【2nd contact①(2回目の接触)】
夕食を済ませて部屋に戻る。
特に誰かが侵入した様子もない。
「さて、定時報告でもするか」
「でも、携帯取り上げられたんじゃねえのか?またブラの中から出て来るのか?」
●×▼◆……。
トーニをぶん殴って敵から貰った携帯でニルスを呼ぼうとしたが、通じない。
「壊れてる?」
「あら、ホント」
敵から貰ったのは折り畳み式の古いガラケー携帯電話。
サオリがボタンを押しても、何も反応しない。
「チョッと貸して」
マルタが携帯を取ると、器用に分解を始めた。
「大丈夫なの?」
「ええ。私、携帯ショップでバイトしているから」
「へ~。大企業の社長令嬢なのにバイトとは珍しいな」
復活したトーニが顔を乗り出してきた。
「確かに父は社長ですけれど、社長令嬢と言う地位なんて有りませんよ。私はクラウチ家の娘と言うだけの普通の人間ですから」
お嬢さんだとばかり思っていたが、確りした人だ。
「やっぱり!」
「なになに?」
「ほら、ケースの裏側に1枚薄い板を挟んであって、通話の応答しか出来ないようになっているわ」
「じゃあ、それを外せば?」
「そう。使えるはずよ」
ニルスに今日1Stコンタクトに成功したことを伝えると、俺達が乗って来た車に仕掛けてあるGPS発信機を頼りに、みんなこっちに向かっていると言う事だった。
「ところでキブドの手前の区間を運転していたのって誰?」
「俺だけど……なにか?」
電話の向こうで歓声が上がるのが聞こえた。
「ナトちゃん。君、ラリードライバーになれるかも」
さては、賭けをしていたな……。
取り合えず、この携帯電話の番号は教えておいたが、絶対に掛けてこないように伝えた。
「じゃあ、なんで教えたの?」
「絶対と言うのは作戦実行中の事で、何らかの状況で作戦が中止になるか、多大な人命にかかわる時のみ通話を受ける。ただし覚えておいて欲しい事がある。それはこの携帯が使えるのは2ndコンタクトまでの間だ」
「つまり最短、明日には使えなくなるって言う事だね」
「ああ。俺が犯人グループなら、そうする」
そう言って通話を切った。
横で聞いていたサオリが感心して言った。
「ナトちゃんって、優秀な犯人グループのリーダー適性もあるのね」
「やめてくれ……」
奴らからいつ呼び出しが有るか分からないので、夜は早く寝た。
奥の寝室にサオリとマルタ、そして玄関に面した居間に俺とトーニのペアで寝る事にした。
サオリからもマルタからも、2つのベッドを並べれば3人寝られるから一緒に寝ようと言ってもらったが、俺が問題にしているのは寝心地ではない。
窓のある部屋が2つあると言う事は、敵の侵入経路も2カ所あると言う事。
侵入者は1人だとは限らない。
もしも俺がサオリたちと一緒に寝室で寝た場合、居間はトーニ1人になる。
万が一、トーニが侵入者に気付く前に敵に倒されたとしたら……。
つまり2カ所の守りを固めるためには、3対1に分かれるより2対2に分かれる方がいいに決まっている。
だから俺はトーニと居間で寝る。
サオリに説明して部屋を出ようとする俺にマルタが「おやすみ」と言ってくれた。
俺が「おやすみ」と言い返すと、その横でサオリがワクワクした表情で笑顔の眼差しを向けていた。
何かを期待している表情……。
「だから、そう言う訳じゃないから」
「そう言う訳って?」
「期待しても何もないと言いことだ」
「でも、相手はどうかしら?」
「トーニは俺以上に信頼できる!」
トーニが疑われた事に対して、少し強めに言った。
幾らサオリだからって、行っていい事と悪いことが有る。
「ゴメン。悪かったわ。ナトちゃんの心は揺れ動いたとしても、トーニ君ならチャンとナトちゃんの事守ってくれるものね」
サオリに言われて、キャスにMDAを飲まされた次の朝の事を思い出す。
あの時俺はベッドに仰向けになったトーニの上に跨り、キスをして服を脱ごうとした。
まさか、あの時の事をサオリが知っているはずはない。
即座に否定しようと思ったが、そうすれば墓穴を掘ることになる。
つまりサオリは、カマを掛けているのだ。
だから、ドキドキしている心を悟られないように何も言わずスルーして部屋を出た。




