【Investigative meeting①(捜査会議)】
眺めの良いレストランでトーニと昼食を食べて、帰りはバスに乗った。
昼食時だからなのだろう、空いていて並んで座る事が出来た。
トーニは俺に窓際の席を取ってくれた。
ハンスもそうだけど“隊では女扱いはしない”と言う決まりがあるのに、うちの隊の男共ときたら、どいつもこいつも平時にはさりげなく俺のことをレディーとして大切に扱ってくれていることに少し気が引ける。
バスを降りて、ホテルに向かっているときに携帯が鳴る。
画面を見ると、16時ホテルに集合と書かれてあった。
「トーニ」
同じように携帯を見ていたトーニに声を掛ける。
「いよいよ、おいでなすったな」
「ああ」
現在時刻は14時30分。
まだ時間に余裕はあるが、俺達は急いでホテルに向かう。
もう直ぐホテルだと言う所まで来ると、トーニが急に立ち止まった。
「どうした?」
「い、いや、俺はチョッと用を思い出したから、ナトー先に行ってくれ」
「用って?」
「よ、用って、そ、その、つまり、なんだ……あー、そのー……」
つまり俺の誘いに乗って一緒に街に出たものの、いざホテルに帰るとなると、気が引けて来たと言う訳だ。
俺はトーニの腕をガシッと掴み「一緒に戻るぞ」と言った。
何も気が引ける理由など無い。
俺とトーニは自由時間を利用して、作戦の成功と安全を願って教会に行き、その足で5kmの坂道トレーニングをしてきただけ。
やましい事なんて何もない。
もしもハンスが居たとしても、これだけは胸を張って言えるし、ハンスなら必ず分かってくれる。
「おっおいちょっと待てよ。誰かに見られたら、どうするんだよ!」
「誰かに見られて何かマズい事でもあるのか?」
「だ、だって、おかしいだろう?ナトー、お前は隊内では男扱いなんだぜ」
確かにトーニの言う通り、外人部隊内では俺は男だ。
しかし、今の俺の身分は外人部隊とは何も関係のない、ただの旅行者。
そもそも、それを言うなら、俺がスカートを履いて来た時に咎めるべきところ。
「こら、フニャフニャするな!男らしくないぞ!」
「だって、よぉ~」
「周りをよく見ろ!俺に恥をかかせるつもりか?」
背の高い女に腕を組まれ、腰を引いてイヤイヤをしている不思議なカップルを、周りの人たちが変な目で見ていることにトーニも漸く気が付いたらしく急にシャキッとした。
「バカヤロー見せもんじゃねぞ!さあナトー行くぜ!」
トーニは急に勇ましくなったけれど、この高低の開き加減が子供みたいに見える。
もうチョット大人になってくれればいいのにな……。
「お帰り。早かったね」
ホテルのロビーにはニルスが待っていた。
部隊の人間に見られても恥ずかしくはないと、思っていたけれど、腕を組んだままホテルに入った瞬間に声を掛けられると少し気まずい。
「タイムは、どうだった?」
「タイム?」
「走って来たんだろ、あの坂道を」
「ああ、20分だ」
「それは凄い!トーニもやればできるじゃないか」
「なんで分かった?この格好なのに」
「そりゃぁナトちゃんだもの。それにしても綺麗だね」
急に綺麗と言われて、胸がキュンと鳴る。
“あれMDAまだ効いているのかな??”
16時が近くなると、皆続々とホテルに戻って来た。
結局ホテルに待機していたのはニルスとマーベリックだけで、他は全員外出していた。
なんとガイドのキャスまでも。
16時に会議室に集められた。
スッカリだらけていた一同の顔が緊張で引き締まる。
正面のテーブルには俺達を出迎えたフランス大使館の専門調査員とサオリ、そしてその横に女子大生風の可愛い金髪の女性が並んでいた。
何故かビデオカメラが三脚にセットされ、俺達を撮影しているのが気になった。
会議の様子を撮影するのであれば、カメラは俺たちの方からサオリたちを映すはず。
俺たちの方を向けたって、何か発言するわけでもなく、ただ緊張した顔が映るだけのこと。
「みなさん集まったようですから、これから会議を始めます」
専門調査員が飄々とした顔つきで、会議の開始を告げる。
「先ず依頼主の日本の株式会社東亜東洋商事から本日は同社の所長室長を務められておりますサオリ・カシワギ様と、事件の被害者にあたるマルタ・クラウチ様に同席頂きました」
事件と聞いて皆がざわつく。
サオリはSISCONとしてではなく、日本の大手商事会社の幹部社員として来ていた。
「依頼内容につきましては、同社と事業提携を結んでいるクラウチ紡績の社長、ジョージ・クラウチ氏が1ヶ月前に武装した謎のグループにより誘拐された事件がありまして、そのクラウチ氏の捜索と救出になります」
「それは警察と合同捜査と言う事ですか?」
マーベリックの質問に、専門調査員は警察とは別行動となる事を告げる。
「警察とは別と言っても、我々には土地勘も無く、捜査内容を知らないばかりか事件が有ったことも今迄知らなかった訳だが、捜査協力くらいは有るのか?」
「捜査自体、事件の初期段階で打ち切られており、警察も詳しい状況を把握していないのが現状です」
「それじゃあ我々が来ても意味が無いじゃないですか、我々は軍人であって警察や捜査のスペシャリストではない」
「確かに……」
専門調査員の曖昧な返事に皆が、またざわついた。




