【Investigative meeting③(捜査会議)】
次の日、俺達はサオリが用意した車でホテルを出た。
途中、司令部代わりのキャンピングカーの中でミーティングを行ったあと、全員に武器が渡された。
拳銃は俺たちが使い慣れたSIGザウエルP320。
ただし、いつも使っているフルサイズではなく20㎜短いキャリー。
使用弾は9㎜パラベラムで、装弾数は17発。
「あれ、2つ違うのが混ざっているよ。1つはナトちゃん用だよね。もう1つは誰の?」
ナトちゃん用と言ってニルスが渡してくれたのはワルサーP22Target。
使用弾は22LRで、装弾数は10発。
もう一つはグロックの新型、G44だ。
使用弾はワルサーP22と同じ22LRだが、装弾数は15発と多い。
「ハイ、これは運転手さんのよ」
サオリがG44をトーニに渡す。
「運転手、俺が?」
「まあ、現段階では誰がどの様な役目をするかなんて決まっても居ないでしょうが、私の描いた仮説の一つとしては、貴方は運転手にうってつけよ」
「なんで?」
「背が低くて、一番弱そうだもの」
「おいっっ!」
トーニは怒ったが、確かにサオリの言う通り。
もし人質交換の際に車を運転するのが、トーニ以外なら敵に怪しまれる。
似たような背丈でもメントスとハバロフでは、運転手には若すぎて刑事に怪しまれる。
マーベリックも左程背は高くないが、彼は実行部隊の隊長だから運転手をやるわけにはいかないし、その他の者は全員背が高くて怪しまれやすい。
威力の弱い22口径の拳銃が俺とトーニに渡されたと言う事は、今回は俺とトーニがサオリと組んでマリアの護衛をするのだろう。
サオリが護身用に携帯しているのはワルサーPPKで、同じ22LRが撃てるタイプだ。
その他にライフルが2丁渡された。
チアッパ・リトルバッジャー22LR。
これもP22やG44と同じ22口径の22LR弾を使用する。
必要最小限の部品構成で、単発式の中折れ構造が特徴的なライフル。
最後に、それぞれの銃のサプレッサー(消音機)と実包が配られたあと、俺とトーニ以外の皆が一旦車外に出された。
「なに?」
「あなた達2人には、今から着替えてもらいます」
「着替える?」
「そう。社員になってもらうの」
「なんで?」
「マルタの護衛だな」
「そう、さすがナトちゃんね。正解ヨ」
「あっちゃ~」
答えられなかったトーニが頭を抱えたが、サオリはトーニも褒めた。
そういう普通な所が任務に最適だと。
スーツに着替えた俺たち2人にレイラが車のキーを渡した。
「そこにある黒のレクサスに乗るわよ。もちろん運転手はトーニ君よ」
「だから、帽子付きって言う訳か」
トーニが運転手らしく帽子を被った。
「レイラ、後はお願いね」
「了解」
どうやら既にマーベリックとニルスには、作戦の第一段階について打ち合わせが完了しているって訳だな。
俺たちに知らせないのは、作戦の意図に沿った行動を敵に見抜かれる恐れがあるからなのだろう。
車には俺とトーニ、それとサオリとマリアの4人が乗った。
「トーニ、車を出して」
「了解……でもどこに??」
「カーナビ」
助手席に座った俺がナビを指さすと、トーニが頭を掻いて笑って誤魔化し、緊張した面持ちで後部座席に座っていたマルタを和ませた。
“さすが!”
「Natow, el español es perfecto, ¿no?(ナトちゃん、スペイン語は完璧でしょうね?)」
「Es perfecto. Es una palabra amada por más de 400 millones de personas.(完璧よ、4億人以上の人が使う言語ですもの)」
「¿Qué tal el conductor?(運転手さんは、どうかしら?)」
「Déjamelo a mí.(任せとけって)」
スペイン語を公用語とする国は21ヵ国もあり、人口は世界で4番目に多い4億8千万人で、会話が出来る人口ならヨーロッパを中心に更に1億人増える。
世界で最も会話人口の多い中国語は10億人以上だが中国国内に限定され、同じく世界第3位のヒンディー語も、ほぼインド国内でしか使えない。
世界各地に飛ばされる外人部隊では、より多くの地域で使える言葉を習得した方が便利な事は間違いない。




