【Rally in Colombia②(コロンビアでラリー)】
加速して3つ目の左カーブの内側に飛び込むと、凄い凹凸があり車が激しく揺れたが、なんとかトラックを抜くことは出来た。
『いいナトちゃん、ナビは見ないで道路に集中してくれる』
「ナビを見ないって、ナビでもしてくれるのか」
『そうよ』
「でも、専門用語は知らないぞ」
『それは感覚で覚えていって』
「感覚か、了解」
『40、ライト3、ナロー30、レフト6、キンクス70』
見た感覚で分るのは直線40m。
ライト3は右回りのカーブの曲がり具合なのだろう。
つまりこの場合40mの直線を走った後レベル3の右コーナーを抜けると、道幅の狭い30mの直線の後にレベル6の左コーナーを抜け、kinksだからよじれたストレートが70m続くのだろう。
右コーナーに飛び込んでレベル3のコーナーを経験すると、道幅が狭くなり直ぐにレベル6の左コーナーを抜けた。
次のキンクスは予想と少し違って、見た目は緩いカーブの続く直線だが、殆どストレートとして処理できる道と言う事なのだろう。
『ライトヘアピン、20、レフト8ウェット、ダウン50、ライト2ギャップ、ダウン40』
『ライト3インロック、30、ブリッジ、レフト7アウトウッド、アンドアンド100』
『レフト3、20ターマック400、4セコ・フェイス・カー!』
左カーブを立ちあがると直ぐにストレートの途中から長い舗装道路になり、レイラのコールを聞いた4秒後に正面に対向してくる乗用車が現れた。
知らずに飛ばしていたら、正面衝突をしていたところだった。
上空からの目線で、逐一道路状況を伝えてもらえるシステムは安全で快適だった。
もちろん、そこにはレイラの適切かつ迅速なナビゲーションがあるからに違いない。
どこでどうやって居るのかは分からないが、静止衛星のカメラを誘導しながらタイムラグのない情報を伝えるレイラの能力には本当に頭が下がる。
約2時間、指示を受けながら、ドライブに集中していたらホンの少しだが貯金が出来るほど早くキブドに到着する事が出来た。
「Thank you, Leila!」
『It's Easy』
レイラに感謝を伝え、エンジンをオフにした。
トーニとドライバーを交代しようと思い、ドアを開け外に出ると風が生暖かくて、気が付けば汗をびっしょり掻いていた。
ピカピカだった車も泥だらけ。
「トーニ、交代だ。トーニ……?」
返事がないと思ったら、トーニはぐったりとしていた。
いや、ぐったりしているのはトーニだけではなく、後部座席のマルタやサオリまでも、ぐったりとして動けないでいる。
「どうした。大丈夫か!?」
苦しそうに薄目を開けてサオリが答えた。
「もうナトちゃんの運転する車には、二度と乗らない……」
街に入る前に持って来た武器を車の裏に設けられた秘密のBOXに仕舞いこみ、結局その作業で僅かに貯まっていた時間の余裕が無くなってしまった。
トーニに運転を替わり、街に入ると直ぐにサオリの携帯が鳴り、奴らからの指示が来た。
指示は街の中心部でガジェ27の交差点を右に曲がり、カレーラ2を左に入って直ぐの教会の前で車を停め、全員降りてアトラト川に面した公園にある船着き場の前で待てと言うもの。
その際に車の鍵は助手席のシートの下に置いておくことも付け加えられ、俺達は指示に従って車を教会の前に停めた。
「荷物は、どうするんだ?」
「鍵が開いている以上、持って出るしかないわね」
「銃は?」
「どのみち、船着き場でチェックされるでしょうから、持って出ない方が無難ね」
車のほうもチェックされるだろうが秘密のBOXは車体裏の構造物と一体化されているから、余程この車の構造に詳しいか、もしくは全てのボルトを外して分解でもしない限り見つかりはしない。
船着き場に着いても敵はナカナカ姿を見せない。
「遅せえな、折角時間通りに来てやったのに、奴らの方が遅刻かよ」
「いや、奴らはどこかで俺たちを監視しているはず」
「何のためにだ?」
「そうね、先ず他に着いて来ている仲間が居ないかとかかしら。それにこうして待たせている間に車に武器や位置を送信する発信機がないかもチェックしている事でしょうね。他に思いつくことは?」
サオリが俺に意見を求める。
「そうだな……俺が凶悪な犯人たちのリーダーなら、1人消す」
「1人消す!?」
それまで呑気に構えていたトーニが慌ててキョロキョロと眺め始め、覚悟を決めていて落ち着いていたマルタも心配そうに周囲の人たちを見ていた。
「クソッ、近づく奴は容赦しねえぞ!」
「俺だったら近付いて命は狙わない。狙うとすれば狙撃だ」
「どこから狙う?」
「定番は左の教会にあるタワーか、右にある銀行の屋上から」
「みんな、俺の後ろに隠れろ!」
マルタは直ぐにトーニの後ろに隠れた。
「どうして1人なの?」
サオリが俺に聞く。
顔には余裕があるが、笑ってはいない。
「目の前で仲間が撃たれて死んだときのリアクションを見れば、本当の素人か、そうでない者かが直ぐに分かるから」
「敵にナトちゃんの様な頭の良い子が居ませんように」
サオリは少しだけ笑顔を見せて、胸で十字を切って見せた。




