【Before the sortie②(出撃前)】
とりあえず自分の部屋に戻り、洗った髪をタオルドライしてブローした。
いつもは休日出かける時にしか使わない、オーガニックトリートメントを手に取り、知らない間に鼻歌まで出ていて我ながら驚いた。
“なにか嬉しい事でもあったのか?!”
と自問自答。
髪のブローが終わると、バスローブを脱ぎ、ココナッツオイルを手に取る。
付け過ぎないように気にしながら、時々腕を鼻に近付けてクンクンして匂いに気を付けながら疲れた肌に満遍なく塗りこんでいった。
時計を見ると、もう19時50分。
軽くお化粧をして、薄く口紅を塗り慌てて新しい戦闘服に着替えて、筆記用具を持ち部屋を出た。
寮の廊下を慌てて走っていると、丁度シャワー室からトーニが出て来てぶつかった。
「すまん!」
「いようナトー。会議頑張れよ!」
「ああ」
「あれっ!?」
“!?”
トーニが素っ頓狂な声を上げたので、俺も気が付いた。
ノートを持つ手に引っかかっていた物……それはトーニが腰に巻いていたバスタオル。
慌ててトーニに投げ返す。
「すまん!」
投げ返すときに振り向いてしまったために、背は俺より低いくせに意外に大きなものが腰からぶら下がっているのが見えた。
「いいってことよ」
だがトーニは驚くわけでもなく、爽やかな笑顔を返してきた。
ここでトーニに驚かれて大声を上げられたら、俺まで悲鳴を上げなければならない程、狼狽していただろう。
それを知ってか、知らずか……まったくイタリア人って奴は女心を読むのが上手い。
“これで今日の所は、おあいこだ”
でも恥ずかしい……。
今度は何故か、胸がトクトクと鳴る。
19時55分、第4会議室の前。
ドアの前まで来て、今更ポケットからコンパクトを取り出して髪や服装の乱れをチェックする。
仕上げにコンパクトの前でニッと笑い顔をつくり、コンパクトをポケットに仕舞い一応走って来たのでワキの匂いがないかクンクンしてみる。
シャワーを浴びたばかりだし、元々体臭はないけれど気になるものは仕方ない。
気になる事と言えば、やはり走って来たのでブラの位置も気になる。
ズレていないか直しておこうと思い、両手で胸を持ち上げたところで時間が止まった。
「早く着いたのなら、廊下に立っていないでサッサと中に入れ」
部屋の中に居るものだとばかり思っていたハンスが、廊下に立っていた。
「い、いやこれは……」
焦って言い訳しようと思案を巡らせている俺など、まるで眼中にないと言った風に、ハンスは前を通り過ぎて部屋に入って行った。
なんとなくツマラナイ気分。
こんな時、トーニなら「おっ、デカいのは分かっていたが、やっぱり肩がこるのか?」とか「確認してやるから、俺にもクンクンさせてみろ」とか言って俺を困らせるのに……。
「えっ、ナトちゃんひょっとして困らせてもらいたいの?」
「誰も、そんなことは言っていない!」
思わず答えてしまったが、振り向いて驚いた。
いつの間にか、俺の隣にはニルス少尉が立っていたのだ。
驚いた俺にニルスは「ゴメン。顔にそう書いてあったから」と言って部屋に入ろうとして足を止めて振り返った。
“他にも何かある・の・か……”
「あっ、それから、もう手は降ろしておいた方がいいよ。次にマーベリックも来るからね」
そう言ってウィンクしてドアの向こうに消えた。
ニルスに言われて、手を見ると、その手はまだ胸を持ち上げた位置で止まったまま。
“なんてことだ……”