を浴びながらでもトコトン戦ってもらいますから、その覚悟はしていて頂戴ね」
19時の夕食前にはホテルに全員集合するはずだったが、ニルス少尉とキース、それにトーニがまだ戻って来ていなかった。
通常なら厳罰もの。
だけど、今日は休日宣言してしまったし、私が厳罰を科す訳にはいかない。
結局先にホテルに戻った者も、なにか手掛かりを見つけようと思ったのだろう、一様に服とか靴とかを泥だらけにして帰って来ていた。
もう一人の将校であるマーベリック少尉は、さっきから時計と窓の外ばかり気にしている。
どうやら彼のイライラは頂点に達している様だ。
遅刻している3人のうち一番に戻って来たキースは、現地でオフロードバイクを調達してきていた。
当然マーベリック少尉には怒られたけれど、細い奇妙な形をしたそのバイクは、この先のジャングルでも走れるタイプだと言う。
「キース君の特異なモトクロスタイプのオートバイより、大分ひ弱な感じがするけれど大丈夫なの?」
「ハイ。このバイクはトライアル車と言って、不整地を速く走るよりも困難な所でも走り抜く事を目的としたバイクですから、ジャングルを移動するには最適だと思います」
次に戻って来たのはニルス少尉。
その手には、大型のドローンを持っていた。
「また玩具か!もう立派な大人、それも来年30になるというのに」
「そう怒るなよ。玩具だって貴重な戦力になる」
「戦力になる?」
「そう。衛星に代わって広い範囲を捜索するのは難しいけれど、衛星でナトちゃんたちの位置がつかめたら、そこに物を運ぶ事が出来るんだぜ」
「どのくらいの輸送力があるんだ?」
「通常、15㎏の荷物を搭載して約20分の飛行が可能だ」
「たった20分か」
「でも、これはバッテリーを追加しているので最大約7㎏の荷物を搭載しても1時間の飛行が可能だ」
「1時間……距離にすると、どのくらい?」
「直線で約60㎞だから、行動半径は15~25kmって所だろう」
「凄いじゃない!」
「だろっ!遅刻したのは申し訳ないが、これなら衛星が見つけてくれたナトちゃんの所へ必要な物を届ける事が出来る」
キース君のバイクに、ニルスのドローンは、何とも頼もしい。
やはりLéMATは普通の軍隊の集団ではない。
もちろん他の人たちもナトちゃんの事を心配して、今日一日中近辺を走り回っていてくれた。
カランカラン♪
ホテルのカウベルが鳴り、やっとトーニが帰ってきたのだと誰もが思って振り向いたが、入り口からは警官が2人入って来てホテルの人と話していた。
「何かあったのですか?」
「ああ、船着き場でボートが1艘盗まれた」
「いつ頃ですか?」
「今日の午後3時だ。船主が漁から戻って来て、明日の準備を済ませて船から離れようとした時に、盗まれた」
「犯人の特徴は?」
「ああ、薄汚れた黒のスーツを着たスペイン人。地元の人間じゃないだろうが、こんな良いホテルに泊まれるような奴じゃないだろう。おそらく他所の街で何かやらかしてピパの一味の元に逃げ込む算段なんだろうな」
「ピパの一味って?」
「ああ、外人さんにゃあ分からないだろうが、最近急に勢力を付けて来た麻薬組織だ。イイ後ろ盾が付いたってもっぱらの噂だぜ」
「どこに居るのですか?」
「なにが?」
「そのピパ一味です」
「お嬢さん、それが分かっていれば、私たちも苦労はしませんよ」
「あっ、そうですね。ご苦労様」
「それじゃあ気を付けて観光を楽しんで下さい」
犯人が私たちのグループに居るトーニであることも知らずに、警官2人は去って行った。




