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【Investigative meeting②(捜査会議)】

「それでは依頼内容と言うのは、そのクラウチ氏を探し出すところから始めると言う事ですか?」

 憤慨して腕を組んだままのマーベリックに変わり、今度はニルスが質問した。

「犯人グループの大まかな居場所は既に把握していますので、大々的に捜査をしていただく必要はありません」

 ここで初めてサオリが答えた。

「その情報は、警察から?」

「正規なルートを取って得た情報ではありませんので、明確には答えられませんが、確かな情報です」

 つまりサオリたちの組織、SISCON(Secret Intelligence Service Control:秘密情報制御室)の情報員が警察に居るか、もしくは何らかの手段を使い情報を入手したかのどちらかだろう。

 SISCONの役目は、戦争や紛争の危険性がある動きを、いち早く捉え最小限の“力”で未然に防ぐ事。

 今回の誘拐事件は本来なら警察が対処すべきものだが、それが出来ないとなると何者かが政治的な圧力を掛けて来ている事は間違いない。

 国家警察に圧力を掛けられる存在と言う事になれば、巨大金融機関を後ろ盾に持つPOCに間違いない。(※POC:正式名称はFor thePeace of children's[子供たちの平和のために]と言う名前の偽反戦団体。その実態は武器商人である)

「被害者の娘さんが同席しているのは、何か重要な情報を持っていると言う事ですか?」

 ニルスの質問にマルタの肩が微かに震えた。

「いえ、彼女は何も知りません」

「では何故……ま、まさか行動を共にする民間人と言うのは」

「そう、彼女と私です」

 毅然とした態度でサオリが答えると、マーベリックは逆上するように大声を上げた。

「冗談じゃない。素人のガイドだけでも足手まといなのに、その上女を2人も連れて歩くなんて尋常じゃない!しかも相手はどうせ麻薬がらみの犯罪組織だろう?バカも休み休み言ってくれ!」

「マーベリック少尉、貴方は何か勘違いをしていませんか?」

「勘違い?」

「そう。私たちは作戦を伝えに来たのですよ。依頼の方は、既に貴方たちがフランスを立つ前に本部の方で承諾してもらっておりますし、その際にガイド1人と民間人2が同行する条件も依頼内容につけさせていただいております。――ハンス大尉から、説明はありませんでしたか?」

「……」

 マーベリック少尉が沈黙した。

 確かにハンスから、現地人ガイド1名と民間人2名がマーベリック少尉の指揮下に入る事は言われたが、それがどの様な人間なのか説明は無かった。

 ガイドは仕方ないにしろ、軍事作戦に同行するくらいの民間人だから、俺は退役軍人か作戦に関係する何かのスペシャリストだと勝手に思っていた。

 確かにサオリの方はその通りだが、もう1人はどう見ても只のお嬢さん。

 まんまとハンスに一杯食わされた。

「でもよぉ、クラウチ社長を誘拐した奴らと言うのは武装していたんだろ?謎の武装勢力と闘うのに素人を連れて行くために起こる俺たちの危険性も考えねえといけねえ。パパの安否を気遣う娘の気持ちも分からないでもねえが、俺達を信用して家で朗報を待ててくれた方が作戦もスムーズに進むのと違うか?」

 珍しくトーニが、まともな意見を言った。

「誰もが、そう思うでしょうが、そう言うわけにはいかないのです」

「それは?」

「犯人側からクラウチ社長を解放する条件として、娘さんとの交換が提示されました」

「そんな無茶な!」

「無茶でも仕方ありません。何故なら現時点で犯人グループが、どこに潜んでいるのか正確には分かっていない状態ですから」

 つまり条件を呑めば、相手側からは必ず交換場所を指定してくると言う訳か……。

「そこまで詰めておきながら、何故警察は動かないのか」

「警察内部に犯人グループに情報をリークしている者がいます。それに何らかの政治的圧力により、残念ながら警察も本来あるべき様に動けないのが実態で、この人質交換の条件はクラウチ紡績本社で粘り強く犯人と交渉して得られた条件です。もちろん受け入れがたい条件ではある物の、何らかの解決策が無い以上事件は長期化し、クラウチ社長自身の身の安全も危ぶまれるので仕方ありませんでした」

「つまり娘さんは、勇気ある決断を下してくれたって訳だ」

 トーニが皆を鼓舞するように、高らかに声を上げて言った。

「お願いします。パパを助けて下さい。私は銃を手にしたことはありませんが、決して足手まといにはなりません。父を助けてもらえるなら、どんなことでもします。どうかお願いですから同行させて下さい!」

「俺は指揮官じゃねえけれど、アンタの勇気を見て、連れて行くのを嫌がる奴はいやしねえ。皆そうだろう!?」

 トーニの呼びかけに隊員たちが「オー!」と、一斉に歓喜の雄叫びを上げた。

 ただ一人、マーベリック少尉を除いて。


 マーベリック少尉の気持ちも分かる。

 俺たちが雇われた使命を考えれば、ただ単に人質交換が無事に済めばいいという問題ではないし、親子共々無事に救出すればいい訳でもない。

 おそらく2人の救出に成功した直後に発動される指令は、敵の組織を完膚なきまでに叩き壊す事だろう。

 敵の本拠地での本格的な戦闘の最中に、俺達は救出した2人を守らなければならないのだから。

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