【Cold sweat training②(冷や汗トレーニング)】
トーニに礼拝が終わった後、走るから着替えを用意しておくようにと伝えて一旦お互いの部屋に戻った。
礼拝に着ていく服は地味な方がいいのだろうが、持って来た数少ない服の中で“地味な服”と言うのは“質素な服”となってしまう。
“これじゃあ、まるで作業服じゃないか”
もちろん作業服のつもりで持って来たわけではないが、今日の俺にはその服がそう見えたので止めた。
ライトブルーのブラウスは直ぐに決まったが、アイボリーのチノパンを合わせて見て、また迷った。
ブラウスを着たまま、パンツは後にしてランニング用の服を選ぶことにする。
今日のランニングコースは5㎞。
距離は短いがその行程の全てが登りで、標高2600mの市街地から一気に標高2900mまで駆けのぼるハードなRunとなる。
“ジャージの長ズボンでは、登りにくそうだな……”
長ズボンをベッドに捨てて、次はロングタイツを取って合わせてみる。
何の模様も入っていない只真っ黒なランニングタイツ。
いったん履いて見て、窓の外に見える明るい空を見て止めた。
“今日の青い空には似合わない”
独りで、そう呟いて、ランニングタイツを脱ぐ。
残るのはショートパンツだけ。
一応これもランニングウェアーだけど、持って来た目的は、万が一休暇でカリブ海で泳ぐことになった場合に水着の上に履こうと思って持って来たもの。
履いてみると、長い脚が強調されて可愛いと思ったので、これに決めた。
決めた理由が、チョッと不順。
“あっ、スポーツブラ!”
慌てて一旦着たブラウスを脱いで、ブラを取り換えた。
「お待たせ!」
「な、なぁ~に、俺も丁度今来たところだ」
トーニの格好は、ベージュのチノパンに白のカッターシャツ。
それに青のリュック。
俺のリュックは空色だが、型は一緒。
部隊の購買で買った奴だが、似合っている。
こいつ、なかなかセンスがいい。
特に待ち合わせ時間を決めた訳ではないが、下に降りた時にもうトーニが来ていたのでそう言ってロビーの時計を改めてみて見ると、朝食後に分かれてから既に30分も経っていた。
だからトーニは、どもったのだ。
“相変わらず嘘が下手”
思わず笑ってしまう。
「ナッ、ナトー!オメー、その恰好!!」
「なっ、何か変か!?」
「いや、変じゃねえが……ビックリした」
トーニが驚くのも無理はない。
俺の服装はブラウスに、スカート。
寧ろ、そこまで言ってくれて喜んでくれる顔が嬉しかった。
「着替えるのが面倒だから、スカートにしたが、似合わないか?」
「いや、凄く似合っている。でも着替えるのが面倒って?」
「ほら、スカートの下にジョギング用のショートパンツ」
俺がスカートを捲って見せると、トーニが慌ててそれを隠すようにした。
顔はまだ走ってもいないのに、汗だく。
「では、行くぞ」
「おっ、おう」
俺たちはホテルを出て、街に出た。
フランス大使館の前を通り過ぎ、ガジェ94の大通りを東に曲がり500mも歩くと直ぐに目的地であるレンガ造りの美しいサンホセ修道院が見えて来た。
「観光地か?」
「いや、ただの修道院だ」
「綺麗だな」
観光地では無い事にガッカリするかと思っていたら、トーニは楽しそうに“綺麗”だと言って笑ってくれた。
小さな丘を登り、外観とは全く違う真っ白な礼拝堂に入り、作戦の無事を願ってお参りした。
いつもお茶目なトーニも、イタリア人らしく真面目にお祈りをしていた。
さすがにローマの、お膝下だけの事はある。
礼拝を済ませて、俺達は化粧室を借りて、それぞれ着替えた。
俺はスカートとブラウスを脱ぎ、Tシャツを着るだけ。
上下の服を脱いだ後スポーツブラの胸の位置を合わせてTシャツを着て、服をリュックに仕舞い外に出ると、丁度トーニも一緒に出て来た。
お互いの服を見てお互いに、アッと声を上げた。
俺の服装はグレーが基調で、Tシャツの袖の部分とパンツの後ろの部分が黒のスポーツウェア―。
トーニも同じ柄で、パンツが長ズボンになっているタイプで、お揃い。
「「お前、それ購買で買っただろう!」」
声が揃う。
「なんで黒とかブルーもあったのにグレーを買った!?」
「オメーこそパープルとピンクも有っただろう!?それになんで、購買で買った?」
「それは……」
いつも着る物に無頓着な俺の失敗だ。
トーニは言わなかったが、年頃の娘なら街で着る物をワザワザ購買では買わない。
「まあいい。さあナトー走るぞ!」
「お、おう!」




